Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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MDSJ 2011@東京

2011年10月09日 | パーキンソン病
毎年楽しみにしているMDSJ(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)に参加した.例年,この学会のことはブログに書いているが,朝から夜までみっちり勉強をさせていただける(イブニングビデオセッションのある2日目は21時半までかかった).今年は仲間とともに取り組んでいる「多系統萎縮症の治療と予後」について講演させていただく機会もいただけたし,充実した3日間であった.印象に残ったことをまとめてみたい.


パーキンソン病の発症機序は「多因子遺伝+環境要因」.GWAS(genome-wide association study)の結果,多くの疾患感受性遺伝子が見つかったが,そのオッズ比は環境要因(農薬,井戸水など)と同等.むしろ環境要因のほうが大きい.メカニズムの理解も進んで,農薬の代表であるロテノンはαシヌクレインS129残基のリン酸化を促進することも報告された.環境要因と遺伝要因は別個に作用するのではなく,密接に関連している可能性もある.

グルコセレブロシダーゼ遺伝子(ゴーシェ病の原因遺伝子)がパーキンソン病の疾患感受性遺伝子となる機序として,細胞内のαシヌクレイン蓄積作用が有力視されている.

常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物PINK1は同じく原因遺伝子産物のParkinの上流に存在し,mitophagy(ミトコンドリアのオートファジーのこと)に関与する.障害を受けたミトコンドリアにPINK1が結合し,parkinを呼び集め,例えば基質としてmitofusin1,2をユビキチン化し,プロテアソーム分解をもたらす.つまり2つの遺伝子の変異はmitophagy不全の結果,ダメージを受けたミトコンドリアの蓄積をもたらすことがわかった(ただし患者剖検脳病理で異常ミトコンドリアの蓄積像が認められておらず,まだウラはとれていない).

パーキンソン病におけるdrug-induced dyskinesiaについて.Peak dose dyskinesia,diphasic dyskinesia,off time dystoniaの3つがある.Peak dose dyskinesiaは頸部・上肢に多いのに対し,diphasic dyskinesiaは下肢に多い.Peak dose dyskinesiaは舞踏運動を呈するのに対し,diphasic dyskinesiaはdystonia, balismus様である.Diphasic dyskinesiaに対するエビデンスのある治療はまだない.理論的にはなるべくL-DOPA濃度を一定に保つことがよさそうだが,実際にはL-DOPA内服回数を増やしたほうが良い人(濃度の一定化を目指す)と,逆に減らしたほうが良い人がいる(dyskinesiaの起こりうる頻度の減少を目指す).Off time dystoniaは早朝に多く,治療としては眠前のアゴニスト,早朝のl-dopa.

すくみ足は狭い所では増強するので,患者指導の一つとして,台所などの狭い場所では,床においてある物をできるだけ片付けて歩きやすくすると行った工夫をしてもらうと有益.

今後,パーキンソン病においても軽度認知症:mild cognitive impairment(MCI)の研究が進む.つまりPD-MCIという概念が導入される.診断基準もMovement disorder society(MDS)から近く公表される予定とのこと.

新規アルツハイマー病治療薬メマンチンはPDD/DLBでも有効という報告がある.

ドネペジルにはパーキンソン病の転倒を有意に減少させるという報告がある.ただし疑陽性の可能性もあり今後の検証が必要(単に注意障害の改善があったのかもしれない).

現在,多くの薬剤の治験が進行中であり,このことはぜひ患者さんにGood newsとして伝えて欲しい.例えばL-DOPA徐放剤,アポモルフィン皮下注・吸入薬,ロチゴチン貼付剤,プレラデナント,抗ジスキネジ薬AFQ056, Fipamezoleなど.一方,disease modifying drug(症状の進行を抑える薬剤)は現状では開発されておらず,今後に期待したい.

CBDとPSPいずれも多様な表現型をとる.CBDに特徴的と思われる一側上肢の高度の筋強剛・ジストニアによる高度の拘縮でさえ,CBDに特徴的な臨床所見とは言えない.

