OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その100 古典的恐竜11 Marsh 1878-1887

2022年05月29日 | 化石

 つぎの恐竜に進む前に、「Principal Characters of American Jurassic dinosaurs.」シリーズについてまとめておこう。Part 1から Part 9までの9回のシリーズで、すべてCharles Othniel Marsh の単著、American Journal of Science and Arts (Part 3 からはAmerican Journal of Science) のSer. 3に掲載された。下記はそのリストで、副題を付けているが、副題のないものには私が勝手に内容の一部をカッコに入れて記した。さらに各回の中で新属または新種が含まれていれば後に記した。雑誌名+Ser.3をAJS3と略記した。すべてインターネットで読むことができる。

352 Part 1が掲載されたジャーナルのタイトルページ

⚪︎ Part I. 1878. (Morosaurus. Diplodocus and Laosaurus)AJ S3, vol. 16: 411-416, pls. 4-10. Diplodocus n. gen., D. longus n. sp.
⚪︎ Part 2. 1879. (Apatosaurus, Atlantosaurus and Allosauridae). AJ S3, vol. 17: 86-92, pls. 3-10.
⚪︎ Part 3. 1880.(Stegosaurus). AJ S3, vol. 19: 253-259, pls. 6-11.
⚪︎ Part 4. 1881. Spinal Cord, Pelvis, and Limbs of Stegosaurus. AJ S3, vol. 21: 167-170, pls. 6-8. (Stegosaurusの脊髄、骨盤、四肢)
⚪︎ Part 5. 1881. (Brontosaurus, Diracodon, Hallopus). AJ S3, vol. 21: 417-423, pls. 4-10. Brontosaurus amplus n. sp. Diracodon n. gen. D. laticeps n. sp. Hallopus n. gen.
⚪︎ Part 6. 1883. Restoration of Brontosaurus. AJ S3, vol. 26: 81-85, pl. 1. (Brontosaurusの復元)
⚪︎ Part 7. 1884. On the Diplodocidae, a new family of the Sauropoda. AJ S3, vol. 27: 161-167, pls. 3-4. 1 p. without nomble. (竜脚類の新科、Diplodocidae)
⚪︎ Part 8. 1884. The Order Theropoda. AJ S3, vol. 27: 329-340, pls. 8-14. (獣竜目)
⚪︎ Part 9. 1887. The skull and dermal armor of Stegosaurus. AJ S3,, 34:413-417, pls. 6-9. (Stegosaurusの頭蓋と皮膚の装甲)

 このように、Marshは新種記載のためというよりは、良い標本が出てきた時に、新しい知見をその都度書いたようだ。骨化石のスケッチについては、同じものを二度使っている例もある。
 よく似た題名の論文に次のものがある。
⚪︎ Marsh, Charles Othniel, 1884. Principal Characters of American Cretaceous Pterodactyls. Part 1. The Skull of Pteranodon. American Journal of Science, Ser. 3, vol. 27: 423-426, pl. 15. (アメリカの白亜紀紀翼竜の主な特徴)

353 Marsh, 1884. Plate 15. Pteranodon longiceps 頭蓋 下顎長58.5cm

 この図は足りないところを他の標本(別種を含む)を参考に復元したもの。 Pternodon longicepsは、Marsh,1876で新属・新種記載されたもの。その時には図示されなかった。後にEaton, 1910が原標本の写真を示している。

354 Eaton, 1910. Plate 1(一部)Pteranodon longiceps 頭蓋(holotype)前後長約70センチ

 Eatonの論文はすでに「古い本 その83」で紹介した。
Eaton, George F. 1910 Osteology of Pteranodon. Memoirs of the Connecticut Academy of Arts and Sciences, 2: 1-38, pls. 1-31. (翼竜の骨学)既出
 翼竜については、「古典的恐竜」に続いて記す予定なので、ここまでにする。なお、Marshの翼竜のシリーズはPart I だけしか見当たらなかった。

 本に関する記事が「その100」に達した。すでに「その144」まで書いてある。ただし少しだけ訂正を要するページがある。在庫分だけで半年近くは継続するし、その後も書いていくつもり。

ガガーリン(臨時投稿)

2022年05月28日 | 50年・60年
ガガーリン(臨時投稿)

