OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

今日は満開に(臨時投稿)

2022年03月30日 | 今日このごろ

昨日の午後の桜の写真。

ほぼ満開の桜。2022.3.29. 14時過ぎ 志井川。
 この樹はほとんど満開だが、全体としてはまだまだ蕾が見えるから、満開ではないようだ。このところちょっと冷え込んだからそのせいか、咲いていくのがゆっくりしている。今日陽がさせば満開となるだろう。
 例年に比べてみよう。ここしばらくの、このブログで満開となったとの記事の日付は次のようになっている。
2011年:4月5日記事「もうすぐ満開」 2012年:4月2日記事「満開間近」 2013年・2014年:記事なし 2015年:4月1日記事「現在桜満開」 2016年:4月3日記事「満開」 2017年:4月4日記事「やっと満開」 2018年:3月29日記事「満開」 2019年:3月31日記事「満開の樹がたくさんあるが、まだのも。」 2020年:4月1日記事「3月31日には満開直前」 2021年:3月26日記事「ほぼ満開」 そして今年:3月30日記事「今日は満開に」
 基準がないから精度は悪い。これくらいのデータで、「年々早くなっている」ということは言えない。せめて30年間くらい、しっかりとした判定基準を決めて観察しないと。場所はおなじあたり。平均値はちょうど4月の初めになる。昨年の3月26日が目立って早い。一番遅かったのが2017年の4月4日だから、幅10日におさまっている。
 もう数日美しい桜を見て楽しみたい。

古い本 その92 古典的恐竜3 1825年

2022年03月29日 | 化石

1825年 Iguanodon
 これに関する最初の論文は次のもの。
⚪︎ Mantell, Gideon, 1825. Notice on the Iguanodon, a newly discovered fossil reptile, from the sandstone of Tilgate Forest, in Sussex. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Vol. 115: 179-186, pl. 14.(Sussex のTilgate Forestの砂岩層からの新発見の爬虫類、Iguanodonに関する知見)
 非常によく似た、と言うか同じタイトルの講演要旨があるので注意が必要。
⚪︎ Mantell, Gideon, 1833. Notice on the Iguanodon, a newly discovered fossil reptile, from the sandstone of Tilgate forest, in Sussex. Proceedings of the Royal Society of London Vol. 2, 234-235.(同上)
 これら二つのものは、同じ講演(1825年2月10日の地質学会Geological Society of London)の講演要旨であるが内容は別。同じRoyal Society of Londonの発行物なのだから二つ出さなくてもいいような気がする。もちろん1825年の文が先に出されたので優先権があることになる。それに、こちらの方には一枚の図版が付いている。図の内容は、たぶん7本のIguanodonの歯(Teeth of the Iguanodon a newly discovered Fossil Animal, from the Sandstone of Tilgate Forest, in Sussex.)と参考の現生Iguanaの顎(Portion of the Jaw of the Iguana, four times magnified)のスケッチ(スクライブ法か?)である。論文をpdfで入手したので、紙面の実大がわからない。–

316 Mantell, 1825. Plate 14 (一部)Iguanodonの歯

 上の図は、化石の歯のところだけを示したもので、Fig.の文字だけを大きく書き直してある。12個の図は、7本の歯で、幾つかは多方向から見たところの図。上段左右の一番大きな歯がFig. 1.aと1.bであるが、間違って2.aと2.bになっている。2番の歯は3方向から、3番と4番の歯は2方向から、それに一方向から見た5から7番の歯を示してある。
 本文にはもちろんIguanodonが単独で出てくるだけで、種小名はない。1833年の論文も同じ。
 Iguanodonに対して別の名前があった。1824年にIguanosaurusという名前がある雑誌に出てくるが、匿名で書かれていて、実は同じMantellによるとされる。1925年に公表する際にConybeareが、Iguanodonを勧めたと言われるが、その理由は1824年の無効な命名と混乱しないように、というのだが、本当だろうか?
 現在、Iguanodonの模式種は、Iguanodon anglicus Holl, 1829.とされる。その論文は次のもの。
⚪︎ Holl, Friedrich 1829. Handbuch der Petrefactenkunde, mit einer Einleitung über die Vorwelt der organischen Wesen auf der Erde von Dr. Ludwig Choulant. 1:1-115. Hilscher, Dresden (化石生成学ハンドブック:Dr. Ludwig Choulant の地球生物の本質に関する前書き付き)
 上記論文は初版は見つからなかったので参照したのは1843年の改訂版。副題も少し違う。

