OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その170 平牧動物群 5 

2024年07月13日 | 化石

 Gomphotherium annectensがこれまでに置かれたことのある属について調べている。
2/3. 属Hemimastodon Pilgrim, 1912
 種annectens記載の時に用いられた属名。1924年に日本語の予備的な論文(松本, 1924)で最初に使われ、英文の記載(Matsumoto, 1926)でも継承された。この属Hemimastodonの命名は、次の論文。
⚪︎ Pilgrim, Guy Ellcock, 1912. The vertebrate fauna of the Gaj Series in the Bugti Hills and the Punjab. Memoirs of the Geological Survey of India, Palaeontologia Indica, N. S. vol. 4, Mem. 2, pp. ii+83, 30 pls., geol. Map. (Bugti 丘陵とPunjabのGaj Seriesの脊椎動物群)(未入手)
 ところが、Osbornの280ページ脚注で「Matsumoto erroneously referred this species to Pilgrim’s genus Hemimastodon which proves to belong to the SUINA」(Matsumotoはこの種類(本文でHemimastodon annectens)を誤って猪豚亜目に属するHemimastodon (Pilgrim) を適用した)とした。これを引用した亀井の「日本の長鼻類化石」は、Osborn を引用して「このヘミマストドンという属名は、すでにピルグリムによってイノシシ下目に使われていたものを松本が誤って用いたものである」としたが、Osbornの原文とはちょっと意味が異なる。
 ところが、現在のデータで、Hemimastodon crepusculi, (Pilgrim 1908)という種名がいくつかのサイトで見られるが、すべて長鼻類となっている。この種類は、Tetrabelodon crepusculiという名前で Pilgrim が1908年に記載している。産出したのはGai層となっていて、インド(現在はパキスタンだろう)である。
 逆に猪豚類のHemimastodonという記事はインターネットの検索では出てこない。Osbornの言及(と、その引用)だけがHemimastodonという猪豚類を記している。Pilgrimの論文が入手できないとこの辺りは手詰まりである。下記の論文で論じてあるというが...。
⚪︎ Tassy, Pascal, 1982. Les principales dichotomies dans l’histoire des Proboscidea (Mammalia): une approche phylogênétique. Géobios, vol. 15, Supplement 1: 225-245. (長鼻類(哺乳類)の歴史における二分法の要点:系統発生学的なアプローチ)(未入手)
 これまた入手できなかった。このようにHemimastodonの記載の経緯は十分には分からないままで、「お手上げ」に近い。

4. 属Bunolophodon Vacek, 1877
 ホロタイプの発見された場所のすぐ近くから、ほとんど完全な下顎が発見された。これを研究したのは槇山次郎で、1931年に日本語で、次いで1938年に英文の記載を行った。それらの論文は次の通り。
⚪︎ 槇山次郎, 1931.  美濃上之郷村にて新に發掘されたマストドンに就いて.  地球, 16(5): 333-345.
 論文には、産出地点の地質スケッチが添えられている。

635 槇山, 1931. 第2図(左)第3図(右)第2図の下の方にあるB1が下顎の産出地点、第3図のC1が上顎の産出地点。

 第3図は佐藤, 1914の第2図と同じところだ、としてあるので、ここに佐藤の図を示しておこう。

636 佐藤, 1914. 第2図 「番上洞断崖の図」

 下から二番目のII層(黒色凝灰岩層)に三つの丸で囲んだ漢字がある。右の上の丸の中に「上」とあるのが、上顎の産出地点、その下は丸に脛で、脛骨(その後の状況不明)の産出地点、左に離れた丸に「大」は後に岡崎がこの象の大腿骨としたものの産出場所である。
⚪︎ 岡崎美彦, 1980. 可児地方産の哺乳動物四肢骨化石. 岐阜県史博物館調査研究報告. No. 1: 1-8, pls.1-3.

 この種類の学名の変遷や他の研究については、次の本が詳しい。
⚪︎ 亀井節夫・編著, 1991. 日本の長鼻類化石. 272 pp. 築地書館.