OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

私の癌治療の記録 その1

2022年02月25日 | 今日このごろ
今回から、治療の記録を記す。6回ほどかかる予定。

I. はじめに
 この記録は、私が5年半ほど前に始め、最近終了した癌治療の経過について記したものである。私自身の記録とする他に、同じような治療を受けておられる方々のご参考に役立てばと思って書いたもの。記録にあたっては、固有名詞はイニシャルで記した。
 治療中元気づけてくださり、ご心配いただいた家族や友人の皆さんに感謝する。また治療や診断をいただいた医療関係者の皆さんに深く御礼申し上げる。入院中にいろいろと教えていただいた同じ階の患者の皆さんに感謝する。とくに私が退院後間も無く亡くなったOさんに感謝を述べ、ご冥福を祈る。
 治療の経過を、次の4つの時期に分けて記す。
1 体の不調から癌の確認まで (2015年10月から2016年4月)
2 手術から退院まで (2016年4月)
3 抗癌剤治療 (2016年5月から12月まで)
4 経過観察 (2016年12月から2021年5月まで)
 最後に現在の状況と、いくつか気になること、それに今回の治療で知ることができた最近の検査方法の知識などを記す。
 いろいろと専門でないことを記したから、多くの間違いがあるだろう。ご指摘をいただければ幸いである。

II. 経過
1 体の不調から癌の確認まで

 2015年10月ごろから、たびたび食事の後に腹痛を感じた。激しい痛みではなかったが、何かこれまでにない異常を感じた。そこで、11月に胃腸科で診察を受けたが、検便の結果潜血があり、内視鏡検査を薦められた。その医院では内視鏡検査を扱わないということだった。行きつけの内科医院で事情を話して紹介状をいただき、K国立病院機構で検査を予約した。
 実際の検査は、予約の空きが無かったため2016年1月になった。前日夜から絶食して、当日下剤を飲み、検査に臨んだ。睡眠導入剤で眠り込んだ状態で検査を受けた。結果を通知された時、薬がまだ効いていたから私の記憶はないが、妻が聞いてくれた。
 なお、最初に使った睡眠導入剤は、何か私に合わないところがあったらしく、点滴針を入れた左手甲の静脈が硬くなったから、医師にその旨申し出た。二回目からは別の薬剤に変更され、その後は異常無かった。カルテに記録されていたから、その後5年間に数回行った内視鏡検査でも変更した薬剤を用いた。左手の静脈の硬化はまもなく解消した。
 大腸内にポリプ(複数個)があったため2016.2.15に入院してポリプの除去を行った。初日家で下剤を飲んで消化器をきれいにし、入院した。内視鏡手術だから、ストレスは少ない。翌日から軽い食事をし、3日目にはやや普通食に近い食事が出た。しかし、私の(濃い目好きの)舌には合わない。

2016.2.16の食事。大腸内視鏡手術の直後だから消化の良さそうな薄味のもの。「5分菜食」というもの。

2016.2.17の食事。おかゆになり、やや普通食に近い。「軟菜食・全粥」という分類が書いてある。

 除去したポリプの一個に癌が見つかった。大腸癌の治療指針では、ポリプの内部だけの癌はそれを除去すればよいとされ、その境界は、ポリプの傘部分から根元側1mmまでという。私の場合は、ちょうどその境界部分までにとどまっていた。医師から、「どうされますか」と聞かれたが、もちろん可能性があるのなら検査を受けたいと答えた。この時受けた検査は、CT(造影CT)の他MRI検査(主に調べたのは肝臓)・エコー(各部)・上部消化管内視鏡検査であった。MRIは、磁気を使って体内の水素原子の状態を図化する方法であるが、この時には「肝臓に癌はない」との診断結果であった。エコーは、超音波の体内での反射を利用して組織の境界を知る手段で、この時の検査では肝臓に癌の転移がある可能性を見出した。上部消化管内視鏡検査は、喉の刺激に敏感な私は事前に恐れていたのだが、喉にジェルのような薬を吹き付けられ、さらに睡眠導入剤を点滴されると何の記憶も苦痛もなく終了した。その結果、胃・十二指腸に癌は見出されなかった。