317 Holl, 1843. Title Page

 この本は3冊からなる大作で、「ひげ文字」が多用してあるから解読困難。

318 Holl, 1843. Title Pageの上部を画像処理したもの

319 Holl, 1843. Title Pageの上部 ひげ文字を解読したもの

 幸いなことに学名はひげ文字でない普通の活字を使っているから、検索ができる。この改訂版には、83ページに「Iguanodon Mantell. Iguanosaurus.」という見出しがある。気になるので、ひげ文字では検索できるのかやってみた。「Gattung」(ドイツ語<属>)で検索すると...。「Thiergattung」というのを見つけてくれる。

320 ひげ文字の検索 Holl, 1843 「Gattung」

 大文字・小文字の区別はされないことがわかるのだが、一方で文中に出てくるひげ文字大文字の「Gattung」は拾ってくれない。そこで、pdfの中の「Gattung」(ひげ文字)をコピーして、検索枠にペーストすると「©attung」と、似た形の文字列を探して、みごとに「Gattung」が見つかる。おそるべし。

321 ひげ文字の検索 Holl, 1843 「Gattung」

 遊んでいる暇はないので、Iguanodonの項を見ると、見出しのすぐ後に「Iguanodon anglicum Holl.」が出てくるので、めでたくこの本が初出(本当は改訂版でないのを見ないといけないが)らしい。ホロタイプの指定はなく、特徴もあまり書いてないらしい。種小名は「イギリスの」という意味。
 Friedlich Holl (?-1850)はドイツの薬剤師。
 Iguanodon anglicum Holl. が最初の名前だが、現在はIguanodon anglicus Holl に変更されている。当初のIguanodonの性はneuter(中性)だったのを後に男性名詞とした、ということかな。この変更を誰が行ったのかは分からなかった。また、この種類のtype(当然lectotype)の指定がされているのかも調べてない。
 以上の調べから次のデータが今のところもっともらしい。
Iguanodon Mantell, 1825. 模式種: Iguanodon anglicus Holl, 1843. Lectotype: 指定の有無を含めて不明
産出地 Tilgate Forest, Sussex.  イギリス Jurassic

私の癌治療の記録 その4

2022年03月25日 | 今日このごろ
 2016.5.23にもう一つの検査を受けた。RAS遺伝子変異解析の試料採取ということだった。
 この検査の内容と結果はあまりよく理解できていない。癌の遺伝子変異を調べて、特定の抗癌剤が有効であるかどうかを知ることができるらしい。私の場合、12か所の変異の有無を調べたが、そのうち一か所が変異を起こしていた。このことから、抗EGFR抗体薬が効かないことがわかったということらしい。
 2016年5月26日、第一回の抗癌剤投与を受けた。主にエルプラットという抗癌剤を用いた。この薬剤は白金系の抗癌剤で、癌細胞のDNA複製を阻害するもの。治療は4日の入院を一組として、2週間に一度、12回を行った。各回の手順は次のようなもの。
1日目 血液検査。入院手続き。
2日目 抗癌剤投与開始。点滴時間は約48時間。
3日目 点滴継続。
4日目 昼頃に抗癌剤点滴終了。退院。
 毎回入院時には、手首に氏名などを記入したプラスチック製の腕輪を取り付ける。また、定時の検温などヴァイタルの記録や、夜間の睡眠薬の配布などでは、必ず氏名と生年月日のチェックがある。チェック事項は、体温と血中酸素濃度であるが、私は途中に異状な数値は出なかった。

認識腕輪 抗癌剤入院の時のもの 日付記録なし

 画像はあちこちが見えなくしてある。左のボタンのような部分がホックになっていて、押し込んだら取れない。上の方にある等間隔の穴は、手首の周長に合わせてホックを嵌めるため。手前の左の広い消した部分にはバーコード。その下に漢字表記の私の名前。その右は上から生年月日、中段に性別とID番号、下段に名前のカタカナ表記。
 退院時に看護師さんがハサミで切ってはずしてくれるが、この時それを忘れられたので、家でちょっと無理に外して保管している。
 入院の期間中はかなり時間を持て余すが、プリペイドカードでテレビを見たり、同病の仲間の皆さんと情報交換をしたりして過ごした。定時に体温や血中酸素濃度の計測があって、看護師の皆さんが注意深く見てくださった。いつも飲んでいる高血圧の薬などについても、ちゃんと飲んだかどうか確認してくださった。そのために、患者は薬を飲んだ時にはその包装材を自分で捨てないようにと言ってくださった。