 この投稿が数日遅れてしまったが、60年前の1962年5月25日に私はガガーリン氏と握手(といってもこちらから勝手に手を伸ばしたのだが)した。その前年に人工衛星で人類最初の地球周回をした彼は、世界各地を回ってパレードや集会に参加してソビエトの国威発揚に努めた。
 日本でも東京ばかりではなく幾つかの都市を訪れた。私が見たのはそのうちの名古屋・金山体育館で行われたものだった。私は当時親しくしていた同窓生のM君とともに行った。M君は物理・天文・宇宙といったところに詳しく、その影響は現在の私にも強く働いている。観客席の中央に前後方向の赤絨毯が敷かれ、彼は後ろの出入り口から入って中央を通って壇上に上る手順だった。警備はゆるくて、絨毯を歩く彼に多くの人たちが手を差し伸べていた。私はその一人。握った手はやや湿っていて暖かく、分厚かった。意外にも巨漢ではなく、軍服に包まれた体は筋肉質の印象があったが、記憶はあいまい。
 会場は政治的色彩が強くて、私はそういう場に慣れていなかったから戸惑った。ガガーリン氏は数年後に戦闘機の事故で亡くなった。

 記憶しているのはこの程度。後に私は日本の宇宙飛行士の毛利 衛氏とお話しする機会があった。この時、ガガーリン氏と「握手」したことを告げると、大変に羨ましがられた。「ガガーリンの手のぬくもりをお伝えします。」などと、柄にもあわないことを言って毛利氏と握手させていただいた。こんどは双方の意識があっての握手であった。毛利氏は、「私はアームストロング氏と握手をしたことがあるので、(そのぬくもりを)お返しします。」と答えてくださった。
 そんなわけで、「私と握手した人がそれ以前に握手した人」のリストには、たぶん次のような方々が含まれる(敬称略)。宇宙飛行士のチトフ・テレシコワ・アームストロング(ニール)・コリンズ・オルドリン。他ケネディー・フルシチョフを含む当時の各国首脳(今年在位70年のエリザベス女王とガガーリン氏は会っているが握手しただろうか?)。

古い本 その99 古典的恐竜10 1877年・1878年

2022年05月25日 | 化石

 前のMarsh, 1877の論文に戻る。この論文には次の種類の記載が並んでいる。
Apatosaurus ajax gen. et sp. nov.
Apatosaurus grandis, sp. nov.
Allosaurus fragilis, gen. et sp. nov.
Nanosaurus rex, gen. et sp. nov.
 これらの記載は驚くほど短く、図版も無い。何しろ3属4種の新しい学名を記述するのに3ページしか使っていないのだ。Apatosaurusの二種類の記述では、この年6月にMarshが記載した大型の竜脚類Atlantosaurus montanus との比較を中心として、主に脊椎骨の形態を述べている。最後のNanosaurus rexは鳥盤類で、この後あまり使われていない。最近他の属に移すという意見もあるようだが、そうならこの属にそちらを入れるのがスジではなかろうか。論文を読んでないので、自信がない。そんなことはないだろうが、「rex」という名前のために本家に遠慮して使いにくいのかな。
 Allosaurus fragilis はこの属の模式種。のちにMadsenが刊行した下記の本が肉食恐竜の部分骨を調べるのに重宝した。
⚪︎ Madsen, James H., 1976. Allosaurus fragilis: a Revised Osteology. Utah Geological and Mineral Survey, Bull. 109: 177 pp. (Allosaurus fragilis: 改訂した骨学)
 この本は所持していたが、なぜか今手元に見つからない。
 以上の調べから次のデータが正しそう。
Allosaurus Marsh, 1877.12 模式種: Allosaurus fragilis Marsh, 1877.12
産出地 Colorado州 アメリカ

1878年 Diplodocus
 この属の記載論文は次のもの。
⚪︎ Marsh, Charles Othniel, 1878. Principal characters of American Jurassic dinosaurs. Part I. American Journal of Science and Arts. Ser. 3, vol. 16: 411-416, pls. 4-10. (アメリカのジュラ紀恐竜の主な特徴 Part 1.)
 Marshのこの表題の論文シリーズは、ここに記した「Part 1」(1878)から、「Part 9」(1887)の9本と1884年の似た表題の合計10本ある。1から3と5は、Part番号だけしかないが、他のものは内容が副題になっている。Parts 4と9はStgosaurus関係、Parts 6,7は竜脚類、Part 8と1884年の番号のないものがTheropoda関連である。今回はPart 1について。
 記載してある恐竜は、まず竜脚類について。Morosaurus, Marsh, 1878 について記されているが、この属はのちにCamarasaurusに入れられた。次に記されているのがDiplodocus longus で、新属新種として出てくる。そして、この属の特徴が明瞭に書かれている。抄訳すると「これまでに知られている属と次のことで区別される。長くて腹側が深く凹んだ尾椎と、前方と後方の部分を持つ二重のV字骨。」そして属名はこのことに由来するという。そうだとすると、多くの恐竜に関する日本の一般書で、語源を「二重の梁」としているのは正しいのだろうか。
 この後、Laosaurus Marsh, 1878 について記してあるのだが、ここについては省略する。図版には上に出てきた3属の恐竜の図がある。Diplodocusに関する図は少ししかない。