Menkes病と同じ原因病因遺伝子ATP7Aの変異で,残存活性がMenkes病よりも保たれているOccipital horn disease(OHD)という疾患がある.結合織に異常が見られ,後頭骨の下向きに角のような骨性の結合織が生えてくる.その他,失調や関節変形,膀胱憩室などを呈してくる.

Wilson病の治療薬で,Dペニシラミンの問題点は「治療開始初期に症状の増悪」である.一過性でなくそのまま改善しないこともある.このため近年は銅吸収抑制作用のある亜鉛を治療に用いる方が良いと考えられている.

PKAN(Pantothenate kinase-associated neurodegeneration;かつての Hallervorden-Spatz syndrome)は,その原因遺伝子産物PANK2が全身にあるにも関わらず,鉄代謝異常が障害を及ぼすのは神経組織のみ.その機序は今も不明.

新しい常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症SCA36の日本からの報告.原因遺伝子NOP56の非翻訳領域の6塩基GGCCTGリピート伸長により発症.失調は比較的軽いが,下位運動ニューロン徴候(舌,四肢近位筋)を呈する点が特徴.舌の萎縮・線維束性収縮は必発とのこと.

パーキンソン病やDLBに認める幻視は,ひと,とくに子供の姿であることが多い.面白い事に,東北地方の「座敷わらし伝説」は,これらの疾患におけるこの症状を示していると言う先生もいるそうだ.

パーキンソン病のバイオマーカーとして研究が進められた髄液中αシヌクレイン濃度が,報告によってバラバラであったのは,髄液サンプルにおける血液のコンタミネーションが大きな要因であることが判明している(αシヌクレインは赤血球中に多量に含まれる).またELISA測定系に用いた抗体が報告により異なっていたことも関係したかもしれない.これらの問題を排除しきちんと測定すると,αシヌクレインはPDにおいて減少する.しかし髄液αシヌクレインでPDとMSAの鑑別はできない.髄液αシヌクレインのオリゴマーは逆に増加する.早期診断マーカーになる可能性がある.

PDの嗅覚障害はL-DOPAで改善しない.MSAと比較しても高度である.嗅球でチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性細胞が増えている.しかしTH陽性細胞はαシヌクレイン陽性になっていない.

DLBのうつには,「激越,焦燥,興奮タイプ」と,「アパシー,アンヘドニアタイプ」の2つがある.SPECTでは全例で後頭葉の血流低下があるわけではないので注意が必要.

DLBの精神症状として,有形幻視,実態意識性(姿は見えないが視野の外に気配を感じる),Capgras症状(親しい人が瓜二つの偽物に入れ替わっている),単純性人物誤認(別な人と間違える),幻の同居人(二階に知らない人が住んでいる),実際にはいない身内が家にいる,重複記憶錯誤(本来一つのものが複数存在する),物体誤認(錯視;物を人に間違える.もしくは逆に人を物に間違える)といったものがある.これらをクラスター解析で大別すると「幻覚」「誤認」「妄想」という3つの範疇にわけられる.

DLBの認知障害はアルツハイマー病と比べると病識があり,繰り返し説明すると理解が可能.例えば幻視についての訴えが頻回な場合は,「見えていても声(幻聴)が聞こえなければ悪さはしないので大丈夫」と繰り返すと,納得されて訴えが減ってくる.本人や介護者が幻視を触ってみると消えることも多い.

DLBの誤認に対してはドネペジルは必ずしも効かない.誤認を起こしやすいものがあれば生活の場から取り除く(例えば絨毯の模様を単純なものにしたら訴えが減るなど).
誤認は幻覚ではない,しかし病的な記憶の障害があり,感情が絡んでいるので叱らないようにする(叱ると増悪する).人物誤認は介護者にとっても心理的負担が大きい.

特発性REM睡眠行動障害(iRBD)について.圧倒的に男性に多い.10~20年でPDになることが半数以上で認められる(MSAになることは少ない).中脳・橋被蓋の萎縮を認める症例がある(35%).テンソル画像でも異常が見られる.頭頂後頭葉の血流低下が見られ, DLBの前段階と言える所見.血流低下は経過に従い,進展・拡大していく.

