Iguanodonの化石は早くから発見されていたが、関節の繋がった標本が少なかったために、体型の復元には時間がかかった。この左足部分の繋がった標本はWight島で発見されたもので、Owenは少なくとも3件の論文で扱っている。カレンダーに用いた図は、Owen(1849−1884)によるもので、「The History of British Reptile」のシリーズのもの。4冊(2冊がテキスト、2冊が図版)からなるもので、一部分ごとに順次発行されたから特定の部分の発行年は明確ではない。この標本のゆびの骨の側面観が、plate 44に示されている。
7-2 Owen, 1849-1884, plate 44. Iguanodon 足ゆび中足骨・趾骨の側面観(反転像)
なお、ここでもスケールはpdf作成のデータに記された本のサイズから計算して記入した。精度は悪い。図は上から、1 第2趾の内側(第1趾の痕跡が付く)、 2 中央のゆび(第3趾)の内側、3 第4趾の外側 で、中央のゆびについては中足骨が示されていない。これらの判定の根拠になっているのは、各ゆびの節数で、哺乳類なら親指以外が同じ節数であるが、爬虫類では基本的に親指から一つずつ増えて・第4趾で最大となること。中足骨を除いて、哺乳類では2・3・3・3・3であり、爬虫類では2・3・4・5・4(先端の骨を含む)となることである。問題の化石はよく揃っているので、両側の第1趾と第5趾が退化していると推測できる。
同じ標本の裏側はこの論文には示されていない。Owen, 1857のTab. 2に中足骨のあしうら側などの図がある。
7-3 Owen, 1857, Tab. 2. Iguanodon 中足骨 左:脛骨側、中央:うら側、右:つま先側、上から第4趾、第3趾、第2趾+第1趾の痕跡。(反転像)
なお、こちらの図版説明では、metatarsusという用語ではなく、metapodialという語を用いている。Owenはこの時点でこれが後ろ足であるという確信がなかったのであろうか?恐竜類の前後の足の大きさが異なることはまだ確立されていなかったからだろう。
この標本に関する論文はもう一つあって、1857年に地質学会で講演を行った内容を記録したもの(Owen, 1858)。この論文に「標本はすでに図示されてたWealdenの爬虫類のモノグラフ(1856)としているが、おそらく1857年の誤りで、先に記したものだろう。これらの内容はかなり重複しているが、一つにしか書いてないこともたくさんあるから全部見ないと概要がわからない。いくつかの項目を並べておく。
この標本は、Wight島の海岸が嵐のため崩れて発見されたもので、Samuel Husband Beckles (1814-1890) という人が発掘した。この人の名前は、Owenのほかの論文で“Beccles”と誤った綴りででてくる。掲載した図は、例によって反転像である。同じ図は、1858年にも[Monograph]に掲載されている。1858年のものは、一部のサイトで折り込みの図を広げないままでスキャンされていた。この論文には左右の別が書いてない。また、それによると。発掘時にBeckles氏が注意を逸らした時に、見学者の一人が中央の指の先端の骨を取って海に投げ込んだために一つだけ失われたという。地質学会の講演記録(Owen, 1858)では「左足」と書いてあるから、反転像であることの確認は確認できる。
ところで、この標本は「young indivisual of Iguanodon」としてあるが、どこで若いことがわかるのだろうか?
7月の文献
⚪︎ Owen, Richard, Sir, 1857. Monograph of the Fossil Reptilia of the Wealden Formation. Part 4. Palaeontological Society, 1-7, Tabs. 1-3. (Wealden層の化石爬虫類モノグラフ)
⚪︎ Owen, Richard, Sir, 1858. Note on the Bones of the Hind foot of the Iguanodon, discovered and exhibited by S.H. Beckles, F.G.S. The Quaterly Journal of the Geological Society of London. Vol. 14, Part 1: 174-176. (学会会員S.H. Becklesが発見し、展示したIguanodonの後足の骨についてのノート)
⚪︎ Owen, Richard, Sir, 1849-1884. A History of British Fossil Reptiles. Volumes 1 and 2. Cassel & Company Limited, London, vol. 1: pp. 1-657, vol. 2: Plates Chelonia 1-48, Laceertilia 1-10, Ophidia 1-5, Crocodylia 1-45, Dinosauria 1-85. (イギリスの化石爬虫類の歴史)