Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第15回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2021)ビデオセッション症例解説

2021年07月05日 | パーキンソン病
標題の学会(大会長.仙台西多賀病院 武田篤先生)が7月1日から3日にかけて行われました.WEBでの参加になりましたが,大変,勉強になった素晴らしい学術集会でした.私は「COVID-19と運動異常症update」という特別プログラムで講師を務めさせていただきました.私のMDSJの一番の楽しみは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の12症例の一覧をご紹介します.議論の時間も限られており,少々残念でしたが,GNAO1異常症など勉強になりました.

▶EV-1:治療可能な病態と考えられた進行性歩行障害を呈した50歳男性例

尿閉,便秘,下肢痙性と四肢腱反射亢進,足クローヌスにアキレス腱肥厚を認めた.血清コレスタノール若干高値.脳腱黄色腫症(CTX)を疑うもCYP27A1遺伝子変異なし.しかしケノデオキシコール酸の補充療法後進行はなし.
(回答)診断? 議論ではNiemann-Pick disease type C(NPC)の可能性が議論された.
→ やはりコレスタノールが上昇し,ケノデオキシコール酸の補充療法が有効であることを考えると,アセチル Co-A からコレステロールを経て胆汁酸が合成される経路で唯一,27-hydroxylaseをコードする CYP27A1 遺伝子が原因になるはずではないか?文献検索でもCTX mimicsとなる遺伝子変異の報告はないが・・・

▶EV-2:左大腿の不随意運動を呈した49歳男性

4年前から左大腿の筋肉がもこもこと動く.睡眠時も持続する.ミオキミア?半年前から左下肢痙性,左のlimping gait.自律神経症状あり.筋電図的にもミオキミア.
(回答)脊柱管内に石灰化を伴うL2-4高位に一致する髄膜腫.術後に不随意運動は消失した.

▶EV-3:手が勝手に動くことを主訴に受診した83歳男性例

本年2月から起床時から左手指の異常な動き(おでこを触るとき握るような動き)が出現.ふらつきもあり.左同名半盲と左上肢温痛覚消失.左手のAlien hand?偽アテトーゼ?舞踏運動?
(回答)右頭頂葉(中心後回病変)の脳梗塞.

▶EV-4:頻回に体をビクッとさせ書痙を呈した16歳男性

書字の際に筋緊張にて手が止まる.実際に筋トーヌス↑.局所性ジストニアと考えられるが,体幹のミオクローヌス,下肢振動覚低下もあり.さらに腹直筋にもミオクローヌスあり.全身性のミオクローヌス・ジストニア症候群.ゾニサミドで顕著に改善した.
(回答)診断? ミオクローヌス・ジストニア症候群で頻度の高いDYT11;SGCE (Sarcoglycan Epsilon)遺伝子変異なし.下肢振動覚低下はミオクローヌス・ジストニア症候群ではまれ.ADCY5遺伝子変異,瀬川病?むしろ腹直筋ミオクローヌスを認めることから脊髄病変のチェック,また固有脊髄性ミオクローヌスの鑑別診断である機能性障害の除外が必要.

▶EV-5:左右差のある静止時振戦を呈した67歳男性例

30歳初発のてんかん発作の既往,以後,バルプロ酸で治療.3年前から右上肢の安静時振戦.姿勢時にもあり.しかし再現性振戦ではなく,本態性振戦的だが,両上肢筋強剛,運動緩慢あり.MRI正常,DAT正常.スルピリド内服中で薬剤性パーキンソニズムを疑い,スルピリド1週間中止したが不変(本人の希望ですぐに再開).
(回答)バルプロ酸による薬剤性パーキンソニズム.バルプロ酸中止3ヶ月後に急速に改善した.バルプロ酸による振戦は有名だが,極めて稀.上肢の姿勢時振戦が多い.パーキンソニズムも生じる.

▶EV-6:四肢の筋緊張が亢進し会話も困難となった47歳女性

3日前から話をしなくなった.唸り声のみ.開口障害,上肢反射亢進,フルニトラゼパムが有効.ステロイドパルス療法を行ったが精神症状持続.下肢にも痙性.progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)?セロトニン症候群?
(診断)診断? 精神疾患を背景とした悪性カタトニア.機序不明.コメントとして,自己免疫疾患で,ある時点からステロイド精神病になった可能性が指摘された.

