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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(9月25日) 

2021年09月25日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ワクチン接種をしても重症化しうる人を特定するリスク計算機の開発,ワクチン・ナショナリズム(国家主義)は,結局は自分の首を絞める,mRNAワクチンは医療従事者の症候性COVID-19を予防する上で,リアルワールドでもきわめて有効,家庭でも可能な迅速抗原検査キットの利点・欠点・注意点,COVID-19に合併する頭痛は急性鼻副鼻腔炎症状と関連がある,7日以上症状が続き,酸素吸入を必要とした患者にレムデシビルは有効ではない,です.

mRNAワクチンは重症化の防止にとくに有効であることが示されていますが,それでも重症化してしまうケースがあります.どのような場合に重症化するかを明らかにした研究が英国から報告され,ハイリスク群としてダウン症,腎移植,ケアホーム入居,化学療法中,HIV/AIDS,肝硬変,神経疾患などが示されました.周囲にいる人はワクチンを接種をきちんとするなど,感染をさせないことが大事です.またワクチンの国別配分の不均等の原因となる「ワクチン・ナショナリズム(国家主義)」が問題になっていますが,理論モデルにてワクチンへのアクセスが低い地域にて感染が持続し,人の移動による感染の輸入や新たな変異株の出現で,結局は自らの首を絞めることが示されました.最近読んだ「他者の靴を履く―アナーキック・エンパシーのすすめ―(ブレイディみかこ)」のなかに「利他的であることは利己的であること」,つまり「自分以外のことを慮って行動したほうが,結果的には自らのためにもなる」という文章がありました.他者を考えるエンパシーが問われているのだと思います.

◆ワクチン接種をしても重症化しうる人を特定するリスク計算機の開発.
英国成人を対象に,COVID-19ワクチンを1回または2回接種した後の死亡および入院のリスクを推定するリスク予測アルゴリズムが発表された.評価項目は一次アウトカムをCOVID-19関連死亡,二次アウトカムをCOVID-19関連の入院とした.ワクチン接種者695万2440人のうち,515万310人(74.1%)が2回ワクチン接種をしていた.死亡2031例と入院1929例のうち,死亡81例(4.0%)と入院71例(3.7%)は2回目のワクチン接種後14日以上経過していた(→つまり死亡の96%がワクチン未接種者であった).COVID-19による死亡率は,年齢,生活困窮度,男性,インド・パキスタン系の民族出身者で増加した.原因別ハザード比は,ダウン症(12.7倍),腎移植(8.1倍),鎌状赤血球症(7.7倍),ケアホーム入居(4.1倍),化学療法中(4.3倍),HIV/AIDS(3. 3倍),肝硬変(3.0倍),まれな神経疾患(2.6倍),最近の骨髄移植または臓器移植の経験(2.5倍),認知症(2.2倍),パーキンソン病(2.2倍)であった(図1).



入院についても,同様のパターンが見られた.これらの結果から作成されたリスクアルゴリズムは,検証コホートにおいても良好な結果であった.ワクチン接種をしても重症化しうる人を特定するリスク計算機「QCovid® risk calculator」は公開され,以下のサイトから利用できる(図2).
BMJ 2021;374:n2244.(doi.org/10.1136/bmj.n2244)



◆ワクチン・ナショナリズム(国家主義)は,結局は自分の首を絞める.
ワクチンは公衆衛生上および経済上の莫大なコストを軽減するための強力な手段であるにもかかわらず,ワクチンの配分は国によって不平等なままである.つまり,一部の国ではワクチンの迅速な導入により,感染・入院・死亡者数は減少している.しかし世界の多くの地域では,ワクチンへのアクセスがほとんどなく,感染が持続している.つまりワクチンの国別配分がCOVID-19の動態と制御に与える可能性がある.ワクチンへのアクセスが高い地域(HAR)と低い地域(LAR)という2つの仮想地域における患者数とウイルスの進化について,免疫疫学モデルを用いて検討した研究が報告された.この研究では現在問題になっている「ワクチン・ナショナリズム(国家主義)」が疫学的およびウイルスの進化論的にどのような影響を及ぼすかを検討するため,ワクチン備蓄というシナリオを追加した(オンライン・アプリを使って,追加のシナリオを検討することができる).例えば図3では,HARは総ワクチン供給量の一部(f)をLARと共有し,その他の点では,両国の疫学的動態は独立(非結合)しており,両国間に移民はいないことを示している(η=0).このモデルから分かったことは,まずワクチンを世界で共有することで,地域間の総患者数を最小化できることである.ただし,各地域の人口や感染率が異なる場合,変異株の出現やワクチン入手に応じて,いくつかの微妙な変化が生じてくる.その結果,LARで感染が持続すると,ウイルスの進化の可能性が高まり,世界的な感染に影響を与える新たな変異株が出現する可能性が高まる.以上より,ワクチンを迅速かつ公平に配分することの重要性,すなわちLARにワクチンを輸出することの重要性が示唆された.加えて世界が協力してワクチン接種キャンペーンを行うとともに,感染者の国内輸入を防ぐために適切な介入を行うことが不可欠である.
Science. Sep 24, 2021.(doi.org/10.1126/science.abj7364)



