表題は「Beitrrag zur Kenntnis der fossilen Wirbeltiere Javas」
この本は100ページ以上の大冊で、コピーしたのはほとんど図版だけ。内容は、1章から5章に分かれ、1章「ジャワの化石動物の記載」(食肉類・偶蹄類)、2章「Ngandongの動物相の概要」、3章「Boemiajoeの脊椎動物相の変化に関する長鼻類の重要性」、4章「新属新種の長鼻類Cryptonastodon martini」、5章「新第三系からのサイの遺骸」、というもの。Ngandongは東部ジャワ、Boemiajoeは中部ジャワの地名。興味があるのは、Cryptomastodonの化石で、それは最後の図版であるTafel 28にある。
260 von Koenigswald, 1933 Tafel 28.
図の1(左上)から3(左下)がholotypeで、標本はSangiran産の右上顎の最後方の臼歯。Sangiranはもちろんジャワ原人の産出地で、人類化石研究史上もっとも有名な場所だろう。左上の図は下から(上顎なので歯冠側)、右上の図は側面、左下は後面、という説明がある。サイズは実物大とのことで、前後の最大径で8.5cmというところだろうか。なお、右下のものはMastodon (Trilophodon) bumiajuensis (Van der Maarel) (Boemiajoe産:現在の学名はSinomastodon bumiajuensis)となっている。
この図から見ると、標本はDesnostylus臼歯に似ていないでもない。しかし、咬頭の配列や、未咬耗の咬頭の形、咬柱が歯根に向かって太くなることなどで、大きな違いがあって、やはりDesmostylusではない。1983年に Hooijer, D. A. は、「The Solution of the Cryptomastodon Problem」と題してこの種類について色々な論議があり、それを総称して「Cryptomastodon Problem」と名付けた。そして、最近になって次の論文が出された。
Van Essen, Gert van den Bergh and John de Vos, 2006 The final solution of the Cryptomastodon problem, Morphological correlations between supernumerary teeth in stegodonts and elephamts (Proboscidea, Mammalia). Courier Forschungsinstitut Senckenberg, vol. 256: 29-41. (Cryptomastodon問題の最終的な解決-ステゴドン類とゾウ類(長鼻類、哺乳類)の過剰歯の形態学的な比較)
261 “Cryptomastodon” 標本の現在の様子 ネットから
ここで、Cryptomastodonは長鼻類(おそらくStegodon trigococephalus)の奇形的な過剰歯であるという解釈がされた。他の長鼻類の過剰歯標本を参照した結果である。そんなわけで、この件については一件落着。最初に感じた通り、ジャワ原人の産地から中新世のDesmostylusが出てくるはずはない。なお、Hooijerの論文は次のもの。
Hooijer, Dirk Albert, 1983 The Solution of the Cryptomastodon Problem. Netherlamds Journal of Zoology, vol. 34, no. 2: 228-231. (Cryptomastodon問題の解決)
この中で、Cryptomastodon martiniとされた標本は、臼歯がStegodon trigonocephalus に関連したもの、他の骨はカメに関するものとし、この学名は捨てられるべきものとした。また、CryptomastodonがDesmostylus 類だとOsbornが1936年に言った、と書いているのもここだが、残念ながら全文を入手していないので、Osborn, 1936というとたぶん「The Proboscidea」だろう。この本のVol. 2の最後にIndexがあって、「Desmostylus」の語は。625ページと902ページに出てくるという。625ページは、『各地の「brevirostrine」類のSynopsis』という表で、その中に「Cryptomastodon martini von Koenigswald = Sirenia(?) (cf. Desmostylus) としている部分のこと。ここで「brevirostrine」というのは、長鼻類の顎の長さに注目して三つぐらいの階梯を認識したうちの一つ。確かに遠慮がちではあるがCryptomastodonがDesmostylus かも知れないと書いている。
902ページの方は、901ページから始まる「Appendix of Chapter XIV」の最初の図の中にあるのだが、この章は松本彦七郎による「日本のマストドン・ステゴドン・それにエレファス類の系統」というものである。Desmostylusの出てくるFig. 790 は「Thirteen fossil mammal-bearing Formations of Japan」(日本の13の哺乳類化石を産する地層)という表。
262 Osborn (Matsumoto), 1936. Fig. 790.
図の中の「Desmostylus」という語は三か所にあるが、どれも日本の本来の「Desmostylus」である。Togari(戸狩)とかHiramaki(平牧)などの懐かしい地名が並ぶ。しかし、Fig. 790 というのもすごい。この本(上下二巻)のFigs. は、たぶん1599ページに出てくるFig. 1244 というのが最後。しかし、文中の挿入図のうち一ページ全体をしめるものはFig.ではなくPlate として扱っている。そういう線画がPlate 25 まで文中にあり、後にPlates 26-30 の5図(歯などの顕微鏡的組織の写真)がまとめて入っている。
この本は100ページ以上の大冊で、コピーしたのはほとんど図版だけ。内容は、1章から5章に分かれ、1章「ジャワの化石動物の記載」(食肉類・偶蹄類)、2章「Ngandongの動物相の概要」、3章「Boemiajoeの脊椎動物相の変化に関する長鼻類の重要性」、4章「新属新種の長鼻類Cryptonastodon martini」、5章「新第三系からのサイの遺骸」、というもの。Ngandongは東部ジャワ、Boemiajoeは中部ジャワの地名。興味があるのは、Cryptomastodonの化石で、それは最後の図版であるTafel 28にある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/20/95bbc1e00e5157feef04b5a32eed122c.jpg)
260 von Koenigswald, 1933 Tafel 28.
