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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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両側性横隔神経麻痺

2005年12月10日 | その他
 特発性呼吸困難の稀な原因として横隔神経麻痺が挙げられる.文献的には感染後や手術後に発症し,頚部や肩の痛み,上肢の麻痺を合併することが多い.immune brachial plexus neuropathyの範疇で捉えられることが多いようだが,今回,頚部・肩の痛み,上肢の麻痺,さらに先行感染も認めない両側性横隔神経麻痺(bilateral isolated phrenic neuropathy; BIPN)の4症例がStanford大から報告されている.
 典型例を提示すると,43歳男性が息切れで発症.亜急性の経過で数日かけて増悪,呼吸困難により10m程度しか歩行できなくなった.先行感染,外傷,最近のワクチン接種なし.胸部X線では横隔膜の挙上は当初一側に認められたが,のちに両側性になる.呼吸機能は1秒率正常,%VCは22%まで低下.髄液蛋白は61mg/dlで細胞数は正常.AchR抗体,GM1抗体,血清CK値は正常.電気生理学的には横隔神経刺激でM波は認められないが,上肢の伝速や,脳神経領域を含む反復刺激は正常.右横隔膜の針筋電図ではvoluntary motor unitは認められず,脱神経電位の所見.3ヶ月ごとに繰り返したIVIgは無効,発症後7年経過して改善なし.
 その他の3例も同様で,40~70歳代で発症,麻痺は一側から両側に進行し,横隔神経以外の神経障害は伴わない.検査では%VCは22-47%,髄液蛋白上昇を認めない例もある.3例でIVIgを施行したが無効,1例はステロイドパルスを選択したがこれも無効.いずれも予後不良.
 問題はこの病態が独立した疾患であるのか,そして,もしそうであるならば原因は何かである.PubMedをチェックしたところphrenic nerve palsyの原因で圧倒的に多いのが,手術後に合併するもの,つぎに immune brachial plexus neuropathy,稀なものとしてCMT type 2C(横隔神経麻痺と声帯麻痺が特徴)といったところなので,やはり独立した疾患の可能性はある.原因については今のところほとんど手付かず.横隔神経の性格上,伝導ブロックの有無も調べられない.まずはこの疾患がどの程度の頻度で存在するのか検討すべきと思われるが,そのためにはこういう疾患概念が存在することを認識する必要があるのだろう.

Neurology 65; 1499-1501, 2005
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