346 Marsh, 1878.Plate 8(一部) Diplodocus longus V字骨(二個)右の骨の前後長約40cm これが「Diplodocus」の名の由来という。

 この論文の図はこれまでの図の中ではよくできたスクライブ技法で描かれている。なにか洋服のハンガーのカタログみたいだ。他の図として、ここではMorosaurus (=Camarasaurus)の歯と肩甲骨の図を掲載する。

347 Marsh, 1878.Plate 5(一部) Morosaurus (= Camarasaurus) grandis 歯 長さ約8cm

348 Marsh, 1878.Plate 6. Morosaurus (=Camarasaurus) grandis 左肩甲骨 長さ約140cm
 もう一つDiplodocusについて記しておこう。この恐竜の骨格について、Hatcherが下記の論文を書いている。
⚪︎ Hatcher, John Bell, 1901. Diplodocus (Marsh): Its Osteology, Taxonomy, and Probable Habits, with a restoration of the skeleton. Memoirs of the Carnegie Museum. Vol. l, No. l: 1-63, Plates 1-13. (Diplodocus (Marsh):その骨学、分類学、あり得る生態骨格復元とともに)
 この論文は、主にDidlodocus carnegii の記載で、カーネギー博物館のMemoirの最初の論文である。63ページ、13図版の堂々たるもので、種名がcarnegiiであることも、巻頭論文にふさわしかったのだろう。

349 Hatcher, 1901. Plate 3. Didlodocus carnegii 頸椎

 この頸椎の図を見ると複雑な凹みと稜で構成されていて、軽量化の極致というべき形態が見える。

350 Hatcher, 1901. Plate 13. Didlodocus carnegii 全身骨格

 誤解があるかもしれないが、のちに世界各国10カ所以上の博物館にCarnegieが寄贈した竜脚類恐竜はDiplodocusではなくてBrontosaurus であった。アメリカの製鉄業が大きな利潤を生み出していたことを記憶するできごとである。
 Carnegie Museumは、このMemoirの他にも幾つかのジャーナルを発行している。例えば「Annals of the Carnegie Museum」も1901年の創刊で、こちらのVol. 1にはHatcherのBrontosaurusの論文が掲載されている。
⚪︎ Hatcher, John Bell, 1902. Structure of the Fore Limb and Manus of Brontosaurus. Annals of the Carnegie Museum. Vol. 1. 356-376, Plates 19-20. (Brontosaurusの前肢と指骨の構造)

351 Hatcher, 1902. Plate 19. Brontosaurus 尺骨・橈骨・指骨(足裏側)

 前足の親指だけが尖っているのがよく分かる。
 John Bell Hatcher (1861-1904) は、アメリカの古生物学者。Marshの教育を受けて化石標本の収集に力を注いだ。このころCarnegie博物館のキュレーターを務めていた。
 以上のように次のデータが正しいと思う。
Diplodocus Marsh, 1878 模式種 Diplodocus grandis Marsh, 1878
産出地 Canon City, Colorado州 アメリカ

ちょっと温泉に

2022年05月21日 | 今日このごろ

 コロナ関連の割引を利用して温泉に行ってきた。目的地は佐賀県の嬉野温泉。昨年12月に池袋の化石・鉱物ショーに行って以来の県境越えである。自家用車で出かけたから、鉄道乗車はない。九州自動車道で鳥栖に向かう鉄道の場合、鹿児島本線は一度佐賀県に入ってまた福岡県にもどるのだが、高速道の場合は、県境上を通るから、何度県境を越えたか定かではない。一応片道3回越えたとカウントしておこう。
 最初の訪問地は武雄の御船山楽園。花がきれいな所だが、ツツジが終わったばかりで、ほとんど何もない。二つの急峻な岩山が、掛尾温泉駅の方からよく見える所。この山は中新世の流紋岩岩頸とされているようだが、新しい論文を読んでいないので確かではない。古い論文では「ジルコンによる年代」となっているが、どうやらフィッショントラックではなく、群色と呼ばれるジルコンの色に基づく年代らしい。

