Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗パーキンソン病薬(ドパミン・アゴニスト)と心臓弁膜症(その2)

2007年03月19日 | パーキンソン病
 以前,当ブログでも取り上げたが,抗パーキンソン病薬である麦角系ドパミンアゴニスト(pergolide mesylateペルマックス,cabergolineカバサール)では心臓弁膜症(閉鎖不全症)のリスクが,非麦角系ドパミンアゴニスト(pramipexole dihydrochlorideビ・シフロール,ropinirole hydrochlorideレキップ)より高いことが指摘されている.今回,ペルマックスと非麦角系ドパミンアゴニストとの間で,薬剤使用量,年齢などをマッチさせて心臓弁膜症の合併を比較した検討が報告された.方法はcase-control studyで,両群間で心エコー所見を比較している.ペルマックスを内服する36例の特発性パーキンソン病患者と非麦角系ドパミンアゴニスト(ビ・シフロールもしくはレキップ)を内服する36例との間で,心臓弁閉鎖不全症の頻度,重症度を比較している.以前取り上げた論文とは異なり,閉鎖不全症の有無による評価ではなく,半定量的にvalve score(1 indicates trace; 2, mild; 3, moderate; and 4, severe)を用いて重症度も評価している.また閉鎖不全の程度が各スコアの中間である場合は,例えばmildとmoderateの中間であれば2.5として計算している.

 結果としては,valve scoreをmean ± SD で示し,ペルマックスと非麦角系ドパミンアゴニストのスコアを順に記載すると,大動脈弁では0.83 ± 1.23 vs 0.19 ± 0.53 (P = 0.01),僧帽弁では1.42 ± 1.0 vs 0.39 ± 0.65 (P<0.001),三尖弁では1.43 ± 1.0 vs 0.19 ± 0.53 (P<0.001)で,いずれも有意にペルマックス群が重症であった.累積内服量には両群間で有意差はなかった(P =0.18).以上の結果からペルマックスは長期間使用した場合,心臓弁閉鎖不全症を来たす可能性が再確認され,非麦角系ドパミンアゴニストではその危険性が低いという結果になった.

 ただ今回の結論に文句をつけるわけではないが,ちょっと釈然としない部分もある.というのは,心臓弁閉鎖不全の程度を順に0, 1, 2, 3, 4と5段階評価したわけだが,これは順序尺度(ordinal scale)にあたる.例えばYahr分類やmodified Rankin scaleもそうだが,上下関係あるいは大小を示す尺度ではあるものの,その間隔や比率は一定ではない.例えばお寿司屋さんでお寿司を1.並,2.上,3.特上と分類したところで,特上は並の3倍のおいしさではないのと同じことである.順序尺度において平均や標準偏差を求めることは妥当ではなく,それぞれの割合(%)が示されるべきで,加減などの演算には本来意味がないはずだ.しかし,現実には,何のためらいもなくそれらを得点化し,平均を求める論文が少なからずある(本論文では閉鎖不全の重症度をmean ± SDで示しているが,本来,中央値を用いるべきだろう).単に「高度な統計解析が可能になるから」とか「みんながしているから」という理由で,順序尺度を間隔尺度(interval scale)ないし比率尺度(ratio scale)にすり替えてしまってよいものだろうか?

 また本論文では両群の平均値の比較をノンパラメトリックにMann-WhitneyのU検定を用いて行っている.例えば脳虚血の分野の論文で,有名なt-PAとかNXY-059の効果判定は,NIHSSやmodified Rankin scaleを「Mantel-Haenszel検定」を用いて比較していた.私は統計が得意ではないので詳しい方がいたら教えていただきたいのだが,今回のようなケースではどんな統計処理がベターなのだろう?

Arch Neurol 64:377-380, 2007 
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