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスのビデオセッションは延々21時半まで続いた.不随意運動のプロの先生方がビデオの所見をどう表現し,どう解釈するか興味津々(必ずしも一致せず,不随意運動の見方の難しさを改めて実感する).NMDAR抗体陽性脳炎の2歳児例や,ataxia telangiectasiaの激しい小脳失調とミオクローヌス,頭頂葉病変由来の失調症(parietal ataxia),顎の脱臼後に出現した舌ミオキミアなど勉強になりました.当科の若手のホープ三浦先生の発表(ビタミンB1欠乏にて生じたpainful legs and moving toes)も実に堂々と見事だった(14の演題のなかから来年の世界MDSビデオオリンピックに出す演題を3つ決めるとのこと).

顔面の不随意運動について.眼瞼痙攣の誘発には,軽瞬テスト(軽いまなたき),強瞬テスト(力を入れた瞬き),速瞬テスト(速い瞬き)での開眼しにくさの確認が有用.

眼瞼痙攣では,眼瞼弛緩症(まぶたの皮膚が伸びている)の有無は重要.病歴が長い症例や高齢者で目の皮膚が伸びていと眼瞼痙攣を直しても自覚的改善が不十分となる.

開眼(瞼)失行では,スパスムがはっきりしなくてもボトックスの聞く人が少なからずいるのでボトックス治療を行う.

閉瞼失行という稀な病態もあり,パーキンソニズムや脳梗塞に伴い生じる.開眼できないため前頭筋を使う.

反側顔面攣縮(神経学会の正式用語)は,顔面神経障害で一側に生じる.眼瞼攣縮はジストニアであり,両側に生じる.

ベル現象は,閉眼の時,眼球が上方にのみ行くとは限らない.

ボトックス注射の合併症の眼瞼出血は,臥位注射を行なって皮下出血をしたらすぐに起こして圧迫すれば止まる.臥位のままにしておくと広がりやすい.

Eyelid myokimiaは他覚的には僅かな動きだが,自覚的には訴え大きい.

舌ジストニアとジスキネジアの鑑別は,定型性やタスク特異性があるのはジストニアと考える.

心因性不随意運動の診断は除外診断ではなく,陽性診断に基づいて行うべき.心因性不随意運動は障害が大きく,慢性化すると障害強く予後不良.しかし治療は精神療法や抗うつ薬を用いるが一筋縄ではいかない. 精神科医との連携必要.治療効果の判定は今後,RCTが必要になる.

心因性不随意運動に関連して,これまで「精神ぬきの神経学」と「肉体ぬきの精神学」が進められてきたが,そろそろ両者のすり合わせが必要だと思われる.

心因性不随運動における舞踏運動は稀(ただしハンチントン舞踏病の家族などでは起こりうる).

心因性ジストニアは長く心因性疾患と誤診されてきたが,事実,神経疾患との鑑別は困難.固定ジストニア(fixed dystonia)は心因性であることが多い(二次性のもので,CBDでは起こりうる).心因性振戦は最も多いタイプで突然出現する.

遅発性ジスキネジア,ジストニアについて.ジスキネジアは四肢や頭部の舞踏病様運動.D2遮断作用が強い薬剤でジスキネジアを生じやすい(リスペリドン,ハロペリドール).逆に受容体に結合してもすぐ離れるものは起こしにくい.5HT2A受容体遮断作用を併せ持つものも起こしいくい(クエチアピン,クロザピン).

ジストニアの内服治療の理論的背景
可塑性の改善・・・・アーテン,L-DOPA
GABA機能障害・・・・セルシン,バクロフェン
症状を取るだけ・・・・ボトックス
精神の安定・・・・SSRI

恒例のCONTROVERSYはディベートである.本年は以下の4つのテーマに対して行われた.
1.孤発性PDは単一の疾患である
2.DLBは大脳に始まり病変は下降する
3.L-dopaはドパミン不足の症状に対していつまでも有効である
4.PANDASは独立した疾患群である
自分の考えによらずに,組織委員会に指定された側(Yes No)に立って意見を述べる.結論が出るわけではないがなかなか楽しい議論が聴ける.

来年は京都です.たくさんの不随意運動を見ることができる非常に勉強になる学会です.ぜひ参加を検討してみてください.
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