Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月11日)  

2022年06月11日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVIDは1年後でも15.1%の症例で症状が持続する,急性期に脳炎・脳卒中・痙攣を来した患者の長期的予後は不良,Long COVIDにおける慢性疲労の原因としてミオパチーがある,多発性硬化症患者はCOVID-19罹患後に36.9%の症例で神経所見の悪化が見られる,多発性硬化症におけるワクチン接種後の増悪は12%にみられ既存の症状の増悪が主,重症筋無力症におけるCOVID-19ワクチン接種は重症度の悪化と関連しない,です.

Long COVIDへの罹患は10~30%と言われています.これらの患者がどれくらいの期間,罹患しているかを知ることは,職場や学校に復帰するためのリハビリや支援を計画する上で重要です.今回,この問題をWHOの基準に則り世界的に解析した大規模研究が報告されました(現時点ではプレプリント論文).急性期に入院した症例は中央値で8.84カ月,急性期に軽症であった症例は短くなり中央値3.99カ月でした.しかし12ヵ月後もlong COVIDが持続している症例が15.1%も存在していました.オミクロン株になり感染者数が増え,long COVID症例も増加しています.社会にとって大きな問題になります.感染予防の緩和を進めるのであればlong COVIDへの本格的な対策(診療センター設置や,病態や治療研究のための予算確保,ケアモデル・社会的支援の確立)をセットとして行う必要があります.

◆long COVIDは1年後でも15.1%の症例で症状が持続する.
2020年および2021年にlong COVIDに罹患する患者数,症状の重症度,予想される回復パターンを国・地域別に推定することを目的としたsystematic reviewが報告された.long COVIDの3つの主要な症状クラスター(疲労,呼吸障害,認知障害)について,10カ国で進行中のコホート研究(1906人の市中感染者と1052人の入院患者)を共同で分析した.さらに3万7262件の市中感染と9540件の入院患者に関する公表データ,および130万件の感染に関するICDコード化された医療記録データを追加した.この結果,2020 年と 2021 年に世界では,1億4470 万人が,long COVID の3症状分類のいずれかに罹患していた.疲労,呼吸障害,認知障害の各クラスターは,全症例の51.0%,60.4%,35.4%で認められた(図1).



女性に多く,年代別では男女とも20歳代にピークがあり,働き盛りの年代にかけて多い特徴を認めた(図2).急性期に軽症であった症例は,急性期に入院した症例に比べ,推定回復期間が早かった(中央値3.99カ月対8.84カ月).12ヵ月後,15.1%が引き続き,long COVIDを呈していた.



medRxiv. 2022 May 27:2022.05.26.22275532(doi.org/10.1101/2022.05.26.22275532)

◆急性期に脳炎・脳卒中・痙攣を来した患者の長期的予後は不良.
COVID-19による入院患者で,神経症状を認めた転帰(再入院率および死亡リスク)を検討した研究が米国ニューヨークから報告された.対象はSARS-CoV-2検査結果陽性から6週間以内に神経疾患を合併した入院患者532名と合併しなかった対照532例を比較した.神経疾患の内訳は脳症(89.8%),脳卒中(12.4%),痙攣(7.1%)が最も多かった(図3).症例は対照よりもベースラインの神経学的併存疾患(36.3%対13.0%,p<0.0001),ICUでの治療(62.0%対9.6%,p < 0.0001) が多くみられた.退院した394名(74.1%)のうち55.8%が6カ月以内に再入院し,再入院中の死亡率は23.2%であった.以上より,急性期に脳炎・脳卒中・痙攣を来した患者の長期的予後は不良である.
Neurology. June 2, 2022(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000200006)



