Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月3日)  

2021年04月03日 | 医学と医療
今回のキーワードは,飲食店で感染対策を行うエビデンス,飲食店でマスク会食をするエビデンス,mRNAワクチンによる待望の胚中心の形成,「ワクチンパスポート」の根拠と政府の役割,無症状感染者でも3週間,唾液にウイルスを排出する,リポペプチドの経鼻投与による感染防止の成功(動物実験)です.

「まん延防止等重点措置」のなかでマスク会食が話題になっています.大阪府知事は会食の際のマスク着用を義務化したい考えなのに対し,神戸市長は「食事中にマスクを着けたり外したりすると,マスクに付着したウイルスを触る可能性がある」として否定的な見解を示しています.私たち医療者は,患者さんを診療するごとに携帯するアルコールで手指消毒をしますので,マスクを触ったら消毒するしかないと考えるのではないかと思います.ただ屋内での飲食店のリスクは飛沫感染だけでなく,空気感染も重要です.飲食店で感染対策に関するエビデンスを最初に紹介します.

◆飲食店で感染対策を行うエビデンス.
物理的距離(6フィート=1.8 m以上)を保つことが難しく,マスクを一貫して使用することができないレストランなどの屋内施設では,感染リスクが高まる可能性がある.2020年3月から4月にかけて,米国49の州とコロンビア特別区は,レストランでの店内飲食を禁止した.米国疾病対策予防センター(CDC)は,2020年3月1日から12月31日までの期間における,飲食店での食事の許可と,COVID-19患者数・死亡数との関連を検討した.レストランでの食事を許可後,41日から100日の間に1日当たりの感染者変化率が増加し,実施後61日から100日の間に1日当たりの死亡者変化率が0.9%ポイントから3.0%ポイントの範囲で増加した(図1).許可後すぐに増加しないのは飲食店をすぐに再開できなかったことや,客の感染への警戒感が原因と考えられる.%ポイントの増加は,1日の増加率の変化を意味するため,感染者数・死者数が指数関数的に増加することを示す.逆に,有効な飲食店対策は,相当数のCOVID-19感染と死亡を回避できる可能性がある.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:350–354(doi.org/10.15585/mmwr.mm7010e3)



◆飲食店でマスク会食をするエビデンス.
米国より報告された研究.エビデンスに基づき,屋内飲食店をマスク着用義務化後に再開した州と,マスク着用義務化前に再開した州を比較した.8週間後,マスク義務化をせずに再開した州では,643.1人/10万人の感染者が発生したのに対し,マスク義務化をした州では62.9人/10万人であった.死亡者数も,前者の31.7人/10万人に対し,後者は6.1人/10万人であった.図2が10万人あたりの予測患者数である.以上より,飲食店再開により感染者,死亡者数は増加するが,マスク義務化は対策として有効と考えられる(日本で議論されている食事中のマスク着用が行われているとは思えないが,それでも有効である).
この論文は昨年10月に発表されたもので,最新のJAMA誌における飲食店対策に関する小論文で紹介されていた.このなかで,屋内での営業を続ける飲食店に対し,マスク着用を義務付ける,十分な換気を行う,屋外での食事を提供する,60%以上のアルコールを用いた頻繁に手指衛生や清掃を行う,物理的な距離をとるためのレイアウトの工夫をするなどの対策が紹介されている.とくに換気が不十分な屋内空間で,無症状感染者が同席した場合,空気感染(エアロゾル感染)が生じるエビデンスを紹介している.対策は空気中の感染性ウイルスを運ぶ小さな飛沫や粒子の濃度を下げる換気しかない.CO2モニタリングなどの具体的な数値目標を設定すれば,飲食店も客も安心できると思う.
J Gen Intern Med. 2020;35(12):3627-3634(doi.org/10.1007/s11606-020-06277-0)
JAMA. April 1, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.5455)



◆mRNAワクチンは,持続する防御反応に必要な胚中心の形成を引き起こす.
COVID-19では持続する免疫反応に必要な胚中心の形成が抑制されることが知られている.このためワクチンにより,実際にリンパ節に胚中心が形成されるかは重要な関心事であった.米国から,ファイザーワクチンを2回接種した32名を対象に,末梢血およびリンパ節の抗原特異的B細胞反応を調べた研究が報告された.スパイク蛋白を標的としたIgG,IgAを分泌する形質芽細胞は,2回目の接種から1週間後にピークに達し,その後減少し,3週間後には検出されなくなった.形質芽細胞の反応は,血清抗スパイク結合抗体および中和抗体のピークと一致していた.腋窩リンパ節針生検では,全例でスパイク蛋白に結合する胚中心B細胞が同定された.胚中心は複数の参加者の2つの異なるリンパ節で認められた.さらにスパイク蛋白に結合する胚中心B細胞と形質芽細胞は,ワクチン後7週間まで流入領域リンパ節に維持され,形質芽細胞プールの多く部分はIgAにクラススイッチされた(つまり粘膜組織に移行して感染防御機能を果たす可能性がある).胚中心B細胞由来のモノクローナル抗体は,主に受容体結合部位を標的としていた.以上より,mRNAワクチンをヒトに接種すると,持続的な胚中心B細胞反応が誘導される.これによりメモリーB細胞や形質細胞への分化を介して持続的な液性免疫の確率が可能になることが示された.
Immunity. 2020;53(6):1281-1295.e5 (doi.org/10.1016/j.immuni.2020.11.009)

