前回
Muraenosaurus について短く書いたが、著者Seeleyは、同じ雑誌の後の方のページに三つの属を記載した。論文は下記のもの。
⚪︎ Seeley, Harry Govier 1874. Note on some of the Generic Modifications of the Plesiosaurian Pectoral Arch. Quarterly Journal of the Geological Society of London. Vol. 30: 436-449.(長頚竜類の肩帯のいくつかの属ごとの変異について)
文中に
Plesiosaurus,
Eretmosaurus (n.),
Colymbosaurus (n.),
Muraenosaurus,
Rhomaleosaurus (n.), の5属の肩帯を比較している。属名の後に(n.)としてあるのは新属の意味。
Muraenosaurusが新属ではないのは、同じ雑誌の前の方のページですでに新属としたのだから。幼いカメ類の腹甲との比較がされているが、要するに長頚竜類の肩帯の骨が、他の爬虫類の肩帯の各構成骨とどのように対応するかということ。この論文では以前にこれについて論じた何人かの「大御所たち」の図を紹介して比較している。Owen (Fig. 4), Huxley (Fig. 5), Conybeare (Fig. 6), Hawkins (Fig. 7), の図を書き直した上で、著者自身の図((Figs. 8-13)を示している。
このように文中図がたくさんあるが、いずれも復元図で、化石実物の図はない。まず、Eretmosaurusの図。
512 Seeley, 1874. Fig. 9.
Eretmosaurus 肩帯復元図
こういう模式図的な図ではどうかな。注記があってLeocestershireのLias層の標本では「肩帯構成骨は保存が悪いので、これに関する解釈はあとで述べたい」としている。含まれている種については、「OwenがMonograph of Lias
Plesiosaursで記した
Pl. rugosus」を挙げている。年号が書いてないが、おそらく次のもの。
⚪︎ Owen, Richard. 1865. Monograph of the Liassic Formations. Part 1. Sauropterygia. Palaeontgraphical Society, Monograph vol. 17: 1-40, Tabs. 1-16. (Lias層の鰭竜類モノグラフ)
確かにその34ページに
Plesiosaurus rugosus Owenという見出しがある。
一方、Wikipediaでは
Plseiosaurus rugosusの記載論文として次の文献を挙げている。
⚪︎ Owen, Richard. 1840. Report on British fossil reptiles. Report of the Ninth Meeting of the British Association for the Advancement of Science, Reports on the Researches in Science: 43-126.(イギリスの化石爬虫類の報告)
この中にも確かに
Plseiosaurus rugosusが出てくる。全部で84ページの長い論文で、43ページから開始され、すぐに(45ページ)Part 1, Enaliosauria(Plesiosauria + Ichthyosauriaにあたる)が開始される。時代的に当然
Plesiosaurius と
Ichthyosaurusしか出てこない。この群の特徴が説明され、クジラ類との形態的な類似が言及されている。文中でPlesiosaurの複数形としてPlesiosauriがでてくるのが面白い。57ページから
Plesiosaurus属に含まれる種類の話に入る。出てくるのは
P. Hawkinsii (p. 57),
P. dolichodeirus (p. 60), P. macrocephalus Conybeare (p. 62), P. brachycephalus (p. 69), P. macromus (p. 72), P. pachyomus (p. 74),
P. arcuatus (p. 75),
P. subtrigonus (p. 77),
P. trigonus, Cuv. (?) (p. 78),
P. brachyspondylus Conybeare (p. 78), P
. costatus (p. 80),
P. doedicomus (p. 81),
P. rugosus (p. 82),
P. grandis (p. 83),
P. trochanterus (p. 85),
P. affinis (p. 86), で、このぺージから
Ichthyosaurusに進む。つまり16種を記録しているのだが、1種類がCuvierの, 2種類がConybeareの記載、残りがOwen自身の記載だという。この論文をそれぞれの初出論文だとしていいのだろう。余談だが、
Plesiosaurus rugosus はSeeleyが新属
Eretmosaurusを作って、
Eretmosaurus rugosus (Owen)となったが、1994年に標本が不備であるとしてneotypeを指定された。
⚪︎ Brown, David S. and Nathalie Bardet. 1994. "
Plesiosaurus rugosus Owen, 1840 (currently
Eretmosaurus rugosus; Reptilia, Plesiosauria): proposed designation of a neotype." Bulletin of Zoological Nomenclature 51.3 (1994): 247-249.(未入手)
