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古い本 その150 古典的論文補遺 その1

2023年09月13日 | 化石

 ちょっと縁のないものの例としてPlacodusを紹介しよう。19世紀にすでに知られていた爬虫類で、長頚竜類にやや近い三畳紀の海生爬虫類である。なお、下記の論文全体では、第1巻から第5巻までと、それぞれのAtlas(図版)の計10巻からなり、発行年は1833-1845となっていて、巻ごとの発行年はどこに書いてあるかわからない。ある資料ではPlacodus属の命名年を1843年としているから一応そうしておく。
⚪︎ L. Agassiz. 1843. Recherches Sur Les Poissons Fossiles. Tome I (livr. 18). Imprimerie de Petitpierre, Neuchatel . (化石魚類の研究)
 以下の引用は、部分的なページを(Part)として記したが、本来は一続きのもの。
 この標題で分かるように、AgassizはPlacodusを魚類だと考えていたようだ。Picnodontsという、体高の高いグループにGyrodusなどと一緒にまとめられている。
(Part) Agassiz, L., 1843?. Chapitre 4. Du genre Placodus Agass. Part 2, Text: 217-222, Part 2 Atlas: Tab. 70-71.
Placodus 属にはP. gigasなど5新種が示されている。別の巻に図版がまとめられていて、カラーのスケッチがある。

559 Agassiz, 1843. Tab. 70. Placodus spp. 頭骨・歯

 模式種のPlacodus gigas は、右下の頭骨口蓋面と、その上の左下顎骨側面と背面の二つ、他に歯の幾つかが同種のものである。これを見てもどうなっているのかわからない。黒く強調されているのが歯で、外側(唇側)の列は上顎骨に生えているが、口蓋骨にはもっと大きな歯が3対ある。現在は頭骨の全形が分かっていて、RomerのVertebrate Paleontologyに頭骨の骨の構成の分かる図がある。

560 Romer, 1966, p. 126. Placodus 頭骨 (After Broili) 頭骨の全長は約15cm

 この図では下顎の形態がわからないが、Meyerの論文にそれがわかる図がある。

561 Meyer, 1862. Tafel 9. Placodus Andriani 下顎

 上のスケッチの掲載された論文は次のもの。ディジタル化がうまくいっていないので、ちょっと薄くなったところがある。
⚪︎ Meyer. Hermann von, 1862. Placodus Andriani aus dem Muschelkalke der Gegend von Braunschweig. Palaeontographica Beiträge zur naturgeschichte der Vorzeit, Band 10, Lief. 2: 57-61, Tafel 9.(Braunschweig地域のMuschelkalkeからのPlacodus Andriani
 Muschelkalkeというのは、ドイツの三畳紀の地層のうちの中部の名称。貝殻石灰岩と言う意味。「三畳紀」というのは、ドイツでは下からBundsandstein, Muschelkalk, Keuperの三つが重なることから名付けられたことは、地質学では知っていて当然。現在はこの地層(時代)を二つ(AnisianとLadinian)に分ける。
 全身の形はこんなもの。平たい体で、海底の貝類を破砕して食べていたという。左右の下顎の融合部の前後長が長い動物は、下顎で地面を掘るような動きに適応したものと言われる。やはり貝を掘るのだろうか。

562 Romer, 1966, p. 126. Placodus 全身 (After Peyer) 頭骨の全長は約15cm

 ここまでのデータを整理しておく。そのあと、これまでに書いた内容に不足や誤りがあったので、それぞれ訂正と追記をする。どうして間違ったのかも書いておこう。
 古い中生代爬虫類他の論文集めをした。意外だったのは、調べた6つのグループの中で、翼竜が最も早く名付けられていたこと。最初の翼竜Pterodactylusは1809年にCuvierの論文に出てくる、というのだが、本文に書いたように彼の論文に出てくるのはpetro-dactyleであって、ptero- ではない。ちなみに6つのグループそれぞれの、最初の属の命名年は早い順に 翼竜:1809年(Petrodactylus) 魚竜:1821年(Ichthyosaurus) 長頚竜:1821年(Plesiosaurus) モササウルス類:1822年(Mosasaurus) 恐竜:1824年(Megalosaurus、ただし恐竜という概念はまだない) 中生代鳥類:1861年(Archaeopteryx)。なお、IchthyosaurusPlesiosaurusは同じ論文に出てくるが、本文の記述の順序はIchthyosaurusが先。ここで順位をつけたのは属の命名順で、化石の発見を比較するとまた違う順序になるだろう。