古い本 その88 Gilmoreの恐竜に関する論文 2

2022年02月21日 | 化石

 Gilmoreの記した恐竜に関する論文コピーを紹介している。
⚪︎ Gilmore, Charles, W., 1923.  A New Species of Corythosaurus with Notes on other Belly River Dinosauria. Canadian Field-Naturalist, vol. 37, no. 8: 46-52, pls. 1-5.(Corythosaurusの新種と他のBelly River層の恐竜に関するノート)
 このコピーの原本は、Dr. W. B. Parksに贈られたもので、「with the kind regards of Gilmore」とサインとしてある。その下に「Reprint collection Dept. of Vert. Paleo」というゴム印が押してある。どこの機関かは書いてないが、アメリカ国立博物館だろうか。それを誰かがコピーして持っておられたのを再コピーさせてもらった。

296 Gilmore 1923 別刷りにあったGilmoreのサイン

 掲載された雑誌が「Canadian Field-Naturalist」という私的な発行物だったから、「Dept. of Vert. Paleo.」では受け取っていなかったので、Parks博士の持ち物を入れていたということになる。

297 掲載号の表紙(ネットから)

 発行していたのは、Ottawa Field-naturalists’ Clubというもので、1863年に活動を開始し、現在も存在している。この雑誌はネットで読むことができる。
 論文の内容は、Corythosaurus excavatus を新種として記録しとものであるが、現在この種類は1914年にBrown(1873-1963)が記載したCorythosaurus casuariusのシノニムとされている。これについてはCorythosauru記載のところ(その110)で詳しく記す。

298 Glimore, 1923. Pl. 1. Corythosaurus excavatus のホロタイプ 前後長約77センチ

 1991年に私は博物館の事業としてMontana州Winifredで恐竜の発掘を行った。発掘したのがCorythosaurus casuarius であった。1年ぐらいかけて化石を仕上げて、その実物を使った半立体的な「貼り付け」骨格を作成した。

299 Montana州産 Corythosaurus casuarius骨格

 Gilmore, 1923論文はCorythosaurus記載(量は2ページ)の他に表題にあるように他の恐竜についても記している。47ページの終わりの方から51ページの初頭までの3ページと少しを使った「A Nearly Complete Skull And Ramus of Europlocephalus tutus Lambe」(Europlocephalus tutus Lambeのほとんど完全な頭蓋と下顎)、それぞれ1ページくらいの「Notes on a Ceratopsian Skull of the Genus Eoceratops」(Eoceratops属の角竜類頭蓋についての記録)、「On the First Occurrence of a Lacertian Reptile in the Belly River Formation」(Belly River 層からのトカゲ類爬虫類の初めての産出)が記されている。
 まず、Europlocephalus tutus Lambeとしてあるのは、アンキロサウルス類で、この属は最初Lambe (1902)によってStereocepualus tutusという名前で記載された(文献データは下に)が、Lynch, 1884に先取されていた(ハネカクシ;現生昆虫)ので、Lambe (1910)によってEuoplocephalusに改名された(文献データは下に)。Gilmoreはこの綴りを誤ってEuroplocephalus とした。なお、Euoplo-は、「良く防御された」というような意味であるが、もちろんカナダ産の標本で、「Euro-」としてしまったら意味不明となる。ここで報告された標本はかなり良好な頭蓋である。最後のトカゲの化石は脊椎骨の一片であまり興味を引かない。
⚪︎ Lambe, Lawrence Morris, 1902. New Genera and Species from the Belly River Series (Mid-Cretaceous). Contributions to Canadian Palæontology, Vol. 3. Part 2: 23-81, Plates 3-21. (白亜紀中頃のBelly River 層からの新属・新種)
⚪︎ Lambe, Lawrence Morris, 1910. Note on the Parietal Crest of Centrosaurus apertus and a proposed new generic Name for Stereocephalus tutus. The Ottawa Naturalist, vol. 24, No. 9: 149-151.(Centrosaurus apertus の頭頂部の稜についてのノートと、Stereocephalus tutus に与えられた新属名)

