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5月 Zeuglodon macrospondylus Müller(原鯨類)
文献:Müller, Johannes Peter 1849 Über die fossilen Reste der Zeuglodonten von Nordamerica, mit Rücksteht auf die europäischen Reste aus dieser Famillie. Verlag von Reimer, pp. 1-38, Taf. 1-27. (北アメリカのZeuglodon類の化石について、ヨーロッパのその科の化石に関連して)
この頃多くの原鯨類化石がAlabama州などで発見されたが、幾つかの個体を混同していたり、さらには見世物とするために意図的に多くの標本を混ぜて巨大に見せる例もあった。この論文は、プロイセンのフリードリッヒ・ヴィルヘルム四世国王に買い上げられ、ベルリンの王立解剖学博物館が所蔵していた(単行本「未確認動物UMAを科学する」2016. D. Loxton and D. Prothero著・松浦俊輔訳による)Koch収集のアメリカ・アラバマ州産標本を記載したもの。27枚もの着色した図版を伴っている。中にはほぼ完全な頭骨も含まれていた。
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Müller 1849. Tab. 22(一部)Zeuglodon macrospondylus 臼歯 この図は着色されていないのでモノクロにして示した。スケールは原図にない。
Zeuglodon macrospondylus Müllerは、Basilosaurus cetoides (Owen) のシノニムとされる。
Johannes Peter Müller (1801-1858) は、ドイツの生物学者。
ブログ「古い本 その72 Kelloggのメモ」で書いたが、インターネットで入手できたMüllerの論文は、スミソニアンの博物館にある原本をディジタル化したもの。このファイルには3枚の紙片が挟まれているのも見ることができる。そのうち2枚目についてはすでにブログで詳しく記した。結論としてKellogg 1936 「The Archaeoceti」の原稿を作る際のメモと推測した。
残り2枚の紙片を読んでみよう。1枚目は本文の前page iv(別ノンブル)にある「著者による前置き」に挟んである。
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紙片 1枚目 冒頭にある
印刷されたもので、内容は左が1単語ほど欠けているからよくわからないが、製本が手縫いの糸綴じであるから取り扱い注意といったことだろう。図書館が用意したものだろうから、内容とは関わりがない。
3枚目は、Tab. 7とTab. 9の間に挟んである。これは2枚目と同じくKelloggのメモだろう。
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紙片 3枚目 図版の中にある。
ところが、Tab. 8がデジタルファイルで抜けているではないか! いろいろ試みたが、このページは手に入らなかった。紙片は手書きで、左端が欠けている。
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紙片 3枚目 解読したもの
胸骨の図についてのメモに違いない。Müllerの図の説明によると、Taf. 8(pdfで欠如)Fig. 8を、「指骨の末端または最後方の胸骨」とし、Taf. 9, Figs. 3-5が「胸骨?」となっているから、これに対するメモであろう。そうすると上の解読の左端が青字のように推測できる。KelloggはMüllerの骨名と方向を検討して結論を書いたのだ。最後の行にあるStromer 1908に関しては、Kelloggは「The Archaeoceti」の文献目録に二件のStromer 1908を掲載しているが、ページが合うのは次の論文。
参考論文:Stromer, Ernst 1908. Die Archaeoceti des ägyptischen Eozäns. Beiträge zur Paläontologie und Geologie Östrreich-Ungarns und des Orients. Vol. 21: 106-177, plates 4-7.(エジプトの始新世の原鯨類)
この論文の135ページはZeuglodon Isisについて記してある部分。論文には4枚の図版があるがそのうちのTafel 5, 6に胸骨が出てくるから、それを参考にしたということだろうか。「inverted」は前後が逆ということだろうか。
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Stromer 1908. 胸骨の図。図を集めて配置した。
上はTaf, 5で、Zeuglodon Osirisの、左は最前方の胸骨(manubriumまたはpresternum:腹面)、右は最後方の胸骨(xiphisternum:腹面)、下はTaf. 6で、Zeuglodon Isisの、左は最前方の胸骨(側面)、中は同腹面、右は最後方の胸骨(腹面)。サイズはここに書いてない。胸骨は思ったよりも分厚いものなのだ。ちょっと気になるのは、前後端の胸骨標本が幾つか図示されているのに、中間の胸骨(mesosternum: ヒトの場合4個くらい)の標本の図が見当たらないこと。
このようにKelloggのメモの意味が分かった。納得!