図の1(左上)から3(左下)がholotypeで、標本はSangiran産の右上顎の最後方の臼歯。Sangiranはもちろんジャワ原人の産出地で、人類化石研究史上もっとも有名な場所だろう。左上の図は下から(上顎なので歯冠側)、右上の図は側面、左下は後面、という説明がある。サイズは実物大とのことで、前後の最大径で8.5cmというところだろうか。なお、右下のものはMastodon (Trilophodon) bumiajuensis (Van der Maarel) (Boemiajoe産:現在の学名はSinomastodon bumiajuensis)となっている。
この図から見ると、標本はDesnostylus臼歯に似ていないでもない。しかし、咬頭の配列や、未咬耗の咬頭の形、咬柱が歯根に向かって太くなることなどで、大きな違いがあって、やはりDesmostylusではない。1983年に Hooijer, D. A. は、「The Solution of the Cryptomastodon Problem」と題してこの種類について色々な論議があり、それを総称して「Cryptomastodon Problem」と名付けた。そして、最近になって次の論文が出された。
Van Essen, Gert van den Bergh and John de Vos, 2006 The final solution of the Cryptomastodon problem, Morphological correlations between supernumerary teeth in stegodonts and elephamts (Proboscidea, Mammalia). Courier Forschungsinstitut Senckenberg, vol. 256: 29-41. (Cryptomastodon問題の最終的な解決-ステゴドン類とゾウ類(長鼻類、哺乳類)の過剰歯の形態学的な比較)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/12/483d399527989a1138a5cffd59c2e5ed.jpg)
261 “Cryptomastodon” 標本の現在の様子 ネットから
ここで、Cryptomastodonは長鼻類(おそらくStegodon trigococephalus)の奇形的な過剰歯であるという解釈がされた。他の長鼻類の過剰歯標本を参照した結果である。そんなわけで、この件については一件落着。最初に感じた通り、ジャワ原人の産地から中新世のDesmostylusが出てくるはずはない。なお、Hooijerの論文は次のもの。
Hooijer, Dirk Albert, 1983 The Solution of the Cryptomastodon Problem. Netherlamds Journal of Zoology, vol. 34, no. 2: 228-231. (Cryptomastodon問題の解決)
この中で、Cryptomastodon martiniとされた標本は、臼歯がStegodon trigonocephalus に関連したもの、他の骨はカメに関するものとし、この学名は捨てられるべきものとした。また、CryptomastodonがDesmostylus 類だとOsbornが1936年に言った、と書いているのもここだが、残念ながら全文を入手していないので、Osborn, 1936というとたぶん「The Proboscidea」だろう。この本のVol. 2の最後にIndexがあって、「Desmostylus」の語は。625ページと902ページに出てくるという。625ページは、『各地の「brevirostrine」類のSynopsis』という表で、その中に「Cryptomastodon martini von Koenigswald = Sirenia(?) (cf. Desmostylus) としている部分のこと。ここで「brevirostrine」というのは、長鼻類の顎の長さに注目して三つぐらいの階梯を認識したうちの一つ。確かに遠慮がちではあるがCryptomastodonがDesmostylus かも知れないと書いている。
902ページの方は、901ページから始まる「Appendix of Chapter XIV」の最初の図の中にあるのだが、この章は松本彦七郎による「日本のマストドン・ステゴドン・それにエレファス類の系統」というものである。Desmostylusの出てくるFig. 790 は「Thirteen fossil mammal-bearing Formations of Japan」(日本の13の哺乳類化石を産する地層)という表。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/ac/9497dc32bd0e8e1c2bf8a26c787c710e.jpg)
262 Osborn (Matsumoto), 1936. Fig. 790.
図の中の「Desmostylus」という語は三か所にあるが、どれも日本の本来の「Desmostylus」である。Togari(戸狩)とかHiramaki(平牧)などの懐かしい地名が並ぶ。しかし、Fig. 790 というのもすごい。この本(上下二巻)のFigs. は、たぶん1599ページに出てくるFig. 1244 というのが最後。しかし、文中の挿入図のうち一ページ全体をしめるものはFig.ではなくPlate として扱っている。そういう線画がPlate 25 まで文中にあり、後にPlates 26-30 の5図(歯などの顕微鏡的組織の写真)がまとめて入っている。