OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その168 平牧動物群 3

2024年05月17日 | 化石
 Gomphotherium angustidensについて調べている。Osbornが図示した”holotype”はCuvier, 1806のPl. 1, Fig. 4である。

626 Cuvier, 1806 Pl. I

 Osborn, 1936の340ページに、「Mastodon angustidensのholotypeのレプリカ」という図がある。

627 Osborn, 1936. P. 340, Fig. 299. レプリカのスケッチ

 この図のキャプションに、「Cuvierの二つのレプリカのうちの一つ」としてある。さらに、「標本のサイズが116 mmと60 mmで、Cuvierの元記載と一致する」としているが、Cuvier, 1806では本文中にPl. 1, Fig. 4の標本のサイズとしてその数字を記しているが両者の歯の形態は全く異なる。たまたま数字が一致したのだろうか?これをholotypeとするわけにはいかない。
 これらのことから、Gomphotherium angustidens (Cuvier) はMastodon属、OsbornはTrilophodon属)の模式標本は、フランスのSimorre産出のものである。この場所は、イベリア半島の付け根の、最も幅の狭いところの、ちょうどマルセイユ近くの地中海と大西洋のビスケー湾の中間で、都市でいうとToulouseトゥルーズから少し西に行ったところ。地質時代は中新世中期。標本がいくつあったのかはわからないし、それらが同一個体かどうかも確認できそうにない。だから、Cuvier, 1806のPl. 1, Fig. 4標本は、Osbornが選んだlectotype とするのが良いのだろう。
 Gomphotherium angustidens の年代は日本のG. annectensの年代よりも新しい。最近の池袋などの化石ショーでは、ヨーロッパ産のGomphotherium angustidens の標本は必ず出品されている。

628 化石ショーで販売されていた標本1 2017.12.03 池袋

629 化石ショーで販売されていた標本2 2017.12.03 池袋

 化石商の方のお話では、牙(これはあまり販売されていない)の太さに二形があるようで、雌雄差であろうということだ。このことが岐阜県の標本に当てはまるなら、(幼い個体ではないから)番上同のホロタイプ(頭部)は雌である可能性が高い。のちに報告された下顎はそれと同一個体と推測されるから同様である。
 次に、Gomphotherium 属の命名について調べると、その文献は次のもの。
○ Burmeister, Hermann, 1837. Handbuch der Naturgeschichite zum Gebrauch bei Borlesungen entworsen. I-xxvi, 1-858.(講義のための博物学ハンドブック)

630 Burmeister 1837 タイトルページ

 ご覧のように「ひげ文字」の印刷物である。「自然史」全体の講義の材料というので、非常に広範囲の話が出てくる。そこで関係部分に絞りたいのだが、このひげ文字はOCRで読み取れない。いろいろと探して、795ページから始まる§775「Pachydermata」(厚皮動物)にあった。このセクションには次の項目が含まれる。
6. Fam. Proboscidea.
   小項目 Elephas (Elephant)
       Mastodon  関係部分
7. Fam. Genuina
7A. Gattungenn mit Rüssel 吻のある諸属
   小項目 Tapirus バク
7B. Gattungenn ohne Rüssel 吻の無い諸属
   小項目 Hyrax ハイラックス
       Rhinoceros (Nashorn) サイ
       Hippopotamus カバ  以下略
 この構成は、先のCuvier, 1817と少し順序が違うだけでほとんど同じである。 850ページ以上のこの本のうち関係のあるのは「Mastodon」のたった5行、しかも前3行はアメリカのオハイオ州のMastodontというのだからおそらくMammutに関する記述。従って「Stotzzähne beiden Kiefern belatz die gleichfalls untergegangene Gatt. Gomphotherium」(Gomphoterium属も絶滅属で、両方の顎に牙があった。)というのが、この属の最初の公表らしい。図も無いし標本の指定も産地もない。もちろん二名法では無い(といっても「属である」とは言っている)し模式種もない。好意的に見れば「両方の顎に牙がある」というのが上下の顎にそれぞれ複数という意味らしいから、この類の特徴を書いてあることにはなる。
 ところで、Osborn 1936 の文献リストにBurmeister, 1837 が出てくるのだが、「オリジナルを入手できなかった」としてある。オズボーンが入手できなかった古い論文を私は数十分のネット作業で手に入れることができたのだ。以上の調査の結果を記す。
Gomphotherium 属 Burmeister, H., 1837. 
模式種 Mastodon angustidens Cuvier, G. 1817 Simorre, France. 中新世中期

最新の画像もっと見る

コメントを投稿