ピアノの音色 (愛野由美子のブログです)

クラシックピアノのレッスンと演奏活動を行っています。ちょっとした息抜きにどうぞお立ち寄り下さいませ。

ジョイス・ディドナートのジュリアード音楽院卒業式祝辞

2014年08月04日 | レッスンメモ
ジョイス・ディドナート(Joyce DiDonato)といえば、アメリカを代表する女性オペラ歌手の一人です。今年の5月23日、その彼女がジュリアード音楽院の卒業式の日に卒業生を前にして記念の祝辞を述べるという大役を果たしました。そのスピーチがネットにアップされていて、とても素晴らしかったので、一部、ご紹介してみたいと思います。

ディドナートは今日の名声を得るまでにとても苦労した人として知られています(彼女自身はジュリアードの卒業生ではありません)。その彼女が名門ジュリアードを卒業してプロの音楽家としてのキャリアの第一歩を今まさに踏み出そうとしている若者たちを前にして、「四つのメッセージ」を語って聞かせます。それは彼女自身が様々な経験を経て苦労の末に見出した四つの真実なのです。

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(1)You will never make it.
何かを(いつの日にか)完璧にやり遂げることができると思ったら、それは大間違いです。そんなことできるものではありません。がっかりしたかしら? でもね、頭を切り替えてほしいの。これは素晴らしいことでしょ。グッドニュースじゃありませんか? だって、そんなやり遂げることのできる「何か」なんて、芸術家にとっては存在するはずないんですから。まさに今、この場所で、あなたの人生の記念碑的瞬間に、誰の助けも借りることなく、あなた自身が自分に贈ってあげることのできる最大のプレゼント、それが何だか分かりますか? それはこれから先のあなたの人生を、結果に対してではなく、「長い道のりを旅する」ということにコミットさせると、断固決心することです。

結果というのはほとんどいつだって、自分の思い通りにはならないもの。もしもあなたがそんな、とらえどころのない、時としてあてにすらならない目標を追い求めているのだとしたら、先行きとても苦労することになる。だってそうでしょ、いつもいつだって、もっとのびのびとした声を出せたはずのあの一音、というのがあるんです。もっと真に迫った表現ができたはずのあのセリフとか、もっときちんとキメられたはずのアラベスクのポーズとか、あのアダージョのところのタッチ、あそこをもうちょっととか・・・。つまり、いつでも新たな発見があって、それは常に成長のチャンスがあるということなんです。アーチストには、決して型にはまったゴールなんてありません。そしてそのことこそが、一日も休むことなく自分よりも偉大な何かを追い求め、もっともっと腕を磨く努力を怠らず、好奇心と想像力が導く道へ足を踏み出したことに対する、最大の報酬であり喜びなのです。テキスト全文はこちら(英語)
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う~ん、深いお話ですね。完璧な演奏とか、完璧な演技とか、そんなのできっこない、ということをはじめにドンと言い切っちゃってます。しかも普通はそれが落ち込む原因になるものなんですが、頭を切り替えなさい(shift)と教えてくれます。つまり、やればやるほど、いつも新しい発見があって成長できると考えればいいのよというわけです。完璧にやりきっちゃったとすればそこで終わりですものね。芸術の道はこれだから素晴らしいじゃないの、というのですから、ものすごいポジティブ思考です。

それから「結果(outcome)」なんて気にしないで、とも言ってます。大切なのは自分の決めた道を「旅(journey)」すること、これに対するコミットメントだと。先にも書いたようにディドナートさんは、決してはじめから順風満帆のキャリアを登ってきたわけではなく、若いころはなかなか認めてもらえず、色んなオーディションで何度も落とされてきたのだそうです。きっと何度も何度もつらい思いを経験なさったに違いありません。だけど彼女はそれをポジティブにとらえて、昨日よりは今日、今日よりは明日と、新たな発見と成長を信じて、旅を続けてきたのだと思います。彼女のお話はまだまだ続きます。

(1)何かを完璧にやり遂げることができると思ったら大間違い(You will never make it)
(2)とにかくやり続けるしかない(The work will never end.)
(3)主役はあなたではありません(It’s not about you.)
(4)世界はあなたを必要としています(The world needs you.)

Joyce DiDonato Speaks at Juilliard's 109th Commencement


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