日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

京都の隠れ家`うたかた`で春の夢を語る

2008-05-18 14:44:12 | 添景・点々

先週末京都に旅した。
二日間にわたって行ったDOCOMOMO Japanの、総会へ参加し技術専門委員会(DOCOMOMO Japan NSC Technology)の研究発表を聞くために出かけたので、旅とはいえないかもしれない。

でも一日早く行き京都を散策した。やはり旅をしたのだ。
同行したのは、親しい建築家澤一郎さんと藤本幸充さんだ。スキンヘッドの藤本さんは、彼が(僕もだけど)神格化している建築家白井晟一の面影を求めて高山寺へ足を伸ばした。僕と澤さんは彼と銀閣寺で会うことにした。僕たちにとって欠かすことのできない4畳半草庵茶室の原点「同仁斎」が公開されているのだ。
丸太町十二段屋で、飾ってある河合寛次郎の壷の姿を楽しみながら、お昼の茶漬けを食べた後、娘が見てこいという細見美術館で若冲と北斎を堪能した。大江匡の設計による建築で、僕たち建築家にとっては馴染みなのだ。この建築にも、その展示作品にも訪れるたびに感じるものがある。

終点銀閣寺でバスを降りた。
目の前の「橋本関雪記念館・白沙村荘」に誘われるようにふらふらと迷い込んだ。関雪はこの庭を「石も木も呼吸している」と述べている。そして水が密やかに流れ苔も生きている。この庭を発見したと思った。アーア!と溜息が出るのだが、この発見に時間を忘れ、「同仁斎」を見損なった。特別拝観は、3時半で締め切ってしまうのだ。まあそんなものだろう。旅は!僕の人生も。
銀閣寺の後は、哲学の道をぶらぶらと歩いて緑に囲まれたCafeで、コーヒーとガトーショコラを味わい、法念院に向かった。京都の社寺で僕が一番好きなのがこの山門なのだ。スキンヘッドが言う。「参道が直線ではない。あえて途中で角度をつけている。結界を意識させる」。石を敷いたその角度がシャープでモダンだ。これだ、僕の京都の旅は。

「人生は旅だ」と言って引退したサッカー選手がいる。多くの人の共感を得たが僕は違和感を覚えた。多分僕は、30歳を過ぎたばかりの男に「人生は!」といって欲しくないのだ。その男は30年で、僕の60数年を生きたのか。いや時間は誰にとっても同じはずだ。得たものがあれば、その分だけの得られなかったものがあるはずだ。
旅は自分のものだけど、夜を徹して多くの人と旅を語り合ってみたい。語るにそれにふさわしい場所、それを`隠れ家`というのかもしれない。

法然院のあと、寺町の平安画廊で行われていた新潟の版画家小林春規さんの個展を覗いた。小林さんは、若き日の20年間、京都で表具師の元で修行して仕事をし、木版画に没頭した。故郷に戻って家を建て表具屋「竹穂堂」をつくった。長男に表具の技術を教え、一緒に仕事をしている。
平安画廊には、会期中、毎日沢山のかつての仕事仲間が集まるようだ。話が弾んでいる。飛び入りのような僕たちを、小林さんが大徳寺に近い「うたかた」に案内してくれた。北区紫竹西桃ノ本町のひっそりとした一角に、ほんのりと灯りがともっていた。

低くて幅広いカウンターがあってお客さんが談笑している。僕たちは奥の畳の部屋のちゃぶ台の前に座った。その奥が中庭だ。京都だと思った。人肌の酒で乾杯した。酒は秋田の高清水。うまいのなんのって!

小林さんの仕事仲間が来た。先ほどの画廊で挨拶を交わした表具師だ。散歩してはったんですってと女将が言う。この夜に散歩?と思ったら、はしご酒だった。格好良い言い方をするんだ、とそんなことがなんともうれしくなる。はにかむ表具師と盃を交わす。
鯖を糠漬にした臭みのある「へしこ」が酒にいい。昔保存食として工夫されたそうだ。ソーメンを暖めた「煮うめん」も味わいが深い。何より女将のはんなりした言葉と、笑顔に惚れた。それにリーズナブルだ。ああ、ここは僕の「隠れ家」だ。

ぞっこんになって、翌日のDOCOMOMO総会の懇親会の2次会にまた`うたかた`を訪れた。ちょっと声を掛けたら13人になってしまった。菊竹清訓さんの番頭・遠藤勝勧さん、篠田義男夫妻、松隈洋さん、若手歴史研究者の倉方さん、それに早稲田の女子学生Wさんもいる。ぎゅう詰めになったがそれはそれで楽しい。帰りのタクシーに乗るときに、女将の手がそっと僕の肩に置かれた。春の夢だ。

<女将の許可を得たので写真を掲載します>



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3 コメント

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是非教えたい! ()
2008-05-19 21:53:41
今春から京都市内に転勤してしまった親友夫妻(二人とも味覚の確かさは折り紙つき☆)に是非教えたいお店です。
奥方が私の同級生なのですが、総勢480余名の同窓会の席で最後まで飲み続けられる程に超酒豪の彼女。 恐らく転勤と同時に専業主婦に納まったであろう彼女ですから教えたらすっ飛んで行くだろうと思います(笑)
penkouさん、この【うたかた】教えてもいいでしょうか?
隠れ家じゃ無くなってしまうかも知れませんが・・・(^^; 
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どうぞ、どうぞ (penkou)
2008-05-20 17:04:26
mさん
どうぞ御案内ください。
皆様に足を運んでいたがきたいと思い、女将の了解も得て書きました。喜んでくれると思います。
かくれが、そうなのですがそう簡単に京都には行けませんので・・・うーン、いきたい(笑)
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Unknown (Unknown)
2008-05-20 18:35:48
今日は散歩によって見ました(*^_^*)
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