日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

「織部菊文茶碗」 かぶく桃山時代に想いを馳せる

2007-04-19 11:03:50 | 文化考

時折取り出してはページをめくり、その都度溜息の出る本がある。
15代(当代)楽吉左衛門が責任編集をした淡交社発行の`茶道具の世界`「和風茶碗」である。

僕は当代の切れ味があって大胆な茶碗が好きだ。
一昨年の初春、その作品を特に新作を見たくて京都油小路にある「楽美術館を」訪ねた。しかし当代の作品とはいえ、初春の慣わしという千家の初釜のために焼かれた伝統にのっとったつくりの茶碗展示のみで、それはそれで興味深かったものの思いを果たせなかった残念な記憶がある。
楽茶碗でもこういう壮絶なつくり方がありうるのだと、今の時代を切り開いていこうとする15代は、歴代の楽吉左衛門のなかでも傑出した陶人ではないかと僕は思うのだ。

その一端がこの本で道具商`戸田博`との対談でも伺える。例えばこういう言い方をしている。
「茶碗は・・・自己主張そのものと対峙するもの。われと対峙するあり方そのものが茶碗なんだ」そしてやはり15代と同世代の傑出した人物戸田博にこういわせる。「楽さんは作家としての話しになっているわけ。僕は作家ではないから、それじゃあ何かと考える」。

この本に収録されている二人の対談はなんとも面白い。利休の茶碗、つまり長次郎の黒は「色の黒というより暗闇という空間、宇宙空間というか暗い暗い世界」と戸田が言い、15代はそれに共感し、「瀬戸黒の黒は色の黒、泥臭くて野太い。物が生まれてくるときのエネルギーがある」そして利休の影響はその時代の権力につながる機構の中で生まれ、瀬戸黒や織部はいわば地下人の茶、ことに織部は「かぶく」の世界、その時代(慶長)の産物として生まれた、と時代をとらえていく。

さてこの本の表紙に使われている茶碗が『織部菊文茶碗』だ。
この黒織部の造形は『破格』で、しかも手強く、そしてなんとも可愛らしい、とある。写真を見て破格で手強くはそうだと思ったが、可愛らしいというのが僕にはよくわからなかった。
この本には思わず溜息の出てくる,唐津の`三宝`、志野`羽衣`(これは凄い)、空中信楽茶碗`時雨月 空中`という惹かれる名を持つ茶碗などが収録されているが、僕の心を捉えて離さないのが、この『織部菊文茶碗』なのだ。

それに出会った。観たのだ。
JIAでの会合の後、建築学会での委員会まで少し時間があったので覗いてみた出光美術館での「志野と織部」展で。ガラスケースに収められてトップライトに浮かび上がってつつましく。

思いがけなかった。恋焦がれた片思いの女が突然目の前に現れたように。一瞬呆然とする。魅入っているうちに可愛らしいという言い方に思い当たった。小さいのだ。手のひらに包みこまれてしまいそうだ。
可愛い。こんなに小さいのだとは思わなかった。しかし力強く破格の造形だ。やはり大きいのだ。描かれた菊文は大雑把で手のひらを広げたようだ。小さなグローブのようにも見えたりする。おおらかだ。

僕は実は織部はあまり好きではない。無理に形を歪ませ、作為的だからだ。しかしこの茶碗は!戸田は「(かぶく)という捨てばちな気分というよりも、ある種の格を感じるな」という。
僕の織部感が変わるかもしれない?

鼠志野の重要文化財『峯紅葉』も展示(3月28日で展示終了)されている。五島美術館から出光へ出かけてきたのだ。そうだ。吉田五十八の設計したこの美術館をつい先日愛妻同伴で見てきたんだっけ。
志野も織部も桃山時代が生み出したのだ。風流の時代だ。そしてそれは「かぶく」(歌舞伎)の生まれた時代でもあったのだ。
この『織部菊文茶碗』は手で触れることはできないが、壮大な日本の歴史に触れ得たのかもしれない。そしてふと思うのだ。15代楽吉左衛門のこの黒織部に通じるものつくりの心を。

(この展覧会は残念ながら4月22日(日)で終了してしまう)


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
楽美術館 (moro)
2007-04-20 17:21:29
昨年の関西建築研修で「京都西陣電話局」から「楽美術館」を訪れました。何時間でも居たかったのですが、集合時間が迫り、泣く泣く館を後にしました。楽茶碗について、からっきし無知だった自分は、帰札後勉強するぞ!と意気込んだものの果たせずにおります。そうこうしているうちにまた関西建築研修の日がやってまいりました。来週月曜日より、学生達と関西に行ってまいります。
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レポートを楽しみにしてます (penkou)
2007-04-21 22:08:16
昨年もこの時期でしたっけ。
多分今年は思惑が少し違うでしょう。レポートも楽しみ。平安神宮の庭園の枝垂桜がまだ咲いているかも・・
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