◆Long COVIDにおける慢性疲労の原因としてミオパチーがある.
Long COVIDにおける慢性疲労の原因として,ミオパチー(筋障害)の可能性が示唆されている.これらの患者を対象に,筋病理を検討した研究がデンマークから報告された.対象は最長14ヶ月間持続する疲労,筋肉痛,脱力感を訴える患者16名(平均年齢46歳)とし,針筋電図と筋生検を施行した.筋力低下を50%,筋電図異常を75%,病理学的変化を全例で認めた.筋線維の萎縮は38%に認められ,56%に筋線維の再生所見を認めた.COX活性の低下,異常クリステ等のミトコンドリア変化を62%に認めた.炎症も62%に認められ,T細胞,マクロファージおよび/または筋線維のHLA-ABC発現がみられた(図4).75%の毛細血管は基底膜と細胞を含めて障害を受けていた.2例では,筋線維のみならず神経や毛細血管にも異常な量の基底膜を認めた.以上より,long COVIDにおいて骨格筋が主な標的と考えられた.ミトコンドリア変化,炎症および毛細血管損傷は,エネルギー供給の減少により部分的に疲労を引き起こす可能性がある.ほとんどの患者の急性期症状は軽度から中等度であった.オミクロン株も長期的なミオパチーを引き起こす能力を持っている可能性がある.
Eur J Neurol. June 6, 2022(doi.org/10.1111/ene.15435)



◆多発性硬化症患者はCOVID-19罹患後に36.9%の症例で神経所見の悪化が見られる.
多発性硬化症(MS)患者におけるCOVID-19罹患の影響を検討した研究が米国から報告された.対象は111例で,女性が85例,平均年齢49.3歳,EDSS中央値2.5であった.41名(36.9%)にCOVID-19罹患後の神経所見の悪化が見られた.そのうち再発を2名(4.8%),偽再発を19名(46.3%),既存の関連症状の悪化を24名(46.3%)で認めた.神経所見の悪化は,COVID-19の入院(中等症・重症)(p=0.001),治療を要するCOVID-19(p=0.006),COVID-19の不完全な回復(p=0.0267)と関連していた.年齢,性別,人種,疾患期間,EDSS,疾患修飾薬の使用とは関連していなかった.
Mult Scler Relat Disord. June 6, 2022(doi.org/10.1016/j.msard.2022.103946)

◆多発性硬化症におけるワクチン接種後の増悪は12%にみられ既存の症状の増悪が主.
多発性硬化症(MS)において,COVID-19ワクチンを接種した際の新しい神経症状や再発の発生率,またCOVID-19感染後の転帰等について研究が米国から報告された.対象は333人で,うち292人がワクチン接種を受け,そのうち58%がワクチン接種後の副反応を呈した.12%が既存のMS症状の悪化を呈し,2.7%が接種後に新しい神経症状(再発)を呈した.62名が感染し,若年者の頻度が高かった.疾患修飾療法もB細胞療法も,特にワクチンの副作用,神経症状,SARS-CoV-2感染と関連はなかった.以上よりワクチン接種後の増悪は既存の症状の増悪が主で,新規症状の出現(再発)も生じうるが稀である(感染するよりも頻度が低い).
Neurol Clin Pract. March 16, 2022(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001164)

◆重症筋無力症におけるCOVID-19ワクチン接種は重症度の悪化と関連しない.
重症筋無力症(MG)患者に対するCOVID-19ワクチン接種について検討した研究がトロントから報告された.対象はCOVID-19ワクチン接種を2回受けたMG患者とし,後方視的な検討を行った.対象は200名で,平均年齢64.3歳,男性51.5%,全身性が82%であった.vMGII,SSQ,PASSという3つの評価法で,ワクチン接種後,最終フォローアップ時まで安定していた.初回接種後に60%,2回目接種後に56%の患者が副反応を呈した.以上より,COVID-19ワクチン接種は,MG患者においても忍容性に優れ,MGの重症度の悪化とは関連しなかった.副反応の有病率も一般集団と同じであった.
Muscle Nerve. June 08, 2022(doi.org/10.1002/mus.27657)


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