Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳神経内科医に求められる移行医療@Brain Nerve 6月号

2022年06月15日 | 医学と医療
特集「脳神経内科医に求められる移行医療」を企画しました.移行医療は重要な課題ながら,脳神経内科医のなかではまだ十分な議論ができておらず,残念に思っていました.かくいう私も数年前に2つの出来事を経験するまで,移行医療を実現する大切さを理解していませんでした.ひとつは地域のてんかん研究会で,ある小児科医から,小児期に発症し成人後も小児科で治療を継続する,いわゆるキャリーオーバーの問題にみんなで取り組むべきというご発表があり,その重要性を教えていただいたことです.発表後,小児科医から活発なご意見があったのに対し,脳神経内科医からはほとんど意見がなく対照的でした.そして岐阜大学小児科深尾敏幸前教授より「患者さんの希望を叶えるため,まず私達が連携を深めましょう」と声をかけていただきました.深尾教授は残念なことにその後,急逝されましたが,てんかんの移行医療の実現は,託された宿題のように感じています.

もう一つの出来事は,重症心身障害児や小児神経難病の患者さんが多数入院する病院を毎週回診する機会をいただき,脳性麻痺は定義上,非進行性の疾患のはずなのに,実は様々な進行性の変化を認めることを理解できたことです.成人脳性麻痺では健常者と比較して,脳卒中のハザード比は2倍,脊髄症に至っては8倍,さらに認知症,てんかん,睡眠障害,精神疾患の頻度も高いことが知られています(Smith SE, et al. Ann Neurol. 2021;89:860-871).その機序は不明ですが,成人の脳性麻痺患者さんの診療に成人科医師による治療やケアが不可欠であることを痛感しました.

しかし移行医療の実現には大きな障壁があります.小児科医は成人の医療に不慣れであり,逆に成人科医は小児の医療に不慣れで,小児期発症の障害が成人の生理にどのように影響するかについてほとんど理解できていません.この障壁を克服するには小児科医と成人科医のコミュニケーションを密にすること,そして互いの診療科について勉強し,経験する機会をもつことが求められます.その意味で,経験豊富な著者らが熱意を込めて執筆した本特集は,移行医療の啓発や実現に寄与すると確信しています.そして前述したSmithらも指摘していますが,脳神経内科の教育プログラムに小児神経学のトレーニングを追加することが不可欠です.現在の日本のように脳神経内科専攻医は内科学のみを研修するのではなく,関連する領域と必要に応じて自由に交流し,初期研修とは異なる高いレベルの研修を行うべきと思います.小児科のみならず,精神科,脳神経外科,リハビリ科等を含めた,柔軟な教育システムの再構築が必要であると考えます.(本特集のあとがきを改訂しました)

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★以前もご案内しましたが日本神経学会の移行医療によるアンケートへのリンクです.学会員限定ですが,未回答の先生はどうぞ宜しくお願いいたします.

★目次 特集 脳神経内科医に求められる移行医療
敬称略
オーバービュー(望月秀樹)
移行医療の現状と課題──脳神経内科の立場から(望月葉子)
移行医療の現状と課題──小児神経科の立場から(藤井達哉)
移行医療の外来診療(﨑山快夫)
千葉県移行期医療支援センターにおける取り組み(桑原 聡)
移行医療の支援体制(掛江直子)
脳性麻痺(荒井 洋)
小児期発症てんかん患者の移行医療(阿部裕一)
子どもの権利擁護に根差した移行医療──発達障害を中心に(田中恭子)
運動異常症を主体とした神経難病(佐々木征行)
筋ジストロフィー(松村 剛,齊藤利雄)

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