 投与中の行動はほぼ自由で、とくに3日目は昼間自宅にいてもよかった。また食事に関する制約もなかった(アルコールはいけないが、私は飲まない)。入浴も胸より下は可能。病院では入院患者の給食を受けることができたが、私の口に合わなかったので、初日に持ち込んだ朝食のパンと紅茶、売店の弁当、それに自宅での食事を取った。48時間にわたって非常にゆっくりと点滴するように準備された、携帯できる容器(リニアフューザーというのだそうだ)を用いる。

2016.10.14 点滴器具リニアフューザー 裏面

 よく病院で見る吊り下げ式のものではなく、缶コーヒーほどのサイズで、毒物であるからポリ袋に入れてある。袋は首から下げられるように紐が付いている。写真の透明なチューブが点滴のラインで、首からシャツの下に入り、CVポートにテープで止めてある。表側に患者名などが書いてある。写真の裏面に目盛りがあって、左を下に置いた時の液面で読む。右から100から20(単位はml)の数字があって、最後に太い線があり「こえたら完了」としてある。患者は二日後の昼前になると何度もこの目盛りを読んで、退院を待つ。その頃に、その入院の医療費の算出ができて、事務から紙に書いた数字が届けられる。この抗癌剤の費用はかなり高く、薬剤だけで一回26万円と聞いた(人によって違う)。実際には高額医療の限度額を超えるから、そんな数字の請求をされるわけではない。こういった制度による補助も最初から減額して請求された。支払いをした後で返還されるのではなかったから、事務的な負担も少なかった。後で受けた経過観察も、CT検査の料金などは結構高いものだが、私の場合、途中で後期高齢者の区分に入ったのでそれ以降はさらに安くなった。合計の医療費が、私の生活を圧迫するところまではいかなかったのは医療保険などのおかげである。
 この点滴は行動がしやすいから、外出も許可を取れば可能、帰宅もできる。器具の温度で点滴のスピードがわずかに変化するようだった。他の癌患者の皆さんとよく話をしたが、これを早くするために器具をポケットに入れて保温する方もおられたが、私はそういった扱いを避けていた。

抗癌剤治療のパンフレット

桜開花(臨時投稿)

2022年03月23日 | 今日このごろ
 昨日夕方に、桜の開花を見た。

開花した桜 2022.3.22 午後
 
 これまでに言われてきたソメイヨシノの開花の予想よりもやや遅い感じがする。咲いていたのはこの樹と他の数本だけで。他は蕾にピンクは見えるがもう少し待つ必要がある。ちょっと前には4月ぐらいの気温であったが、ここ数日間寒かったから遅れてきたのだろう。
 今日は雨が降って、気温が上がるそうだから、明日ぐらいには多くの樹に花が見られそう。

古い本 その91 古典的恐竜2 1824年 (続き)

2022年03月21日 | 化石

 Megalosaurus属に関しての続き。fossilworksではMegalosaurus属の命名者を Parkinson, 1822としていることについて。論文は次のもの。
⚪︎ Parkinson, James, 1822. Outlines of Oryctology. An Introduction to the Study of Fossil Organic Remains; Especially of Those Found in the British Strata: Intended to Aid the Student in His Inquiries Respecting the Nature of Fossils viii-350, Explanations o the Plates, Plates 1-10.(Oryctology 概論:化石の生物遺骸研究の序。...)<ネットで見られるのは第2版(1830年)>
 「Oryctology」というのは、日本語にはそれに当たる語がないが、地中から掘り出されたものに関する学問のこと。鉱物学とか古生物学とか考古学に当たる。
その305ページにMegalosaurusに関する短い記述がある。抄訳すると「オオトカゲに近い歯列を持った動物で、まだ記載されていない。Stonesfieldのジュラ紀層から産した。Oxfordの博物館に重要な部分のスケッチがある。記載が待たれる。」などとしているから、これが記載でないことは確か。巻末に10枚の図版があり、Plate 10のFig.3の説明は「Part of a jaw from the Stonesfield slate」としている。

