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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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硬膜外自家血パッチが効かない低髄液圧性頭痛で考えるべきこと

2005年10月13日 | 頭痛や痛み
 低髄液圧性頭痛は国際頭痛学会によると3つに分類されている(① 7.2.1 硬膜穿刺後頭痛,②7.2.2 髄液瘻性頭痛,③7.2.3 特発性低髄液圧性頭痛).このうち,③の概念のもととなった特発性低髄液圧症候群(spontaneous intracranial hypotension :SIH)は1983年に Schaltenbrand により初めて報告された症候群であり,腰椎穿刺などの外的誘因がなく頭蓋内圧の低下を来たす.主症状は起立性頭痛で,一般に起立後15分以内に起こり,横になって30分程度で改善・消失する(体位性頭痛).平均発症年齢は40歳前後と言われ,約3:1の割合で女性に多い.予後は一般的に良好だが,時には硬膜下血腫の合併が認められる(bridging veinが伸展により破綻するらしい).SIHの原因は特発性の髄液漏出であることが多く,硬膜裂孔,または脆弱なくも膜嚢胞から漏出する.軽い頭部外傷やむちうち症に続発することも多いと言われる.正確な診断はRI脳槽シンチやCT myelographyにて髄液漏出を検出すべきであるが,腰椎穿刺による低髄圧(60mm H2O未満)をもって診断がなされていることが多いのではないかと推測される.頭部MRIも診断に有用で,三大特徴として,①硬膜肥厚・硬膜の造影剤による増強効果,②小脳扁桃下垂,③硬膜下水腫(拡張静脈からの血漿成分が漏出)が挙げられる.脊髄のどの部位に髄液漏出が多いかというと,頚・胸椎移行部に多いとする報告がある(脳神経56;34-40,2004).この報告では,頚・胸椎移行部13例,脊椎全長2例,頚椎1例と報告されている.
 治療については.安静,水分摂取,カフェイン投与,グルココルチコイドなどが有効であるが,改善が認められない場合,硬膜外自家血パッチが試みられる.髄液漏出部位の近傍の硬膜外腔(一般に腰椎レベル)に自家血10~20mlを注入する方法で,血液が硬膜を圧迫し,髄液漏出が減少する結果,髄液圧の上昇をもたらす.ただし,自家血パッチでも効果の得られない症例が3割程度存在すると本邦から報告されている.無効例の中には①髄液漏出部位が複数存在する例,②髄液の産生能自体が低下している例,③血液凝固異常を呈する症例(XIII因子欠損など)④精神的要因を有する例,⑤そもそも診断自体があやしい例,が含まれていると推測される.
 今回,通常の自家血パッチが無効であった低髄液圧性頭痛の原因として,頚椎レベルの髄液漏も考慮すべきであること,さらに治療として頚椎レベルの自家血パッチが有効であるというcase seriesが報告されている(4症例).いずれの症例も腰椎レベルの自家血パッチが無効か,短期間しか効かず繰り返し施行されているが,MRIないしCT myelographyにて頚椎レベルでの髄液漏出が明らかになり,頚椎自家血パッチ(下部頚椎~頚胸髄移行部レベル)を行ったところ, 1回の施行で全例著効したという.
 すでにNeurology誌のNeuroimageの欄などで自家血パッチ後のMRI像が報告されているが,注入血液は数椎体分は硬膜外腔を移動するようである.しかし,さすがに腰椎に注入した血液が頚椎まで広がることはなく,頚椎レベルでの髄液漏出に対しては頚椎レベルの自家血パッチが必要になるというのは理に適った話である.ただし,頚椎レベルの穿刺・注入は,頚髄・神経根の損傷・圧迫,chemical meningitis,neck stiffnessなどを合併するリスクもあり,熟練した麻酔科医などとの連携の上,行う必要がある(安易に行える治療ではない).いずれにしても低髄液圧症候群は患者さん団体などの努力やマスコミ報道などでよく知られるようになったわけだが,上述のようにさまざまな病態が低髄液圧症候群のなかに含まれているのでは?という懸念が常に付きまとう.この疾患が臨床の場にきちんと受け入れられ,的確な治療が行われるようになるためには,感度に加え特異度の高い診断基準を作ることが大切ではないであろうか?

Neurology 65; 1138, 2005 
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