563 10年毎の命名年の分布

 属の記載論文の言語は英語が圧倒的に多いが、内容的にはドイツ語の論文が詳しいようだ。英語にも詳しい論文がたくさんあるが、それはおもにイギリスの文献で、アメリカのものは命名としてちょっと簡単すぎるものが多い。このころまでの論文の言語は英語、ドイツ語、フランス語の三つしかない。他の言語で記載したものが一つぐらいあるかと思ったが、今回の調べでは見つからなかった。
扱った属 
恐竜:30 中生代鳥類:7 翼竜:15 魚竜:6 長頚竜:14 モササウルス類:15  (合計:88属)
模式種の産出国 アメリカ:32属 イギリス:23属 ドイツ:11属 カナダ:6属 ベルギー:4属 以下 モンゴル・スロベニア・クロアチア:各2属 インド・チェコ・イタリア・ニュージーランド:各1属
参考論文 1950年以前:353 内未入手または不完全:18
1923年以前の論文の言語 英語:145 ドイツ語:30 フランス語:12
このブログの記事は「データ整理」部分を除く字数:約168,000字 図版数;242枚
集めた論文のデータ(主に.pdfファイル) 368論文(1955年ごろまでのもの、一部ワニとカメ関連も含めた) 容量98.3GB テキスト約12,500ページ、図版1360 (大半の図版は説明ページが付く)。
 著作数の多い著者は、1位Marsh(米) 60件 2位Owen(英) 45件 以下Meyer (独)23 件 Cope (米)19 件 Seeley(英) 16件 Lambe (カナダ)14 件 Dollo (ベルギー)12件 Gilmore(米) 10 件 で、ここまでが10件以上。Marshの著作件数は多いがそのほとんどが短いもので、ページ数(textページ数+plateページ×2)で比較すると圧倒的にOwenが多く(3,758)、Marshの約9倍に達する。ページ数順位はOwen Cope Meyerの順。ファイルの容量で比較しても、この英米独の3者が最上位(Owen:30MB Meyer:26MB Cope:9MB)。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (yoroitokage)
2023-10-01 21:26:41
突然失礼いたします。
Placodusの歯板ですが、同じ時代に生きていたオムファロサウルスにとても似ています。
私もよく調べていませんが、下顎がそう見えました。系統的にも近いというようなことを聞くのでとても興味あります。
https://twitter.com/Fumimin_Eririn/status/1437748837561470985
ツイッターで申し訳ありません。
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Unknown (Unknown)
2023-10-06 10:29:54
yoroitokageさま
コメントをいただきありがとうございました。
残念ながら、PlacodusやOmphalosaurusについて、何も知らないし、化石を見たこともありません。
Omphalosaurusの原記載 Merriam, 1906. (見ていません)には、ホロタイプの頭部の一部がありますが・口蓋の部分には歯を伴っていないような絵が書いてあります。最近ポーランドからいい化石が報告されているようです。Wintrich Hagdorn and Sander, 2017. An enigmatic marine reptile. .... Jour. Vert.Paleont., vol. 37,Issue 6.
この雑誌はアメリカの古脊椎動物学会の、もので、入手は難しくなさそうです。アンモナイトを食べていたと言っているようようです。確かではない情報ですみません。

ところで、貴ハンドル名「ヨロイトカゲ」に関連して。北九州では関門層群からヨロイトカゲの化石が出ています。短冊状の鱗板骨からそう判断されていますが、論文は出ていません。発見者は私です。
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Unknown (yoroitokage)
2023-10-15 19:05:02
ご連絡ありがとうございました。
Wintrich, Hagdorn and Sander(2017)の論文入手することができたので、時間があるときに読んでみたいと思います。
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