日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

ニッカボッカと「旧親和銀行銀座支店」

2006-04-19 10:59:04 | 建築・風景

気が滅入るので書くのを逡巡したのだが思い直してペンを取ることにした。
といってもPCのキイボードを叩くのだけど、ペンを取るとか筆を取るというと思いが伝わるような気がするが、キイボードというとなにか即物的なやけっぱちになってしまうような気もする。

「銀座三越アネックスⅡビル」を解体するというお知らせ看板が花崗岩に壁に貼り付けられている。どうせ壊すのだから汚れたってかまわないというベタ糊付けかと、憮然としている自分の顔が眼に見えるようだ。あああ!ついに、と溜息も出る。
今日銀座に出たので「解体工事期間4月10日から9月30日、施工鹿島建設」というその文面を確認し、改めて建築外部の写真を撮った。ニッカボッカを穿いた職人が出入りしていて、いよいよ内部から始まったのかとやはり気になる。

このビルは白井晟一の設計した『旧親和銀行銀座支店』。

昨年の6月、通りかかって眼に焼きついている石の外壁を視ると、白井晟一の象徴でもある石の浮き出し文字による文言が無残にも削り取られていて、たとえ事情があってこのビルを取得したとしても、これでは建築がかわいそうだと思った。

そこでJIAの委員会で状況報告をし、委員会の担当者を決めてもらい一緒にこのビルを訪れた。
応対してくれた事務の担当者は丁寧に、本店の管財を訪ねるよう地図を描いてくれた。アポなしで訪ねた僕たちを戸惑いながらも対応してくれた方は,このビルの価値をよく認識しているようだったが、上司に何かと誰何され、このビルはいわゆる有名建築だと説明してくれたものの、結局今後の状況は何も決まっていないとしか応えてくれず、見学許可も得られなかった。

このところ御茶ノ水文化学院の改築、前川さんの東京相互銀行の存続も難しいと伝えられたりしてぼやきの連続、だから気が滅入るのだが、結局その結果は今回の解体表明になってしまった。

銀座は水面下で猛烈な動きが起きている。
森ビルが関与して超高層化するという銀座松坂屋問題もある。歌舞伎座の解体or改修問題、勿論一帯の再開発との関連の中での計画である。いつも言うことだが再開発を必ずしも否定はしない、が・・・それでいいのかと考えてしまう。
銀座四丁目寄りの三原橋周辺も公表されてはいないものの再開発抜きにしてこのビルの解体はありえない。三越が取得したのも、このビルを使いこなそうという意図によるのものではないだろう。一階の扉も閉じたままだったし、暗に仮使用を認めた様子だし、将来の自社の発展を目指しての開発を含んでの取得だと思う。まあ間違ってはいないだろう。今の時代,建築への敬意なんていっていられないということになるか。

この銀座支店を頭取が気に入り、信頼を得て佐世保の『親和銀行本店』(DOCOMOMO100選)を委託されるきっかけにもなった「建築家白井晟一」を考える上で欠かすことができない建築であると共に、1963年に建てられて以来、その独特な風貌(と言いたくなる)によって、東京でも白井晟一の深い闇をはらんだエッセンスを味わえる存在として、建築を目指した僕たちの心を捉えつづけて来た。それも妙にむなしい。ついぼやき続けたくなってしまう。

さて、とは言え何とかならないものか!
ほんの少しであっても望みを捨てず、と気を取り直して再度管財を訪ねることにした。