⚪︎ Gilmore, Charles, W., 1925.  A nearly complete articulated skeleton of Camarasaurus, a saurischian dinosaur from the Dinosaur National Monument, Utah. Memoirs of the Carnegie Museum, vol. 10, no. 3: 347-384, pls. 13-17.(Utah州の恐竜公園の竜盤類恐竜Camarasaurusの新しい完全に関節のつながった骨格)
 有名なUtah州・Morrison層のジュラ紀恐竜。ここでは関節が繋がったままの化石が発掘されたから、博物館にとって魅力的な場所である。全身の骨がそのまま化石になっている様子はすばらしい。

300 Gilmore, 1925. Pl. 13. Camarasaurus lentus (Marsh) 全身骨格

 文中の完全な頭骨のスケッチは、その後の多くの本で再録されている。

301 Gilmore, 1925. Fig. 1. Camarasaurus頭骨スケッチ 前後長約82センチ

 またPlate 17の全身骨格(側面図)有名なもの。北九州にあったCamarasaurus骨格レプリカもそれをもとに組み立てられていたが、2002年の新館建設の機会に予算をかけて新しい概念を取り入れた姿勢に組み直した。

301 Camarasaurus骨格の姿勢変更 2001.8.7

 写真は見づらいが、右端の骨盤の向きを変更したところ。それに伴って、その前の腰椎部分もかなり変更する必要があった。また、最初に組んであった脊椎骨のレプリカはちょっといい加減なもので代用していたので、その機会に良いレプリカに変更した。そのせいで、まだ着色していないものが写っている。

公団のケヤキ切り株

2022年02月17日 | 今日このごろ

 近くの公団に大きなケヤキが十数本あった。それを昨年2月18日頃に根元から切り倒してしまった。そのことについては、2021年2月28日の当ブログで「大樹の伐採」と題して報告した。

ケヤキの並木 2021.2.19 再録

伐採 2021.2.19 再録

幹に空洞のある切り株 2021.2.19 再録

 年輪数50を超える古い樹だから、2・3本の幹には空洞ができていたが、それ以外はしっかりしていたから、もったいない。切り株は、チェーンソウで切れ目を入れて大分低いところまでカットしたが、何しろ大きな樹だったから取り除くことはできず、10センチ以上も残って、周りを砂で覆い、パイロンを立てて躓かないよう目印にしていた。

残った切り株 2021.3.3

切り株を小さくする 2021.3.3

目印のパイロン 2021.7.2

 一年近く経った昨日(2月14日)から、やっとそれを特別な重機で取り除き始めた。アームの先端に直径20センチほどの大きな径のドリルと、その先に5センチほどの細いドリルが付いていて、回転する。

切り株ドリル 2022.2.15

上の写真の拡大 2021.2.15

作業完了 2021.2.15

 作業員の方に、この重機の名前を教えてもらったが「根株ドリル」と言うそうだ。そのままである。見ていると、ドリルが株に切り込むのは一度にほんの少しで、すぐに食い込むから逆回転して場所を変えている。これに適した重機ではあるが、それほど早くできるわけでもなさそう。二日目の15日までには終らず、昨日(16日)は作業がなかった。17本あったうちの、7本の切り株が残っているからもう2日ほどかかりそうだ。

