いつになく月日の経つのは早い。幻庵見学のあと30人ほどで明治村のライト館を訪ねてから三ヶ月近くになり、年も越してしまった。でもだんだん気になってきて`知りたい`との思いが強くなってきたことがある。
知りたいこと、ちょっと思わせぶりだが、最後の一節に記すことにする。
ライト館の入り口で出迎えてくださった鈴木博之明治村館長が、さらっとユーモラスに挨拶をされ、この4月に着任したばかりなのでこの館の説明はと、背の高い柳澤宏江さん(建築担当スーパーバイザー)をみなに紹介する。いや私はついこの7月に着たばかりでとはにかむ若き柳澤さんとのやり取りに和やかな笑いが起きた。
僕は何度かこのライト館に来たことがある。でも今回は見え方が違った。
DOCOMOMOで選定し重文にもなった「自由学園明日館」や「山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)」に比べてディテールや空間構成など建築の組み立てかたが緻密で、見たかった`孔雀の間`もないほんの一部、それもレプリカともいえない再現だとして、はすっかいに見ていたのが嘘のように心が打たれたのだ。
気になった発端は、明治村に行った2週間後に、北国小樽の小高い丘の中腹`入船`に建つ、田上義也の設計した坂牛邸を見せてもらったことによる。
ライトに師事した田上義也の名は、上遠野徹と並んで北海道の建築家の心のどこかに常に宿っているのだが、広く全国に名が知られているとはいえないかも知れない。
僕自身、その名はいつのころからか知っていたものの、札幌の`ろいず珈琲館(旧小熊捍邸・1927)`で美味いコーヒーを味わったが大改造されていたし、函館の`旧佐田邸(現プレーリーハウス・1928)`は外観を見ただけ。ふ―ん!という感じだった。
それでも気になっていたのは、田上義也は終戦直後にJIAの前身、旧家協会(日本建築家協会)の北海道支部をつくり上げて初代会長として北海道の建築家を率いると共に、札幌新交響楽団を創立し、初代指揮者を勤めた音楽家でもあったからだ。履歴を改めて紐解くと何故音楽にと不思議感が増す。戦後の荒廃期、仕事がなかったとはいえ音楽に!
だからではない。僕が敬愛する上遠野徹氏が田上義也の志しを継いでJIA北海道支部を創設し、常に田上の言葉をかりて「正しい道を歩め、列を乱すな!」と後輩を叱咤激励してきたことを知っているからである。
ところが坂牛邸(1927)をみて、これはいい、成る程と思ったものだ。
レーモンドもライトの影響から脱するのに呻吟したというが、田上義也もライトからの脱却に意を決し、過酷な北国の建築のあり方にトライすることによって自己の確立を意識したという。この坂牛邸はその前身、ライトを慈しむ思いに満ちていて微笑ましく、それはそれでいいのだ。しかも非凡な空間、どこかに本物という感じがする。
1899年(明治32年)に栃木県の那須野原開拓地で生まれた田上義也は、昼間は青山学院中等科に通い、夜は早稲田工手学校で建築を学んだ。卒業後逓信大臣官房営繕係で現場での実務経験を積んでいた田上は、1919年、帝国ホテルを設計のためにレーモンドを伴って来日したF・L・ライトの帝国ホテル事務所への入所。20歳だった。ホテル竣工後の1923年田上は北海道に渡る。
柳澤さんに案内され、鈴木先生と共に明治村ライト館を見て僕が感じたのは、緻密な装飾群、例えば照明ボックスや柱や壁面、そして屋根の水の流れをコントロールしてその様を見せる銅版によるBOX形の瓦棒など、でも何より吹き抜けがあったり天井の低い回廊など、空間構成の多彩さと巡り歩く僕たちを楽しませるバランスの素晴らしさだ。でもこんなことは改めて言うまでもないだろう。
僕がふと知りたくなったのは、このホテルを設計し監理をした事務所の組織体制と各自の役割、例えばライトは何処まで図面を描いてどうスタッフに指示をしたのか、ライトは解雇されて帰国するが、あの詳細な装飾群の図面はどのように描かれて、現場では誰が担当をして、施工した技術者や職人の協力を得てこの建築をつくり上げたのか、その事務所の雰囲気やライトとのやり取りを知りたい。遠藤新がチーフとして取りまとめたのは知っている。1年で退所しているレーモンドは何を担ったのか。田上義也はそのレーモンド夫妻に添って武蔵野や鎌倉に出掛け、日本の建築の空間構成や美について学んだという。
田上はここで何を担当したのだろうか!
<写真 左:旧坂牛邸(小樽) 右:明治村ライト館>
そうでしたね。実はライトの研究者とは何人か面識がありますし、数年前、ライト建築アーカイブスの国際会議のときなぜか僕がコーディネートをしたのでした。早稲田明石研の人と鈴木博之さんとの座談会の進行役もやったし!でもその時はそういう疑問がわいてきませんでした。まず今度角先生に会ったときにお聞き(問い詰めて・(笑))してみましょう。
田上さんの住宅以外の建築も今度の訪札の時にご案内ください。宿題がいっぱいになってきますね(笑)
日帰りなチトきついしなぁ・・・(^^;
日帰りはもったいない。明治村もゆっくり見たほうが良いし、様々な問題でゆれている愛知芸大は是非見て欲しい。名古屋市内にも新旧合わせて魅力的な建築が沢山あります。それに味噌カツも(笑)といっても名古屋では食ったことなし、うーん!