Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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振戦が目立つ遺伝性脊髄小脳変性症はなにか?

2024年06月27日 | 脊髄小脳変性症
Tremor Other Hyperkinet Mov誌の最新号に興味深い図表が掲載されていましたのでご紹介します.標題の疑問に対するScoping review論文の表で,姿勢時(運動時)振戦,安静時振戦,頭部振戦の3項目についてヒートマップ図にしています.一目瞭然で分かりやすいです.とくに色の濃い(=出現頻度の高い)SCA12,SCA2,SCA3,SCA15/SCA16,SCA27について本文の解説を簡潔にまとめます.



①SCA12(インドに多く,本態性振戦と間違えうる)
PPP2R2Bの5’UTR領域にあるCAGリピートの伸長で,最初に発見されたのはドイツ系アメリカ人1家系.その後インド人家系が相次いで報告された.渉猟した限り日本人での報告はない.振戦はほぼ全例で認め,初発症状として高頻度に現れる.左右差あり.上肢の姿勢時振戦が最も多いが,運動時・安静時振戦もあり(コメント欄に動画).頭部振戦が多い.声帯,顎,舌,口周囲,体幹にも認める.ジストニアをよく合併し,dystonic tremorを呈する.振戦が出現したあとに運動失調が出現すること,アルコール摂取で改善することから,本態性振戦と誤診される.

②SCA2(頭部振戦が多い)
SCA2患者の49.6%に振戦が見られ,9.7%で初発症状となるという報告がある.姿勢時または運動時振戦が多く,安静時振戦は稀だが,パーキンソン病様の表現型を呈することがある.頭部,体幹(起立性),口唇,舌,軟口蓋の振戦を呈し,特に頭部が多く,35%に合併するという報告もある.パーキンソニズムを呈する症例ではレボドパに反応することがある.

③SCA3(2種類の振戦を呈し,ジストニアを伴いうる)
SCA3患者の8.3%に振戦が認められると言う報告がある.姿勢時・運動時および安静時振戦が認められる.体幹,起立時に認める.速い振戦と遅い振戦(6.5-8 Hzと3-4 Hz)の2種類が報告され,遅い振戦に対しレボドパが有効なことがある.振戦とジストニアの関連が示唆されている.クロナゼパムの有効例がある.

④SCA15/SCA16(日本人家系も報告されている)
同じITPR遺伝子変異より生じる同一の疾患と考えられる.上肢,体幹,頭部の姿勢時振戦を呈する.引用文献の2家系のうちの1家系の患者さんを診察したことがあるが,頭部振戦と起立時の振戦が目立ち,運動失調を認めるのに長距離マラソンができる患者さんで印象的であった.
Neurology. 2004;62(4):648-51.(doi.org/10.1212/01.wnl.0000110190.08412.25

⑤SCA27
FGF遺伝子変異で,SCA27Aと27Bが含まれる.SAC27AはFGF14遺伝子のヘテロ接合点突然変異,27Bは第1イントロンの深部に存在するGAAリピート伸長で,最近の報告では200リピート程度が発症の閾値となる.私達が経験することが多いのはSCA27Bで,姿勢時振戦が16%に認められるとする報告がある.

Table 1が各タイプごとの詳しい情報が書かれていますので,ご確認いただければと思います.

Mukherjee A, et al. Tremor in Spinocerebellar Ataxia: A Scoping Review. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2024 Jun 20;14:31.(doi.org/10.5334/tohm.911)オープンアクセス

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