田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

わたしのアンデイがチョウヤバイよ/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-02-16 11:18:20 | Weblog
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「あっ!! エイドリアンだ」
 香世が絶叫した。

 照明をあびて舞台中央に立ったその姿は。
 黒いコート。
 裏側は真紅、まるで遮光幕。
 シルクハット。吸血鬼のカリカチュアみたいだ。
 ウオ―というような大歓声。
 大音量でひびきわたったエレキギター。
 そしてドラムス。
 ぴたりと演奏がとまり。
 エイドリアンが歌いだした。
 英語の歌詞がわからない。
 でも――暗黒の世界に惹きこまれるような陰気な声だ。
 それでいて、聴かずにはいられない魅惑の声。

「なんて歌っているの? オネエ」
 美香はジャズピアニストの叔母、柳生倫子に英語の歌を教わっていた。
 留学するときのことをかんがえて。
 英会話教室には小学生のときからかよっている。

「暗い…暗い、闇の底でおれはきみをだきしめている。腕の中にきみをだきしめて、腕がしびれる……」
 歌詞を訳しながら……美香は腕、腕とエイドリアンのマイクを持つ……。
 腕……を凝視する。
 なにか金属の分厚いブレスレットをしている。
 ちがう。
 あれはエイドリアンではない。
 あれはわたしのアンデイだ。
 ひきつったような声が、声のない声が。
 歌声とはべつの声が。
 頭にじかにひびいてきた。
 マイクを持った腕を高く掲げている。
 ブレスレットが光っている。
 夕暮れの太陽の光をあびて輝いている。
 頭にひびく声がはっきりとしてきた。

「美香……来ているんだろう。美香。ぼくの腕を斬りおとせ。腕をきってくれ……」

 アンデイだ。
 やはりアンデイだ。
 ぶじだった。
 元気だった。
 でも頭におくりこまれてくる思念。
 わからない。

「どうして、腕を斬るの」

 こちらの思念はアンデイにはとどかない。
 アンデイの思念がみだれる。
 腕を……腕を……。
 アンデイはコートの裾をひるがえし高らかに歌っている。
 群衆の中で悲鳴がおきた。
 絶叫がおきた。
 ひとが刺された。
 ひとがナイフで刺された。
 ひとが襟首を噛まれた。
 ひとが鉤爪で刺された。
 
 百子はこれを予知していた。
 百子はこの惨事を。

「おさきにいくよ」

 美香と翔子にあいさつして。
 百子は人ゴミのなかにとびこんでいった。
 吸血鬼と対決するために。
 Vバスターズのメンバーに指令をだしている。
 残された美香は。
 舞台上のアンデイにむかって行く。
 そしてふいに彼のことばを理解した。
 たいへんだ。
 アンデイの命が。
 危うい。
 


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