田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

プロになれなかったら? 「絵の中の雪」/麻屋与志夫

2011-08-03 05:48:07 | Weblog
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いまなら、わかる。
いまなら、母がわたしの結婚に反対した気持ちがわかる。
親というものは、子どもに無難な道を歩ませたがる。
波乱のない、安定した人生を過ごしてもらいたいとねがう。
でも、小説家とか漫画家になろうとすることは――。
この世でいちばんつらい人生を送ることになる。
いまは、マスコミでハヤシタテルから。
ごく一部の、ものになった幸運なひとたちが。
華やかにみえる。
でも、そのかげで、どれだけの若者が苦渋をのんで泣いていることか。
羽化することもなく。
消えていくことか。
わたしは、なんどか、死をかんがえたことがあった。
それに耐えられたのは、夫を愛していたからだろう。
子供には恵まれなかった。
いまは独り暮らしだ。
風が強くなった。
雪はよこなぐりに、窓をたたきだした。
雪がこんな音を立ててふきつけることなどすっかり忘れていた。
暗い洞窟のような道。
車はのろのろ運転で、進んでいた。
夜の底は雪明りでそこはかとなく明るかった。
空には暗雲が立ちこめていた。
暗かった。
ヘッドライトにてらしだされた雪はあくまでも白かった。
闇と雪の白が渦を巻いて前方から迫ってくる。

姪の隣の席から年寄りじみた声が答えていた。

「プロとして成功できなかったらどうするの。
結婚する? 
女はやはりカタギの人と結婚して。
子育てをするのがいちばん幸せなのよ」

しわがれた声。
ああこれは母の声だ。
あのときの、母の考え方と同じだ。
夫との長年の苦労で……
いつの間にか世俗の垢にまみれてしまっている。


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コメント
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