Bucklandの属名Megalosaurusの論文には5枚の図版(Plates 40-44)が付いている。ここでは3枚目のPlate 42を紹介する。左の5個の脊椎骨は、仙椎(2個)と前方の腰椎、後方の尾椎であるとしている。(腰椎・尾椎のどちらが2個なのだろう?)Bucklandの図はこの脊椎列を横から見たところで、右が前方であるらしい。
なお、図の右にある二つの脊椎骨は別の標本で、上が単独の腰椎で右側面、下は単独の尾椎の斜め後方からの図である。「単独の」と書いてある意味は、左の仙椎と別のところで発見されたということらしい。また、中央上の小さい脊椎の図は、右上の脊椎骨の関節面で、「少し地圧で変形している」としている。記入してあるスケールは、見づらいので少し太く書き直した。スケールは12インチ(約30.5 cm)である。そうすると左の仙椎列の前後長は約60cmという巨大なものである。Buckland, 1824に出てくる標本はすべてOxford Universityの博物館(現・Oxford University Museum of Natural History)に保管されている。
この標本は、のちのOwenの論文にも出てくる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/96/d920cfb7f1e1f6b0e0a4f4becae8205d.jpg)
2-2 Owen, 1856, Tab. 1, Megalosaurus. 仙椎(反転像・左が頭側)
このスケッチは、Bucklandのものと同じであるが、例によって反転像が示されている。Owenは、椎体の長さや神経の通路を考慮して、これらが5個の仙椎であるとした。図を見ると骨盤とつながっているところが5個の脊椎骨のどれにもあるように見えるのに、Bucklandは2個だけを仙椎だとしたのは、おそらく現生の多くの爬虫類の仙椎数が2であるからだろう。現生のワニも2個の仙椎を持つ。それに対してほとんどの哺乳類は3ないし5個の仙椎があり、奇蹄類などではもっと多い。
腰椎(胴椎とすべきかもしれない)と仙椎の区別は、骨盤と癒合しているのが仙椎であり、さらに仙椎同士も癒合している。だから、起源としての仙椎の数が増えたというよりは、後方の腰椎が骨盤と接点を持つようになって仙椎に取り込まれた、とするのが実際的だろう。後方でも尾椎が取り込まれたのかもしれない。このことを論じるのには、発生学的・系統学的な多くのデータが必要で容易ではない。
同じOwenの論文に、これとは別の仙椎の標本が報告されている。標本はTilgateのWealden層のもので、大英博物館所蔵。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/57/aa430294d227b3f634560f445123d6d3.jpg)
2-3 Owen, 1856, Tab. 2. Megalosaurus. 仙椎の一部. 側面
二枚の図があり、Tab. 2は側面図。本文では、「仙椎の1個とその後方の仙椎の大部分が」と書いてあるから、図の左が頭側ということになる。図は反転像である可能性が高い。実は印刷物では縦長の図なのだが、横位置に回転した。スケールは図に無く、「実物大」としてあるが、元の本の大きさを知らないので他の図から計算すると前後長約35 cmということになるが、精度は悪い。それに両端が切れているようだが、全容を描いた図はどこかにあるのだろうか? 次はTab. 3で、腹側の図。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/fd/b9678dad06f8b54a1a27c83096aa6d2d.jpg)
2-4 Owen, 1856, Tab. 3. Megalosaurus. 仙椎の一部. 腹側と尾側の図。
こんどは右側が頭側ということになりそう。
この他に地質学会のMuseumに第3の仙椎の標本があって、それはDry Sandford 産というが、図示されていない。
今回参照した論文は次のもの。
○ Buckland, William, 1824. Notice on the Megalosaurus or great Fossil Lizard of Stonesfield. Transactions of the Geological Society, London. 2nd Ser., vol. 1, Pt. 1: 390-396, Plates 40-44. and their explanation in 2 pages. (StonesfieldのMegalosaurus, または巨大な化石トカゲに関する報告)
○ Owen, Richard, 1856. Monograph on the Fossil Reptilia of the Wealden Formations, Part 3. Megalosaurus Bucklandi. Palaeontological Society, London. Monograph. Vol. 9; 2-26, tabs. 1-12. (Wealden層の化石爬虫類モノグラフ)