OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その166 平牧動物群 1

2024年04月21日 | 化石
 恐竜の古い論文に興味を持ったために、「古い本」シリーズの本来のテーマからはずれて随分別の道を進んでしまった。一旦分岐点に戻って私が以前入手した化石論文コピーの紹介をしよう。古い方から紹介してきて、「古い本」82で、Desmostylusの話に区切りをつけ、Gilmoreの亀の論文に入ったところで恐竜の迷路に踏み込んでしまったのだった。1910年ごろに戻ることになる。古い論文を紹介して、それに関連するものを列記していくことになる。目標は今から100年前まで。1910年から1925年ごろまでだからそれほど多いわけでもない。
 それに入る前に、最初の頃の「古い本」引用の形式がいい加減なので、ここでちゃんとした形で示しておく。
古い本 その6(2020.5.7)
○ Matsumoto, Hikoshitiro, 1926. On two new Mastodonts and an archetypal Stegodont of Japan. Science Reports of the Tohoku Imperial University, Ser. 2, vol. 10, no, 1; 1-11, pls. 1-5.  (日本産二種のマストドン類と一種の古形のステゴドン類新種)(Gomphotherium annectens関連)
古い本 その8(2020.5.19)
○ Makiyama, Jiro, 1938. Japonic Proboscidea. Memoirs of the College of Science, Kyoto Imperial University, Series B, 14(1): 1-59.  (日本の長鼻類)(Gomphotherium annectens関連)
古い本 その17(2020.7.28)
○ Shikama, Tokio, 1966. Postcranial Skeletons of Japanese Desmostylia. Plaeontological Society of Japan Special Papers, No. 12: 202 pp. (束柱類の体部骨格) (Desmostylus japonicus, Paleoparadoxia tabatai関連)
古い本 その18(2020.7.28)
○ Shikama, Tokio, 1966. On Some Desmostylian Teeth in Japan, with Stratigraphical Remarks on the Keton and Izumi Desmostylids.  Bulletin of the National Science Museum, vol.9, no.2:119-170, pls.1-6. (日本産束柱類数種の歯と気屯と泉の束柱類の層序学的指摘)(同上関連)
以上 改訂する。

 ここから岐阜県の瑞浪層群・平牧層群の中新世脊椎動物群に関連する論文を幾つか挙げる。まずはこの論文。
○ 佐藤傳蔵, 1914.  美濃産古象化石に就て.  地学雑26(30l): 21-28, pl. 2.
 岐阜県可児郡御嵩町上之郷から産出した長鼻類化石について記したもので。日本の中新世長鼻類の最初の報告である。著者の佐藤傳蔵(1870-1928)は、1898年から東京高等師範学校教授として、地質学・鉱物学を教えた。研究対象は非常に広く、資源や温泉、さらには考古学的遺跡の調査も行った。
 論文の主内容は、1913年11月に東京高等師範学校本科博物学部二年生の修学旅行で訪れた東濃中学(現在の東濃高校)に保存されていた長鼻類化石を見て、その所見を述べたもの。「予の浅学なると本邦に於ては這般(これら)の化石に関する文献に乏しきと、且修学旅行の都合上旅程を急ぎし為め其の観察の頗る疎漏なるとにより・・」と謙遜しているが、内容は現在から見ても的を得ている。佐藤はこの象の種類については「Tetrabelodonに属する者の如し」として、属の推定に止めている。そして、アフリカに祖先を持つこの類が、中新世の初めにユーラシアの東端の日本にまで分布を広げたことを強調している。この標本をどの属に含めるのかについてはその後多くの研究者が変更を重ねて混乱していたが、現在は統一された見解がまとまってきている。
 文末に、標本の斜め写真がある。

620 佐藤, 1914. Pl. 2. 上之郷産の長鼻類上顎(口蓋側)

 この標本は現在瑞浪市化石博物館に所蔵されている。現在の取り扱いは、Gomphotherium annectens (Matsumoto) である。学名の変遷については「古い本 その6」(2020年6月7日)から「その8」(2020年5月19日) でくわしく記したので、繰り返さない。この日本の種類はヨーロッパのGomphotherium angustidens (Cuvier) を代表とする多くの種のうち最も東から報告されている。
 そこで、G. angustidensの命名の経緯を調べておこう。この種類は、先にMastodon 属の中に種名が命名され、あとで属名が変更された。論文の年代順に見ていこう。長鼻類の命名史を調べるのなら、下記の論文に頼るしかない。
○ Osborn, Henry Fairfield, 1936. Proboscidea: A Monograph of the Discovery, Evolution, Migration and Extinction of the Mastodonts and Elephants of the World. Vol. 1. Moeritherioidea, Dinotherioidea Mastodontoidea. American Museum Press, New York. (長鼻類)
 2冊に渡る著作で、今回関係があるVolume 1の最後のページは802ページ、最後の文中図はFig. 680 (!)という大きな数字である(vol. 2はvol. 1から通しの数で、最終ページは1,675、最後の文中図はFig. 1,244。Vol. 2には30 Platesもある)。

621 Osborn 1936. Proboscidea カバー

622 Osborn 1936. Proboscidea Volume 1. Title

 関係するTrilophodonの部分はvol. 1の249ページから始まる。参考文献も豊富で、しかもリストの各論文に、その論文で現れる新属・新種などとその登場するページも記してあるから、今回のように命名史を調べるのに都合が良い。注意しなければいけないことは、各論文の年号のところで、例えば次にここで解説するCuvier, 1806年のものには「1806.3」と書いてある。これは1806年3月の意味ではなく1806年の3番目の意味である。現代ではこういう場合には「1806a」のようにアルファベットを付す。
 この著者はよく知られているように非常に細かく分類する手法で、読破は難しいが、幸いなことにここで知りたい種類は模式種など筆頭に出てくるものだから、見つけやすい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