◆mRNAワクチンは医療従事者の症候性COVID-19を予防する上で,リアルワールドでもきわめて有効.
米国の25州の医療従事者を対象としたmRNAワクチンの有効性を検討した研究が報告された.方法としてテストネガティブ法(検査陽性を症例,検査陰性を対照とした症例対照研究)を用いた.具体的には症例(case)をPCRまたは抗原検査が陽性で,COVID-19に類似した症状が少なくとも1つある場合と定義した.この結果,対象は症例参加者1482名の対照参加者1482名となった.1回接種のワクチン効果は,ファイザーワクチンで77.6%,モデルナワクチンで88.9%,完全接種のワクチン効果は,それぞれ88.8%,96.3%であった.ワクチンの有効性は,50歳で分けた年齢,人種・民族,基礎疾患,患者との接触の程度に応じて定義されたサブグループでも同様に確認できた.ワクチンの有効性は,2回目接種後3~8週目よりも9~14週目の方が低かったが,信頼区間は大きく重なっていた(図4).以上より,mRNAワクチンは医療従事者の症候性COVID-19を予防する上で,リアルワールドでも非常に有効であった.これらの医療従事者には,高度の危険因子がある人や,パンデミックの影響を受けている人種・民族も含まれていた.
New Engl J Med. Sep 22, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2106599)



◆家庭でも可能な迅速抗原検査キットの利点・欠点・注意点.
8月26日,FDAから緊急使用許可を取得したアボット社の「BinaxNOW」等の迅速抗原検査キットについてJAMA誌で利点・欠点・注意点について議論がなされた.以下,箇条書きで示す.
・ 「BinaxNOW」の値段は約530円.36時間以上の間隔を空けて,3日間で2回検査する.クレジットカード大で使いやすく,結果も15分で判明する.
・ PCR法ほど感度が高くない.しかしウイルス量が増加するほど,検出確率が高まる(PCRサイクル閾値が30以下の場合,75%で陽性となる).
・ ウイルスの検出にスパイクタンパクに依存しないため,新しい変異体は検査性能に影響を与えない.
・ 臨床試験ほど感度ほど高くない.感染後すぐに検査を行うなどタイミングが適切でないこと,自分や子どもの鼻から正しく検体採取ができないことが原因と見られている.このため検査法の解説動画が公開されている.
・ 症状が出てから5日以上経過した感染者から採取した検体は,PCRよりも陰性率が高まる.
・ 検査が1回陰性である場合,COVID-19感染を否定できない.しかし2回とも陰性となった場合は,感染していない可能性が高い.
・ 結果が出るまでのスピードと低コストにより,連続した検査が可能.よって学校など,定期的に検査を受けるような環境での使用に適する.
・ 米国では自宅での検査する人が増えるにつれ,検査結果がほとんど報告されなくなった.陽性となった人は医療従事者に報告をする仕組みが必要である.
・ ギリシャでは,ワクチン接種率を高めるために,9月中旬から,ワクチンを接種していない人に対して,職業に応じて週に1~2回の検査を有料で行うことを義務付けている.→ワクチンを接種しない権利には,社会への影響を考えれば,このような義務を伴う.日本でも今後,この議論は活発化すると思われる.さらなる検査キットの低価格化が望まれる.
JAMA. Sep 22, 2021.(doi.org/10.1001/jama.2021.15679)



◆COVID-19に合併する頭痛は急性鼻副鼻腔炎症状と関連がある.
COVID-19に合併する頭痛の原因は不明であるが,興味深いことに,多くは急性鼻副鼻腔炎の症状を合併していると言われている.今回,ポーランドから縦断研究が報告された.対象は130名(女性80名,平均年齢46.9歳)であった.初診時の頭痛は72%と高率で,急性鼻副鼻腔炎症状と有意に関連していた.鼻副鼻腔炎を有する患者における頭痛のオッズ比は3.5であった.国際頭痛分類第3版(ICHD3)により診断すると,頭痛は96%が全身性ウイルス感染症,51%が急性鼻副鼻腔炎であった.ただし急性鼻副鼻腔炎に起因する頭痛の項目C.3(副鼻腔にかかる圧力による頭痛の増悪)およびC.4(頭痛と副鼻腔炎の同側性)の感度は低かった.以上より,COVID-19では鼻副鼻腔の炎症が頭痛と関連するが,痛みのメカニズムはおそらくウイルスに対する全身反応にあると考えられた.ICHD3の急性鼻副鼻腔炎に起因する頭痛の項目は,最新の理解に合わせて修正する必要がある.
Cephalalgia. Sep 20, 2021.(doi.org/10.1177/03331024211040753)

◆7日以上症状が続き,酸素吸入を必要とした患者にレムデシビルは有効ではない.
欧州48施設から,COVID-19にて入院し,症状が7日以上続き,酸素吸入や人工呼吸器が必要な成人患者を対象に,レムデシビルと標準治療を併用した効果を,標準治療のみの場合と比較することを目的とした第3相試験(DisCoVeRy)が報告された.結論として2つの治療群間で,予後,死亡率,改善までの期間に差は有意ではなかった(オッズ比0.98[95%CI 0.77~1.25],p=0.85).重篤な有害事象の発生についても有意な差はなかった.3例の死亡例(急性呼吸困難症候群,細菌感染症,肝硬変)はレムデシビル群で見られた.
Lancet Infectious Dis. Sep 14, 2021.(doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00485-0)

ただし,Gilead Sciences社のHPを見ると,無作為化試験で,発症から7日以内の非入院COVID-19患者562名の検討で,28日目後の入院はレムデシビル群が偽薬群より87%少なかったと報告されている(0.7% vs 5.3%).レムデシビルを使用する場合には少なくとも「発症7日以内」で効果が期待されると言える.
Gilead Sciences社プレスリリース



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