田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

あたし青山の秋が好き、あなたは……5 / 麻屋与志夫

2011-08-18 08:26:30 | Weblog
5

 窓の外を赤い風船をもった子供たちが走り過ぎる。
 舗道を蹴るさわやかな靴音の幻聴にとらわれた。
 華やいだ子供たちの声がきこえたようだった。
 風船をもっていない、あいたほうの手はお互いにつないでいる。
 友だちをつつきながら通り過ぎていく子もいる。
 風船はぴんとはりつめた糸の先でゆらいでいた。

「あの頃の夢をみるようになった」
「わたしも……」

 こんなかたちでの……再会がはるか未来に準備されていたのだ。
 会話がぎこちなくなった。
 ぎくしゃくとしたままとぎれそうな不安にかられた。
 わたしは、ごく平凡な日常的な質問をした。
 再会するようなことがあったら……きいてみたかった。
 いくたびかくりかえした想像の会話。
 とうに忘れていた。

「子どもさんは? ……」
「結婚はしなかったわ」

 気まずい沈黙がながれた。
「気にしないで……同棲はなんどもしたわ……」
「娘が二人。一番下が男の子。鶴巻小学校の六年生。創立記念のパレードでトランペットを吹くというので……」
「あら、じゃ……いってあげなきゃ。ひきとめてしまったわね。どんなお子さん。会ってみたいわ……」
 丁寧にわびて、後はいたずらっぽい口調でつづけた。
「平凡な子ですよ」
「奥さんに似てますの」
「ぼくに似ている」
「ますますあってみたいわ」


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コメント
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