次はColymbosaurusの図。
513 Seeley, 1874. Fig. 12.
Colymbosaurus 肩帯復元図
Eretmosaurusよりはずっとマシだ。次は前の論文で新属としたが、図のなかった
Muraenosaurus。
514 Seeley, 1874. Fig. 13.
Muraenosaurus 肩帯復元図
Seeley, 1874で新属とされたうち残る
Rhomaleosaurusの図はない。この属の模式種は、1863年に
Plesiosaurus cramptoniとして記載されていた種類。その論文は次のもの。
⚪︎ Carte, Alexander and W. H. Bailey, 1863. Description of a new species of
Plesiosaurus, from the Lias, near Whitby, Yorkshire. With plates. The Journal of the Royal Dublin Society , Vol. IV, pp. 160-170, pls.?.(YorkshireのWhitby周辺のLias層からの新種
Plesiosaurusの記載)(未入手)
Dublin(アイルランド)のジャーナルであるが、産出地はイギリスの北海側の中央部付近である。非常によく揃った標本らしく、レプリカのスケッチがある。
515
Plesiosaurus cramptoni標本のレプリカ(Henry Ward’sのカタログ 1866から)
上の図は次の論文にある。
⚪︎ Davidson, Jane, P. 2005. Henry A. Ward, "Catalogue of Casts of Fossils" (1866) and the Artistic Influence of Benjamin Waterhouse Hawkins on Ward. Transactions of the Kansas Academy of Science, vol. 108, nos. 3/4: 138-148. (1866年の「化石レプリカカタログ」とBenjamin Waterhouse Hawkinsが与えた芸術への影響)(未入手)
1851年の大博覧会で、ロンドンの水晶宮に恐竜のモデルを展示した話は有名だが、その後Benjamin Waterhouse Hawkins(1807−1894)作のコンクリート製の化石レプリカを置いたらしい。詳しいことはここの本題から離れるので興味ある方はお調べを。
元に戻って、1874年にSeeleyは中生代海生爬虫類などに関する論文を連発した。まず、
Muraenosaurusの記載、二番目がここに挙げたGeneric Modification、そのあとワニの脊椎骨に関するもの、魚竜
Ophtalmosaurusの記載、そして鳥類の
Megalornis記載である。残念ながらこの最後の3つは前に記したように図書館の原本に欠けているところがあって入手できなかったが、目次に掲載してあるのは確認した。いずれも発行日時は1874年2月1日である。アクセス料金をかければ入手可能と思われるが、今回はしない方針。まとめておこう。
Muraenosaurus Seeley, 1874a 模式種:
Muraenosaurus Leedsii, Seeley, 1874a
産出地 Huntingdonshire イギリス Jurassic
Eretmosaurus Seeley, 1874b模式種:
Eretmosaurus rugosus (Owen, 1840) =
Plesiosaurus rugosus Owen
産出地 Leicestershire イギリス Jurassic
Colymbosaurus Seeley, 1874b模式種:
Colymbosaurus megadeirus (Seeley, 1869) =
Plesiosaurus megadeirus Seeley
産出地 Oxford Clay, イギリス Jurassic
Rhomaleosaurus Seeley, 1874b模式種:
Rhomaleosaurus cramptoni (Carte et Bailey, 1863) =
Plesiosaurus cramptoni Carte et Bailey
産出地 Kettleness, near Whitby イギリス Jurassic