Pteranodonの論文が刊行されたのは1876年の6月だが、同じ年の12月に次の論文が発行された。
⚪︎ Marsh, Othniel Charles, 1876. Principal characters of American pterodactyls. American Journal of Science and Arts, Series 3 vol. 11: 479-480.(アメリカのPterodactyleの主要な特徴)(前出)
論文は
Nyctosaurusについて13行ほどの短いもので、図もない。肩甲骨と烏口骨の癒合が弱い点が、
Pteranodonと異なるという。この部分は他の脊椎動物では脊椎骨との接続が弱いが、翼竜類では翼との関係でがっしりと接続しているから、特徴としては適切な意味を持つ。
483 Eaton, 1910. Plate 18.
Pteranodon sp. 癒合した左肩甲骨と烏口骨(前から)
前の論文で書いた
Pteranodon gracilis Marshを模式種に指定して新属
Nyctosaurusを設定した。
Nyctosaurus Marsh, 1876. 模式種:
Pteranodon gracilis Marsh =
Nyctosaurus gracilis (Marsh, 1876)
産出地 Kansas州西部 アメリカ
次の属
Cretornisは、この時代の翼竜では珍しくチェコ産。文献は次のもの。
⚪︎ Frič, Antonin, 1880, Ueber die Entdeckung von Vogelresten in der böhm. Kreideformation. Sitzungsberichte der königlichen-böhmischen Gesellschaft der Wissenschaften in Prag 1880: 275–276.(ボヘミアの白亜紀層の鳥類化石の発見について)
名前の通り、この時点では鳥類の化石と考えられていた。
Antonin Frič(=Fritsch)(1832-1913)はチェコの地質学者・古生物学者で、のちにプラハの国立博物館の館長を務めた。
化石の産出地はプラハの100kmほど東にあるChocné近郊と思われる。この時代の白亜紀脊椎動物の研究はドイツ・イギリス・アメリカのものがほとんどであった。産出したのは烏口骨で、ガチョウに似ているとしてあり、長さ75mmで、顕微鏡的な骨構造がちゃんと残っていること、中空であることが書いてあるが形態的な記載はほとんどない。FričはMarshの研究を知っていて、それと比較した。文献に写真はない。
種名は、化石コレクターで薬剤師のPotheker Hlaváč博士の名をとって、
Cretornis Hlaváčiとつけられた。この化石が鳥ではなくて翼竜であることをFričはのちに知った。少なくとも1905年の著書発行の際には、翼竜類の項に含められている。
⚪︎ Fritsch, Antonin, 1905. Neue Reptilien aus der bömischen Kreideformation. In Fritsch, Antonin, und Bayer, Fr. Neue Fische und Reptilien aus der Bömischen Kreideformation, II. 13-33, pp., Taf. 5-9.(ボヘミアの白亜紀層からの新種爬虫類)
この論文ではFrič は、Fritschと自称している。Bayer, Fr.は、おそらくFrantišek Bayer(1854−1936)で、チェコの教師・古生物学者ほか。
484 Fritsch und Bayer, 1905 Cover.
上の本のディジタルファイルは原本の色を出してはいるが、暗くて見づらいのでカラー情報をなくした上で調整した。
本の前段には短い前書きの後、魚類(p. 3-11, Bayer)の項がBayerによって記されている。13ページからの爬虫類がFritschの著作。首長竜類(15-18)、カメ類(18・19)トカゲ類(20−29)恐竜(29・30)そしてOrnithosauria(30−33)が含まれる。
Cretornis属は取り下げられ、
Ornithocheirus Hlaváčiとして出てくる。Taf. 8にこの翼竜の図がある。
485 Fritsch, 1905 Cover.
Ornithocheirus Hlaváči holotype(白地部分)
この図版には別の種類も混じっているので、そこには網をかけた。この図にあるのは上段の左右が上腕骨、中央は尺骨の遠位部、下段は翼の構成骨である。あれ? 烏口骨は無いのかな?
現在、文字の上の記号は規約で除くことになっているから、
Cretornis hlavaciとなる。2015年に標本が再記載されている。ここでは
Cretornis属が復活している。もちろん、分類上の位置が変更されても、命名規約で属の有効性に変わりはないし、鳥類であることを意味する語尾も変更する必要はない。
⚪︎ Averianov, Alexander and Ekrt, Boris, 2015.
Cretornis hlavaci Frič, 1881 from the Upper Cretaceous of Czech Republic (Pterosauria, Azhdarchoidea). Cretaceous Research, vol. 55: 164-175.(チェコの上部白亜系からの
Cretornis hlavaci Frič, 1881(翼竜類、Azhdarchoidea)
そんなわけで、色々と不完全なデータしか探せなかった。
Cretornis, Frič, 1880(1881とする資料もある)模式種:
Cretornis hlavaci Frič, 1880.
産出地 Chotzen チェコ
次は
Lonchodectes、その論文は下記のもの。
⚪︎ Hooley, Reginald Walter, 1914. On the Ornithosaurian Genus
Ornithocheirus, with a Review of the Specimens from the Cambridge Greensand in the Sedgwick Museum, Cambridge. Annals and Magazine of Natural History, including Zoology, Botany, and Geology, series 8, vol. 13: 529-557, Plate 22.(Ornithosaurianの
Ornithocheirus属について、付・Sedgwick MuseumにあるCambridge Greensand の標本のレビュー)
Seeleyが1870年に出版した「The Ornithosauria」は、断片的な標本からその属に25種もの種を考えたので、不評だったようだ。この論文はそれを見直すもの。例えばtype標本には下顎しかないのに、上顎の形態(この場合歯があるか無いか)を「確信している」といった判断で決めたりしているから。
そこで、Hooleyは、Seeleyの
Ornithocheirusを5つのGroupに分けた。
Group No. 1 (Seeleyの11種) Genus
Ornithocheirus
Group No. 2 (Seeleyの6種) Genus
Lonchodectes n.
Group No. 3 (Seeleyの3種) Genus
Amblydectes n.
Group No. 4 (Seeleyの5種) Genus
Criorhynchus n.
Group No. 5 (Seeleyのリストになし) Genus
Ornithostoma Owen 1859
これらの属も現在はあまり使われず、
Ornithocheirusと
Lonchodectesが残っているにすぎない。この分類に沿って、部分的な標本を体の部位ごとに比較している。Plate 12を伴うが、あまりにも部分的な話で、よくわからない。
さきほどの各属に模式種が指定してあるものもある。
Lonchodectes属の模式種は指定していないが、リストの最初に出てくる
L. compressirostris (Owen) =
Pterodactylus compressirostris Owen, 1851である。Owenの論文はちょっとややこしいし、ほかの項目にも関係してくるので、次回くわしく。
486 Owen, 1851.
Pterodactylus compressirostrisの頭部復元と標本
上の図はOwenの図版の中から2枚のFig.を取り出して並べ直したもの。標本のスケッチの方向に合わせるために、頭蓋の復元図は左右を反転してある。
ここで
Lonchodectes属についてまとめておこう。
Lonchodectes, Hooley, 1914. 模式種:
Lonchodectes compressirostris (Owen) =
Pterodactylus compressirostris Owen, 1851
産出地 Cambridge Greensand層 イギリス