そしてCuvierは次の文で、問題の標本について初めて言及した。この「古典的恐竜」ブログで出てくる論文の中で2番目に古い。19世紀最初の年である。
⚪︎ Cuvier, George, 1801. Extrait d'un ouvrage sur les espèces de quadrupèdes dont on a trouvé les ossemens dans l'intérieur de la terre. Journal de Physique, de Chimie et d'Histoire Naturelle et des Arts, avec des Planches en Taille-douce. Tome 52: 253–267. (世界中で発見された四足動物の骨の種類についての研究から抜粋)
465 Cuvier, 1801. ジャーナルのタイトル
まず、この長いジャーナル名の最後の単語「Taille-douce」というのは凹版ということで、図版の印刷方法である。基本的には銅板に彫刻またはエッチングして溝を作り、インクを塗ってから拭き取り、溝に残ったインクを紙に写し取る方法。なぜそれが表題にするほど重要なのだろう?ちなみにリトグラフ技法は、1798年の発明だからこの時利用できた可能性はある。ただし、翼竜に関する図版はない。インターネットで入手できるが、pdfは画像であってtext としての処理はできない。検索や翻訳のためにはフランス語を自分で打ち込まないといけない。
466 Cuvier, 1801. 論文のタイトル
それはいいとして、この文はいろいろな研究情報をまとめたものである。「今日、地球上のあらゆるところに最も大きな革命の反論できない痕跡があることを誰でも知っている。」という文章からはじまる。えっ?キュビエは進化論に反対していたのでは?よく読むと、革命という言葉を使っていて、進化とは言っていない。大きな天変地異で絶滅と再生を繰り返した、ということらしい。
「最近の多くの研究の抜粋」は262ページからはじまる。シベリアの象牙の発見の話である。ここでは発見者や研究者について触れられていない。Cuvier自身の研究だとも言っていない。2番目もマンモスの話だが、場所が違ってイギリスとアメリカ。3番目はシベリアのサイ、他にメガテリウム、洞窟の骨、さらにMaestrichtのワニ(後のMosasaurus)と進み、翼竜の件は11番目に短く出てくる。ここでは研究者としてColliniが挙げられている。1784年の論文のことだろう。短いから全部を翻訳しておこう。「11番目は、非常に特異な爬虫類で、Eichstättの近郊の頁岩に含まれていた。それについてはCollini氏がほぼ完全な骨格を記載した。標本はManheimの収蔵庫にある。その動物は小さくて現在の竜と名付けられた爬虫類のように飛ぶことができた。」小さな現在の竜というのは、おそらくトビトカゲのことで、胸に翼を持って滑空できる。属名はDracoである。そんなわけで、Cuvier, 1801の翼竜に関する部分は自身の研究に関するものではないし、もちろん命名はしていない。
復原の歴史を追った最近の論文(下記)によると、同じころにPterodactylusの復原画を描いた人がいる。
⚪︎ Taquet, Philippe and Kelvin Padian, 2004. The earliest known restoration of a pterosaur and the philosophical origins of Cuvier’s Ossemens Fossiles. Compte Rendus Palevol, 3 (2004): 157-175. (知られている最初の翼竜の復原とCuvierの「Ossemens Fossiles」の哲学的起源)
「Ossemens Fossiles」というのは、「化石骨」という意味だが、ここではずっと頼りにしてきた1812年の論文全体のタイトルの一部でもある。Taquet and Padian の論文にProfessor Hermannが1800年にCuvierに送った二枚の複原画のひとつが次のもの。
467 HermannによるPterodactylusの復原 Taquet and Padian, 2004
長く伸びた指骨(第IV指)が足首の近くまで回り込んでいる。左の翼が広がっているのは、おそらくCuvierによる改訂案だろう。元の形は異様に見えるが、現生のトビトカゲの「翼」の縁にはやや分厚いところがあるように見え、似ている。ただ、翼竜の化石ではこの部分がもっと直線的な指骨で構成されていて、矛盾する。トビトカゲの「翼」は肋骨で支えられているから全く別のもの。この図は当時公表されなかった。
まだ調べが足りないようだが、一応まとめておこう。
Pterodactylus 1812, Cuvier (この時にはptero-dactyle: のちにラテン語化): 模式種 Pterodactylus antiquus (Sömmerring, 1812) 命名の時にはOrnithocephalus antiquus。Holotype:MS629V, Bibliothèque centrale du Muséum national d’Histoire naturelle, Paris):
産出地 Eichstättか? ドイツ ジュラ紀
468 Holotype:MS629V, インターネットから
翼竜のスタートで、ずいぶん手間取ってしまった。命名史がややこしかったためだが、時代があまりにも古いので仕方がないし、むしろ私にとっては興味ふかく、また勉強になった。