▶EV-7:振戦を主訴としてパーキンソン病が疑われていた60 歳代男性

右手の震えにて発症し,本態性振戦と言われた.しかし認知機能障害(HDS-R 13点)を合併していた.L-DOPAは効果が乏しかった.ある薬剤を追加したらある程度振戦は改善した.姿勢時に振戦が増強し, wing beating tremor様.hyperkinésie volitionnelle的で小脳性の要素もあるかもしれない.ミオクローヌスではないかという意見もあり.DAT左有意で低下
(回答)神経核内封入体病(NIID).皮膚生検で核内封入体.アマンタジンが有効であった.NIIDの振戦は歯状核の機能障害の可能性がある. 

▶EV-8:眼球運動障害,随意運動の持続性低下,失立失歩を呈し,Blink reflexで脳幹部機能障害を認めた一例

20歳代女性.左上下肢脱力により立てなくなった(失立失歩).失調,眼球運動障害,眼瞼下垂も認めた.免疫療法は有効だが繰り返す必要があった.運動は繰り返すと症状が目立つようになる.血漿交換を含む免疫療法前後で一過性に改善する.核酸テンソル画像でFA(fractional anisotropy)値に異常を認めたが,血漿交換を含む免疫療法前後で変化が生じる.
(回答)診断? 重症筋無力症では?という意見もあったが,自己抗体陰性,反復刺激陰性とのこと.診断不明.画像も重要だが,まずは症候学の議論が大切と考えさせられた症例.

▶EV-9:発作性ジストニア / ジストニア痛を呈する知的障害 45歳女性

小児期からの有痛性ジストニア.軽度の失調歩行を合併.ジストニアに対し,ガバペンチンが有効.てんかん発作合併なし.
(回答)ATP1A3遺伝子関連疾患.小児交互性片麻痺(alternating hemiplegia of childhood;AHC)に近いとのこと.しかしてんかん発作がなく,軽度の小脳症状を認めた点が本例の特徴.

▶EV-10:喘鳴を伴う痙攣様吸気動作と呼気開始困難による呼吸苦を認めた 1例

73歳男性.主訴は呼吸がしにくい.浅い呼吸は困難で,喉頭内視鏡では声門の吸気時の狭窄を認めた.以前で言うspasmodic dysphonia(最近はlaryngeal dystoniaに統一された).頸部筋のジストニア?もみられる.画像や検査所見など明らかな異常はなし.アーテンとリボトリールでかなり改善,遺伝子診断未.
(回答)respiratory laryngeal dystonia(特発性).→ 遺伝子変異に加えて,再発性上気道感染症,胃食道逆流,頸部損傷なども誘因になるので気になるところ.

▶EV-11:Guitarist's crampで発症した局所性ジストニアの一例

回線不良となり病歴聴取できず.
(回答)職業性ジストニアで発症した初めての瀬川病(DYT5a).

▶EV-12:乳児期よりアテトーゼ型脳性麻痺と診断されたが経時的に不随意運動が増悪し集中治療を要した11歳男児

もともと精神発育遅延がある.低トーヌス.絶え間ない激しい全身の不随意運動.後弓反張を呈する.ジストニア重積?舞踏運動?治療としてGPi-DBSが有効であった.
(診断)GNAO1 異常症.2013年に本邦からはじめて報告された.GNAO1(Gタンパク質サブユニットαO1のこと)をコードする遺伝子変異により発症する.GNAO1 遺伝子は3 量体 G タンパク質による細胞内のシグナル伝達に関与し,シグナル伝達の異常がてんかんを引き起こす.てんかんを伴わずジストニアを主とすることもある(図は遺伝子変異と表現型の関係).運動異常症を呈する患者では,筋トーヌス低下と精神運動発達遅滞がみられ,のちにジストニアと知的障害が明らかになる.アテトーゼ型脳性麻痺と誤診されることが多いが,周産期異常や頭部MRI異常はない.検査費用が安価になれば世界中でもっとも多い希少疾患の一つになるだろうと言われている.




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