1 御船山楽園から見た岩頸のひとつ。 2022.5.18 武雄

 園内が坂道ばかりなので、全部歩くのはあきらめて宿泊地の嬉野へ。ホテルに着いたが、時間が早いので喫茶店を探しに散策。途中「豊玉姫神社」というのをみつけて、参拝に。豊玉姫は竜宮城の住人で、浦島太郎を歓待した神様。姫のお使いはナマズの形で現れるのだそうだ。地震災害が多いからここに安全をお願いしておこう。

2 豊玉姫神社参道 2022.5.18 嬉野

 大阪層群で見つかった「マチカネワニ」は、当初Tomistoma属として命名された(Kamei and Matsumoto in 小畠・他, 1965)が、1983年に新属として記録された(Aoki, R., 1983)。その新属名が、豊玉姫から由来する「Toyotamaphimeia」なのだ。それで境内の写真を撮らせていただいた。なお、最初の論文の筆頭命名者は小畠信夫・大阪大学教授で、よみは「こばたけ」である。同じ頃科博に恐竜の本をたくさん出された小畠郁生氏がいたから、まちがいやすい。そして、記載部分の著者Kamei and Matsumoto は、京都大学の亀井節夫教授と国立科学博物館の松本英二博士である。古生物学・地質学には松本姓の先生が多いからまちがいやすい。1965年の小畠信夫以外の共著者は千地万造・池辺展生・石田志朗・亀井節夫・中世古幸次郎・松本英二の諸氏(敬称略)で、私はとっては(小畠先生にはお会いしていないが)大変お世話になった先生方である。
 新属名が-phimeiaであって-himeiaでない理由は知らない。Aokiの論文にはそっけなく「Toyotamaphimeia, a Japanese goddess of the crocodilian incarnate.(豊玉姫;日本のワニの化身の女神)と書いてあるだけ。昔(平安時代頃)の日本でphiと発音したのかもしれない。しかし、その時代に日本にいないワニに化身する神というのが想像できるのだろうか。神社の建立は古く、1573年から1592年の間に戦火で焼失、その後再建という。「戦火」というのは、1586から87年の秀吉の九州出兵かな?歴史に興味のある方はお調べ頂きたい。
 境内にはいくつかの白いナマズの像がおいてある。

3 豊玉姫神社のナマズ 2022.5.19

 手水舎には温泉街らしく暖かい手洗いがある。注意書きがあって、温泉のため飲めないそうだ。手水舎にもワニの使いのナマズが。

4 手水舎のナマズ 2022.5.19

5 豊玉姫神社の揭額 2022.5.19

 スマホで出てきた喫茶店6軒をまわったが、一つも営業していないか業態が変わっていてカラオケ店だったりして、一度も座ることなく1時間ほど散歩してホテルに戻った。 
 翌日の帰途、博多の有名うなぎ店Yで昼食をとって帰宅。

