![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/b4/583eb36e18116c263b891fc709e38ea4.jpg)
11月 Zygorhiza kochii (Reichenbach)
文献:Kellogg, Remington 1936. A Review of the Archaeoceti. 366pp., 37pls.
11月と12月の図は、Kelloggの大作「A Review of the Archaeoceti」から。1月は、図版の中からpl. 12のZygorhiza kochii (Reichenbach) の左上顎の写真である。上が舌側、下は頬側。上の写真で左から第二・第3・第4前臼歯、第1および第2臼歯である。上顎歯を上向きにしてあるので誤解しやすい。写真のように後方の前臼歯が一番大きくて臼歯列は小さな歯であり、上顎に第3臼歯はないが、下顎にはある。始新世後期のアラバマ州New Clarksvilleの標本。原記載は1847年にReichenbachが行った。これに関する学名の変遷はややこしいから、年代順に列記する
1847年 Basilosaurus kochii の命名。 Reichenbach (in Carus)
1849年 Basilosaurus brachyspondylus の命名。Müller
1851年 B. brachyspondylus minor の命名。Müller
1908年 Zygorhiza属の創設。True
論文:Reichenbach in Carus 1847. Resultate geologischer, anatomischer und zoologischer Untersuchungen über den Namen Hydrarchos von Dr. A. C. Koch zuerst nach Europa gebrachte und in Dresden ausgestellte grosse fossile Skelett. Dresden ond Leipzig. (Koch博士によるHydrarchosという名称に関する地質学的、解剖学的、動物学的研究の結果。 Koch博士は最初にこの大きな化石骨格をヨーロッパに持ち込み、ドレスデンで展示した。)(未入手)
その時の学名はBasilosaurus kochiiであった。Zygorhyza属は1908年にTrueが創設した。Frederick William True(1858-1914)はアメリカの生物学者。スミソニアンの学芸員であった。
論文:True, Frederick William 1908. The fossil Cetacean, Dorudon serratus Gibbes. Bulletin Museum of Comparative Zoology at Harvard College, Cambridge. vol. 52, no. 4: 65-78, pls. 1-3. (化石クジラ類Dorudon serratus Gibbes)
True 1908が新属Zygorhizaの模式種としたのは、それまでBasilosaurus属に含められていたB. brachyspondylus minor という種(亜種)なので、それに関するMüllerの論文も関連するが・ここでは引用しないでおく。原鯨類の文献は、この図が掲載されているKellogg 1936の文献リストがずいぶん詳しいから調べやすい。なんと著者名の後にその生年・没年まで記してあるから時代的な背景も知ることができる。もちろん1936年以後に亡くなった研究者は別の方法で調べる必要があるが。
近年、この種のホロタイプをネオタイプに置き換える提案がされたが否定されたという。
ところで、Kelloggの大著で扱っている標本は、保存の良い頭骨が図示されているので、抜け落ちた歯の図はあまり多くない。32枚あるPlates の中に、歯根の見える写真・スケッチは3図しかなく、本文中の挿入図には一枚もない。Plateに示されたArchaeocetiの頬歯歯根は特徴的なので例を示しておこう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/b7/1030b013a3555d6730a1d56823d2c14e.jpg)
Kellogg, 1936, Plate 13(一部)Zygorhyza kochii 抜け落ちた下顎頬歯
まずPlate 13のZygorhyza kochiiの図は横一列になっているのをアレンジした。またスケールを説明に従って書き入れたが、そこには「about 2/5 natural size」としてあるから、正確ではない。7個の歯が示されていて、順にa左Pm4、b右Pm4、c左Pm3、d右Pm2、e左Pm2、f右M3、g右M1 で、アラバマ州の始新世のもの。頬側か舌側かはここに書いてない。この類の頬歯の副咬頭は後方で目立つから頬側を示しているようだ。
これらの歯でわかるように、二本の歯根の間が広く空いていることと、その空間が歯冠の最下部のあたりに達する(そうでないものもあるが)という特徴がある。少し違うが、似た形の歯はLlanocetusにも見られる。
二枚目のPlate 26 には、Dorudon stromeri と言う種類の犬歯などや頬歯が示されているが、あまり保存が良くないのでここでは略する。また、Plate 32にも頬歯などがあるが、これはKekenosdon onamataと言う種類の原図(Hecter, 1881)のコピー。この種類は、最近の論文では漸新世に生き残った最後のArchaeoceti とされている(Corrie and Fordyce, 2022)。
参考文献:Corrie, Joshua E. and R, Ewan Fordyce, 2022. A redescription of Kekenodon onamata (Mammalia:Cetacea) a late-surviving archaeocete frpm the Late Oligocene of New Zealand. Zoological Journal of the Linnean Society, Volume 196, Issue 4, December 2022, Pages 1637–1670, https://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlac019. (漸新世後期のニュージーランドの、遅れて生き残った原鯨類Kekenodon onamata (哺乳綱:クジラ目) の再記載)(未入手)
ここでは原標本の一部の写真を示す。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/a6/462bc156f8dc01132edd3aa53b052514.jpg)
Kekenodon onamata 歯の標本の一部 (holotype)ニュージーランド国立博物館蔵
この種類では二本の歯根は非常に太くて丸く、互いに接触するほど近く伸びている。他のクジラ類とは随分違っているために、分類上の位置の決定は難しい。
これに対して、「歯のあるヒゲクジラ」の頬歯を見てみよう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/dc/74bfb261b11e3475a2a0b7b327d58037.jpg)
“toothed mysticete” 頬歯 Otago Univ蔵
「歯のあるヒゲクジラ」では、歯根の間は広いが、その一番奥は歯冠の位置に達することはなさそう。またその間にしばしば「水かき」のような板状のものがある。
Archaeocetiと「歯のあるヒゲクジラ」の歯はこのように似ているが、一見して大きな違いがある。
上の図から作成したサイズを揃えた写真 左Zygorhyza kochii, 右“toothed mysticete”
こんなにサイズが異なるのだ。Archaeocetiは一般的に大きく、歯のサイズと同時に体のサイズも、歯鯨・ヒゲ鯨になると急に一旦小さくなるのはなぜだろう。