◆「ワクチンパスポート」の根拠と政府の役割.
医療従事者でさえワクチン接種が遅々として進まない日本に対し,先進国ではワクチン完了者に対する「ワクチンパスポート」の議論が活発化している.米国,英国,EUが検討中,オーストラリア,デンマーク,スウェーデンが導入を表明しており,イスラエルは,すでに「グリーンパス」を専用アプリとして発行し,ホテル,ジム,レストラン,劇場,音楽会場などへの入場を許可している.アメリカ・ニューヨーク州でも,ブロックチェーン基盤(ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで,データの耐改ざん性・透明性を実現すること)の電子パスポート「エクセルシオール・パス(図3)」が導入されるが,劇場,アリーナ,イベント会場,大規模な結婚式への参加を許可するものである.
「ワクチンパスポート」の基本的な考え方は「自由や社会的に価値のある活動を制限する公衆衛生上の制限は,検証可能なリスクに合わせて調整されるべき」というもので,市民権法や公衆衛生の実践における中心的な原則であるそうだ.一方で反対意見もある.ワクチン接種者でも変異株による感染リスクが不明なことや,ワクチン接種者の優遇は,宗教的・哲学的にワクチンに反対する人にペナルティを与えることなどである.しかし今後さらにワクチンのエビデンスは積み重ねられること,ワクチン接種の拒否が,集団免疫の達成を困難にさせることを考えると,その拒否に見合った何らかの負担を負わせることは公平である考えである.
一方,「ワクチンパスポート」はコンサート・スポーツ会場,クラブ,レストランなどで運用されるため,政府は民間企業に対し,違法な差別となるような「ワクチンパスポート」の使用を禁止する明確な指示を含む,基準と境界線を定める必要がある.さらに政府は,民間で認証規則を作成する者が,ワクチンの有効性と限界に関する最新の科学的情報に容易にアクセスできるよう準備する必要がある.
New Engl J Med. March 31, 2021(doi.org/10.1056/NEJMp2104289)



◆口腔の上皮細胞に感染し,無症状感染者でも3週間,唾液にウイルスを排出する.
COVID-19では,味覚障害,口渇などの口腔内の感染を示唆する徴候を認めるものの,口腔内感染の詳細については不明であった.今回,口腔内に存在する細胞の種類を,まず単一細胞RNA sequencing (scRNAseq)を用いて特定した後,感染に必要なACE2とTMPRSSの発現を各細胞において検討した研究が,英国と米国の共同研究として報告された.結果として,唾液腺で22種類,歯肉で28種類の細胞クラスターを特定し,34の細胞亜集団(上皮細胞12種類,間質細胞7種類,免疫細胞15種類)に分類した.また唾液腺と歯肉のほとんどの上皮細胞には,程度の差はあるもののACE2,TMPRSSが発現していた.実際にCOVID-19感染者の唾液中には,ACE2とTMPRSSを発現する上皮細胞が存在し, SARS-CoV-2感染が示唆された.無症状感染者でも3週間近く口腔内でウイルスが作り続けられることも示された(図4).唾液中のウイルス量は味覚障害と相関していた.症状が回復すると,唾液中にSARS-CoV-2に対するIgG抗体が検出されるようになった.以上より,口腔内の上皮細胞が感染の重要な場所であることを示され,ウイルスを含む飛沫を排出することが明らかになった.
Nat Med. Mar 25, 2021(doi.org/10.1038/s41591-021-01296-8)



◆リポペプチドの経鼻投与によるSARS-CoV-2ウイルス感染の防止.
SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白は,ACE2を介して宿主細胞に結合し,膜融合により細胞への感染を開始する.オランダと米国の共同研究で,感染の重要な第一段階を阻害するリポペプチド融合阻害剤を設計した.具体的には,スパイク蛋白はACE2に結合してから大きく構造が変化し,細胞膜同士の融合が起こるが,その過程を阻害するようにリポペプチドを設計した.in vitroでの有効性とin vivoでの生体内分布に基づいて,二量体を選択して動物モデル(フェレット)で評価を行った.ペプチドにポリエチレングリコールやコレステロールを付加し,細胞膜からエンドソームに取り込まれ,宿主細胞の膜に融合して,ウイルス粒子と細胞膜との融合を阻害する.感染したフェレットと24時間同居させる2日前にこのペプチドを鼻腔内投与(点鼻)すると,未投与のフェレットでは100%感染するにも関わらず,投与したフェレットは感染から完全に免れた(図5).変異株にも有効であった.これらのリポペプチドは非常に安定しており,臨床試験次第であるが,みんなで食事する前に鼻にスプレーすると感染を予防できるということが可能になるかもしれない.ただポリエチレングリコールを用いていることから,将来抗体ができて,mRNAワクチン接種時にアレルギー反応が生ずる可能性はある.
Science. 2021 Mar 26;371(6536):1379-1382.(doi.org/10.1126/science.abf4896)



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