古い本 その98 古典的恐竜9  1877年

2022年05月17日 | 化石

1877年 Stegosaurus
 これに関する記載論文は次のもの。
⚪︎ Marsh, Charles Othniel, 1877. A new Order of Extinct Reptilia (Stegosauria) from the Jurassic of the Rocky Mountains. American Journal of Science and Arts. Vol. 14: 513-514. (ロッキー山脈のジュラ系からの絶滅爬虫類新目Stegosauria)1877年12月発行
 2ページだけの論文で、新属新種を提唱しているが、図版はない。母岩が硬いので、記載には時間がかかるとしているから、この時点でまだ剖出が完了していないことを暗示している。記載部分の9行目に、「The body was long, and protected by large bony dermal plates, somewhat like those of Atlantochelys (Protostega).」(体は長く、Atlantochelys (Protostega)にある程度似た骨質の皮質骨の長くて大きな板で保護されている)としていて、特徴は十分にとらえていると言えるだろう。ただし、この板が皮膚から突き出るようになっていたと考えていたかどうかはわからない。「dermal plates」というのは通常皮膚の下にある板状の構造で、表面と平行なものを想定していたのかもしれない。Atlantochelys は1849年にAgassizが、Protostega はCopeが1871年に記載したウミガメで、これらを似ているように書いているということは内部にあったと考えたのだろうか? 形態はProtostegaの腹甲が似ていないでもないが、たいていのウミガメに似ていることになる。
 1877年に属の記載をした時に、模式種としてStegosaurus armatus が同時に記載された。ところがのちにこの標本が不十分な情報だけしか持っていないということで、一般的には模式種としてS. stenops Marsh, 1877を挙げている。他にも多くの種類が記載されたがシノニムとされたり、疑問種とされたりして、現在は3種類 S. stenops, S. ungulatus Marsh, 1879, S. sulcatus Marsh, 1887にまとめられているという。最初の論文に図がないので、初期に図示された論文として次のものを挙げておく。
⚪︎ Marsh, Charles Othniel, 1887. Principal characters of American Jurassic dinosaurs, Part IX, The skull and derml armor of Stegosaurus. American Journal of Science, ser. 3, 34:413-417, pls. 6-9. (アメリカのジュラ紀恐竜の主な特徴 Part IX.)
 「Part IX」となっているが、このシリーズについては後でまとめることにする。
 図版は4枚あって、最初の図は頭骨、次の二枚は背中の板と尾の棘、4枚目は尾のあたりの産状である。ここでは頭骨の図以外の3枚を示す。板の裏表にはあまり差異が無く、その点で亀の甲羅とは全く異なる。

342 Marsh, 1887. Plate 7. Stegosaurus ungulatus. 背中の板

 上から喉のあたりの板、尾部の板、背中の板としてある。この類では全身が出てこないと何番目かということを明確に示すことは難しい。また、幾つかの脊椎骨にまたがって配置する上に、左右が互い違いらしい。

343 Marsh, 1887. Plate 8. Stegosaurus ungulatus(上中段), S. sulcatus (下段)棘

 尾の棘も配列と向きには諸説あった。

344 Marsh, 1887. Plate 9. Diracodon laitceps 尾部

 Diracodon laitceps はStegosaurus armatus のシノニムと考えられる。こういう産状を調べて、棘の数や方向が決定されてきた。それには約100年かかったことになる。
 以上の調べから次のデータが正しそう。
Stegosaurus Marsh, 1877.12 模式種: Stegosaurus armatus Marsh, 1877.12 (=S. stenops Marsh, 1877)
産出地 「ロッキー山脈の東麓」アメリカ

1877年 Allosaurus
 次に記載されたのはAllosaurusである。その記載論文が次のもの。なお、この論文はこのブログで直前に書いたStegosaurus記載論文(Marsh, 1877)と同じ号の直後の論文である。
⚪︎ Marsh Charles Othniel, 1877. Notice of New Dinosaurian Reptiles from the Jurassic formation. American Journal of Science and Arts ser. 3, vol. 14: 514-516.(ジュラ紀層からの爬虫類新種)1877年12月発行
 恐竜の一般書にも書かれたことがあるが、AllosaurusAntrodemus Leidy, 1870と同一のものであると考えられる (Gilmore, 1920) が、その命名記載は「情報に乏しく種を識別する特徴も発掘地に関する情報も無いし、地層名さえ書かれていない」ので疑問のある属 (Madsen, 1993)とされ、現在はAllosaurusを用いるのが一般的である。Antrodemusの記載論文は、次の論文を見る必要がある。
⚪︎ Leidy, Joseph, 1870. Remarks on Poicilopleuron valens, Cidastes intermedius, Leiodon proriger, Baptemys wyomingensis, and Emys stevensonianus. Proceedings of the Academy of Natural Sciences, Philadelphia. Vol. 22: 3-4. ([上記学名]の各種に関する意見)
 議事録のようなもので、著者は明確ではない。発言者はたしかにLeidyである。問題の標本は一個の尾椎で途中まではPoicilopleuron valens として扱われている。正しい綴りはPoekilopleuronで、獣脚類恐竜である。論文の後の方で、形態上の違いを挙げて属名をAntrodemusと名付けている。図版は無い。椎骨は半分しか無いが、全体の長さは6インチ(約15センチ)かそれ以上あったと推測している。

345 Antrodemus valens holotype ネットから

 見つけた人は化石化した馬の蹄と思ったという。確かに蹄鉄まで付いているようにも見えるけど。