1905年 Tyrannosaurus
やっとTyrannosaurusが登場。その論文は次のもの。
⚪︎ Osborn, Henry Fairfield, 1905 Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the American Museum of Natural History, Vol. 21, art. 14: 259-265. (Tyrannosaurus他の白亜紀肉食恐竜)
最初に、肉食恐竜の命名の歴史から書き始め、そのあと表題にある通り、Tyrannosaurus だけではなく、下記の恐竜の新属・新種の記載が並んでいる。並べ方は、現在の「Systematic description」に近い系統的な書き方がされている。
Tyrannosaurus rex n. gen., n. sp.
Dynamosaurus imperiosus n. gen., n. sp. (Tyrannosaurus rexのシノニムとされる)
Albertosaurus sarcophagus n. gen., n. sp.
Holotypeの標本番号の指定もある。Dynamosaurus imperiosusのholotypeである左下顎骨のスケッチが付いているが、Tyrannosaurus rexについては全身のおおざっぱな復元骨格の絵しかない。
376 Osborn, 1905. Fig. 2. Dynamosaurus imperiosus holotype 左下顎内側 前後長約90センチ
377 Osborn, 1905. Fig. 1. Tyrannosaurus rex 復元図
姿勢が古風なのはしかたがない。大きさの比較のため、人間の骨格が入れてあるが、この後これを真似る復元画がたくさん出てくる。「小さな前足を組み合わせたのは多分正しくない」と注記があるが、のちの骨格の発見で前肢が非常に小さいことがわかったのでよさそう。尾の上にあるのは復元画を描いたW. D. Matthewのサイン。
William Diller Matthew (1871-1930) は、アメリカ自然史博物館のcuratorで、古生物学者。絵を描くのが上手なのは遺伝するのか、娘のMargaret Matthew Colbert は化石生物の復元画の作者として有名で、Edwin Harris Colbertの配偶者。・・・えっ!私はMargaret Matthew Colbertとは面識があることになる。1977年2月に、Colbert 夫妻は京都を数日間訪れ、そのうちの一日奈良に行った。その時大学院生だった私が案内したのだった。
378 Margaret Matthew Colbert(だと思う) 奈良公園 1977.2
Colbert博士の奥様としてしか知らなかった。失礼なことをしていた。上の写真は昔の写真(デジタル化してファイルしてある)を引っ張り出したもの。Edwin Harris Colbert (1905-2001)もアメリカ自然史博物館で古脊椎動物の研究をした。日本では「脊椎動物の進化」(訳・田隅本生)初版1967・改定版1978(それぞれ上下2巻)で知られる。京都で田隅先生と一緒に夫妻を迎えて会食をした記憶がある。
この「古典的」の中に、私と関係のあった方が出てくるとは思わなかった。もちろんColbert博士の生誕がTyrannosaurus命名と同じ1905年だから、間接的で、世代の違う関係だが。「古典的・・」シリーズの開始の時、Colbert原著の「脊椎動物の進化」に出てくる恐竜のリスト作りから始めたのも、何かの縁だろうか。
Tyrannosaurusのデータは、比較的単純。
Tyrannosaurus, Osborn, 1905. 模式種: Tyrannosaurus rex Osborn, 1905.
産出地 Hell Creek, Dawson County, Montana 州 アメリカ
なお、Tyrannosaurusは最も注目されてきた恐竜なので、多くの種類が記載され、そして消えていった。属のレベルでは、北米のTyrannosaurusに対してアジアの近縁属のTarbosaurusがある。Tarbosaurus の記載は1955年、Maleevである。調べると二つの論文が出てくる。同じジャーナルの次の号に当たるのだから、明らかに初めの方が命名にあたるのだろう。
⚪︎ Maleev, E. A., 1955. [Giant carnivorous dinosaurs of Mongolia]. Doklady Academii Nauk USSR 104(4): 634-637. (Mongoliaの巨大な肉食恐竜)
⚪︎ Maleev, E. A., 1955. [New carnosaurous dinosaurs from the Upper Cretaceous of Mongolia] . Doklady Akademii Nauk USSR 104(5): 779-783. (Mongoliaの上部白亜系からの新種肉食恐竜)
英語翻訳したものがある。(translated by J. Alcockとしてある)しかし、図版は複製していない。ロシア語の文献は、見たことがあるような気がするが手元にはコピーを持っていない。まず、「Giant carnivorous...」論文は、短い前書きの後、Tyrannosaurus bataar n. sp.の記載がされている。Holotypeは#551-1 (Paleontological Institute of Academy of Sciences)としてあって頭蓋を含む。T. rexとの大きな違いは、鼻先が長いことと、歯の数が多いこと。
次に「New carnosaurous...」論文は、新属新種Tarbosaurus efremovi を提唱している。標本番号は#551-2で、頭蓋を含み、先ほどのT. bataarと連番になっている。その後、Gorgosaurus lancinator n. sp., Gorgosaurus novojilovi n. sp. の記載が続く。二つの論文で出てくる4種の最近の取り扱いは「The Dinosauria」ではすべてTarbosaurus bataar (Maleev, 1955) のシノニムリストに入っている。
Evgeny Aleksandrovich Maleev (1915-1966) はロシア(当時ソビエト)の古生物学者で恐竜ではTalarurus, Tarbosaurus, Therizinosaurusの命名で知られる。
TyrannosaurusやTarbosaurusに近い恐竜には他にもたくさんの属があったが、ほとんど消えてしまった。例えばJengiskhan 属というのがあった(Olshevski, 1995)が、あまり注目されることもなく、現在はTarbosaurus属のシノニムとされる。(冗談だが、どうせジンギスカン属を作るのなら、新種も設けて、Lambeに献名し、Jengiskhan lambeiとでもすれば、仔羊肉のジンギスカンとも読むことができて松尾さんが喜ぶのでは? lambeiが人名語尾だからそうは読めないか。)
2001年に北九州で開催された博覧祭のモンゴル館では、Tarbosaurus efremovi の幾つかの骨が展示された。自由に触ってよい、というサービスであった。
379 Tarbosaurusの中足骨 2001.8.4 モンゴルのパビリオンで撮影
Tarbosaurus efremoviはT. bataarのシノニムとされる。お願いしてアテンダントのAさんに持っていただいたが、そうでない時には積み上げた砂の山に置いているだけという扱いで、保管が大丈夫かと心配した。私が持っているところの写真も撮ってあるが、こちらの方が見栄えがする(令和ネット語でいうとばえる)。