古い本 その87 Gilmoreの恐竜に関する論文 1

2022年02月13日 | 今日このごろ
古い本 その87 Gilmoreの恐竜に関する論文 1

 Gilmoreの記した恐竜に関する論文コピーを紹介していく。

⚪︎ Gilmore, Charles, W., 1914. A New Ceratopsian Dinosaur from the Upper Cretaceous of Montana, with Note on Hypacrosaurus. Smithsonian Miscellaneous Collections, vol. 63, no. 3: 1-10, pls. 1-2.(Montana州の上部白亜系からの新属・新種角竜類と、Hypacrosaurusに関するノート)
 この論文のタイトルページを見て気づいたのだが、著者の肩書きに「Assistant Curator of Fossil Reptiles, U. S. National Museum」と書いてある。今回このブログではGilmoreの論文を15件挙げるが、そのうち14件に肩書きがある、すべて「U. S. National Museum」である。細かい違いがあるが、1914年の論文だけは「Assistant Curator of Fossil Reptiles, U. S. National Museum」、1919年から1923年の4件では「Associate curator of the division of paleontology」と、Division名も変わっている。1927年以降の論文では「Curator of Division of Vertebrate Paleontology」であった。
 この論文の内容は、Brachyceratops montanensis の新属・新種記載。添えられているHypacrosaurusの件というのは、8行ほどの経過報告のようなもので、あまりたいしたことは書いてない。主題の新属・新種のホロタイプは、バラバラになった頭蓋の構成骨(鼻骨・前頭骨など、フリルもある)で、Montana州 Milk River という場所産。同地産のパラタイプも二つほどある。地層はJudith River 層と対比されるBelly River Formation (Upper Cretaceous) である。Montana州の北西端、カナダと接するあたりである。

291 Gilmore, 1914. Plate 1. Brachyceratops montanensis 頭蓋右側面 

⚪︎ Gilmore, Charles, W., 1919. A Newly mounted skeleton of the Armoured Dinosaur, Stegosaurus stenops, in the United Stetes National Museum. Proceedings of the United States National Museum, vol. 54,no. 224: 383-390, pls. 57-63.(アメリカ国立博物館の装甲恐竜 Stegosaurus stenopsの新しく組み立てられた骨格)
 誰もが知っている Stegosaurus stenops Marshの骨格を新しく作ったという記事である。組立に使った各部位の骨のリストは長くて、その点数は125点以上あり、多くの標本を参考にしたことがわかる。逆に言えば単一の骨格の復元ではない、ということ。古い骨格はこういう復元が主な手法であって、珍しいことではない。全身の骨格がまとまって(それも関節が繋がって)出て来ればいいが、そんなことは滅多にない。

292 Gilmore, 1919. Plate 58. Stegosaurus stenops骨格

 この時製作されたStegosaurusの形態は、1980年ごろまで使われてきた。

293 北九州市立自然史博物館の Stegosaurus stenops 骨格 1986.8 (以前の復元:2000年頃改訂した)

 ところが、恐竜の骨格について全面的な見直しが行われ始めた。背中の脊椎骨のラインを直線的にすることと、尾が水平に後に伸び、地面に着かないことであったが、Stegosaurusについては、さらに背中の板の配列と向き、尾の棘の向きの二点が問題にされた。板と棘には基部に関節面がないので、方向についてのヒントが少ない。観察しても筋肉の付着面がはっきりしないから、方向を変える能力があった可能性は低い。左右の板は対称性がないから交互に出ていたのであろう、といったことから、新しい姿勢が提示された。

294 最近の Stegosaurus 復元「The Dinosauria」Fig. 16.1 (一部)

 私のいた博物館も、2002年の新館建設に先立って、すでに取得していたStegosaurus骨格の構造改変を行ったが、そのころには大方の意見が一致していたから企画するのはそれほど困難ではなかった。問題の手がかりは、脊椎骨の形態にあると思ったが、結局はよくわからなかったので大勢に従った。つまり、Stegosaurus(やそれに近い剣竜類)の胴体の脊椎骨では、椎体の位置と比べて横突起がずいぶん高いところにあること。

295 Stegosaurus の腰椎(番号は書いてない)「The Dinosauria」Fig. 16.6 (一部) スケール:10cm

 これの意味するところは、まず肋骨の二つの関節の間の距離が長いことであるが、呼吸方法と関係があるのだろうか。高い位置にある横突起に対して、神経棘の高さは特に高くない。そして時には神経棘の先端に水平の構造が見られる場合があること。そうすると板が水平に伸びるという説にも魅力がある。
 上の二つの挿図は、Weishampel et al. edits., 2004. The Dinosauria, 2nd edition, Univ. California Press. による。この本の文献リストに、Gilmoreの恐竜に関する論文は36件載っている。今回このブログでは9件(うち2件は亀関連の論文中に入れた)扱うから、4分の一にあたる。