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池袋ショーに行ってきました 4 入手した化石 下

2023年12月25日 | 化石
4 コプロライト

17 コプロライト ジュラ紀 Mühlheim, ドイツ

 おなじみのゾルンホーフェンの石板石に見られる糞石。珍しいものではない。魚類の糞であるという化石商の説明である。痕跡化石のLumbricaria intestinum Münsterだろう。この種名の著者は、インターネットで「Münster, 1831」もしくは「Münster in Goldfuss, 1831」とされているが、文献の表題などは記されていない。たぶん次の論文がそれだろう。探すのに大分手間取った。
○ Goldfuss, August. 1831. Petrefacta Germaniae: 1. Theil, 2. Auflage. Arnz & Co., Düsseldorf, 252 pp, 71 Taf. (by Münster. Genus Lumbricaria: 222-224, Tab. 66.) (ドイツの岩石)
 この論文は、ドイツの多くの化石種を列記したもので、それぞれ記載がある。222ページに「Divisio Tertia: Annulatorum Reliquiare. Ringelwürmer der Vorwelt」(太古の環形動物) という見出しがあって、その最初の属がLumbricariaであり、Münsterの命名と記してある。最初にラテン語で(属の)特徴が「体は裸で、円筒形、柔らかく、細長く、様々にねじれ、湾曲していたり真っ直ぐだったりする」としている。その本質については「これらを博学なBuckland氏が書いた糞石の図と比較すれば、それらがヒトデや小魚を餌とした海の動物の排泄物に他ならぬのは疑う余地がない」という。Buckland 氏というのはもちろんMegalosaurusを記載(1824年)したイギリスのバックランドである。しかし、彼の論文には今回の糞化石と似たものは記されていない。もっと大きな動物の糞化石と思われるものが図示されている。その論文は次のもの。
○ Buckland, William. 1829. On the Discovery of Coprolite, or Faeces, in the Lias at Lyme Regis, and in other Formation. Transactions of the Geological Society of London. Second Series. Vol. 3: 223-236, pls. 29-31. (Lyme Regis のLias層他からの糞化石。Coproliteの発見)
 この論文の発行年に少し疑問がある。タイトルページに1835年と書いてあるのだ。しかし1831年のGoldfuss論文に引用できるわけはない。内容は1829年の2月に口頭発表されているが、Goldfussの引用書きにはページも書いてある。そうすると、Buckland の論文はTransactionsの分冊に入っていて、その分冊に年号が書いてあるに違いない。すぐには解決できそうにないから、1829年発行としておく。
 このあと、Goldfussは種の説明に入り、Lumbricaria Intestinum, L. Colon, L. recta, L. gordialis, L. coniugata, L. Filaria の6種を記載している。いずれも命名者をMünsterと明記している。3ページほどで次の属Serpula Linnaeus に移る。現代のリストを見ても、Lumbricaria 属に種数が増えているわけではない。例えばHarvard大学のデータベースでは、4種が挙げられているが、すべてMünsterの種である(L. rectaL. coniguataは含まれていない。かなり異なるものである)。Lumbricaria 6種は、Tabula 66に図示されている。うち現在使われている4種を見よう。図版にはスケールがなく、すべて実物大となっているが、原本のサイズはわからない。

18 Goldfuss 1831, Tab. 66, Fig. 1a-1c. Lumbricaria Intestinum

19 Goldfuss 1831, Tab. 66, Fig. 2a-2d. Lumbricaria Colon

20 Goldfuss 1831, Tab. 66, Fig. 4a-4b. Lumbricaria gordialis

21 Goldfuss 1831, Tab. 66, Fig. 6a-6c. Lumbricaria Filaria

 これらの図は一枚の図版の中の種類の同じものを取り出したもの。周りの別種は消してある。また、下の二図はやや拡大してあるからこの2種のサイズはずいぶん小さいことになる。このひも状の糞は、かなりこんがらがっているようだ。上からひも状のものが落ちてきたのではなく、塊で海底を転がったのだろうか。標本は地層の上面を見ていると思うが、下面であってもこのことは同じ。
 最近このような化石がアンモナイト類の糞ではないかという論文が出版された。
○ Knaust, Dirk and René Hoffmann, 2020. The ichnogenus Lumbricaria Münster from the Upper Jurassic of Germany interpreted as faecal strings of ammonites. Papers in Palaeontology, Vol. 6
https://doi.org/10.1002/spp2.1311  (ドイツの上部ジュラ系の痕跡化石Lumbricaria Münster はアンモナイトのひも状の糞と考えられる)
<未入手 要旨を読んだ>
 なお、この論文の要旨は、科学技術研究機構の翻訳プロジェクトで、日本語に「京大機械翻訳」されたものが公表されているが、十分に日本語になっていない。英語の方を読むのをお勧めする。
 また、インターネットで見ることので見る飼育下のオウムガイの糞の写真はこの類の化石にやや近い。違いは、現生オウムガイの糞では「ひも」の途中で急激に組織や外見が異なるところがあるという点である。
 結論として、今回入手した標本はLumbricaria intestinum Münster が最も近く、アンモナイトの糞であることが推測される。
(入手化石についてここまで)

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