田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

あたし青山の秋が好き、あなたは……7 /麻屋与志夫

2011-08-20 06:23:46 | Weblog
7

「わたしが子ども産んでいれば、子ども同志で結婚させられましたのにね」
 
 時子と話していると、あの頃の切迫した心情がよみがえってくるようだった。
 わたしの帰りを待っていたように、父の隣に枕を並べて母が肝臓を病み寝こんでしまった。

「直ぐに……もどる。あすにでも、父の病状を確かめたら、帰ってくるから……」
 ……上野駅で時子と別れた。
 そのまま二度と上京はできなかった。
 父には看病が必要だった。
 一時たりとも目の離せない病人になってしまった。
 シナリオ研究所に通うどころのさわぎではなくなってしまった。

「すまないね、すまないね」
 母は毎日泣いていた。
「お父さんと死にたいのだけど、それじゃ小松家の家系に傷がつくものね」

 父と母はそれから二十年も生きた。
 If……というのは、あくまでも仮定法なのだろう。
 郷里にもどらず……。
 あのまま青山にとどまり……。
 シナリオの勉強をつづけていたら……。
 プロになれたろうか……。
 時子と結婚していたら……。
 どんな人生を過ごしてきたろうか。
 
 時子は、別れたあとのことをききたがっていた。
 
 話題は共通の友だちの近況に落ち着いた。
「あの頃、小松さんと同期生のKさん、あのかた……ずいぶんとご活躍ですわね」
「ああ、覚えている」
 だれもお金がなくて、喫茶店に入れなかった。
 シナ研の裏の青山墓地でミーティングをひらいたことがあった。
 
 その時、仲間にさんざん酷評された作品をリライトしてKはデビューしたのだった。
 テレビ局で募集した新人賞に応募した。
 見事第一席で入賞を飾ったのだった。
 わたしはそのニュースを独り、両親の枕元のテレビでみた。
 黒白の小さなテレビだったが、Kの顔は輝いていた。

「あの時……。お巡りさんに叱られたわ」



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