312 Parkinson, 1830. Plate 10.(一部) サイズは書いてない。

 鋸歯があるから肉食恐竜の歯だろうが、「jaw」も変だし、Megalosaurusだとは書いてない。なぜ、下顎と書いたのだろうか?Megalosaurusの例の下顎を入れようとしたのだが著作権などの関係で遠慮したような気がする。やはりParkinsonが属の命名をしたというのは受け入れられないだろう。この恐竜の発見は、学会の中では公表前からずいぶん話題になっていたようで、そのためにこういう順序が逆のような印刷物が出てしまったのだろう。最近の命名規約では固く禁じられていることだ。日本ではフタバスズキリュウの学名で、予定していた名称が公表前に教科書のような書物に掲載されてしまって、実際の命名に使えなくなったという出来事があった。
 James Parkinson (1755-1824) は、パーキンソン病で有名なイギリスの医者。私がネットで見たのは第2販(1830)だが、初版は最近復刻されている。それによると「発行年は1823年より前」としてある。
 Megalosaurus属のデータは、だいたい判明した。そこで、種のレベルに移る。「Dinosauria」で模式種としているM. bucklandii Ritgen, 1826 について調べた。その論文は次のもの。
⚪︎ Ritgen, Ferdinand August von, 1826. Versuchte Herstellung einiger Becken urweltlichter Thiere. Nova Acta Academiae Caesarea Leopoldino-Carolinae Germanicae Naturae Curiosorum, Bd. 13: 331-358, Tab.16. (古代の動物の幾つかの骨盤に関する試論)
 Ferdinand August Max Franz von Ritgen (1787-1867) はドイツの医者らしい。この論文は確かにMegalosaurusについて記している。しかし単独の属名で、M. Bucklandiiは出てこない。その代わりに354ページに一か所だけM. Conybeareiというのがある。新種の提示ではなさそうな文章だ。特徴なども出てこないから、正式に記載された名とは言いにくい
 ネットのfossilworksでは模式種の命名者はM. bucklandii Mantell,1827となっている。その論文はたぶん次のもの。
⚪︎ Mantell, Gideon, 1827. Illustrations of the geology of Sussex : containing a general view of the geological relations of the South-Eastern part of England : with figures and descriptions of the fossils of Tilgate Forest. Xii+92pp. L. Relfe, London. (Sussexの地質学図解:イギリス南東部の地質学的関係の概要と、Tilgate Forestの化石の図と記載を含む)
 Megalosaurusに関する記述があるのは、67ページから71ページで、他に第9図版・第10図版・第19図版にスケッチが示してある。67ページには「Megalosaurus Bucklandii」という見出しがあって、確かにこの種名が現れている。なおこの項目の次には「Iguanodon」という項目が続いている。従って、次に取り上げる恐竜Iguanodonにもこの論文が出てくる。
 図版には、各種の化石がならんでいる。Plate 4はたくさんのIguanodonの歯、Plate 5はワニの歯や魚の歯・鱗、Plate 6はカメなど、そして他の動物の骨などと続く。Plate 17にもう一度Iguanodonの歯が出てくる。

313 Mantell, 1827. Plate 4(一部)Iguanodon 歯 スケールはない。

314 Mantell, 1827. Plate 17(一部)Iguanodon 歯 スケールはない。

 Plate 19におなじみのMegalosaurus下顎スケッチが出てくるが、Bucklandのものとは別で、ちょっとスケッチの質が落ちる。

315 Mantell, 1827. Plate 19(一部)Megalosaurus 右下顎 スケールはない。

 説明には「このページの図は、(解説のために)他の著作からコピーした。」としている。図版全体として、サイズや倍率に関する記入は見当たらないし、スケールも入っていない。この図は、図版を作るときに反転されている。おそらくリトグラフで作成されていると思われるが、この手法では石版に反転した図を描いて、それを紙に転写することによって正しい画像が印刷される。だから図の番号や表題などの文字も反転したものを書かねばならない。そういう文字はちゃんと印刷されているが、スケッチが反転像になっている。ここに示した下顎は、「右下顎」としてあるが明らかにおかしく、前回示したBackland, 1824と比べると間違っているのがわかる。したがって同じPl. 19 の別の化石も反転している可能性が高い。確かに「仙椎を含んだ脊椎」標本も反対である。他の標本もそうだろうか?また、他のページもそうだろうか?
 BucklandのMegalosaurus標本は、現在も関心を持たれている。最初の恐竜ということと、コレクション全体の種の判別などに面白そうなところがあるからだろうか。最近のものの例として一つ挙げておく。
⚪︎ Benson, Roger B. J., Paul M. Barrett., H. Philip Powell and David B. Norman, 2008. The Taxonomic Status of Megalosaurus bucklandii (Dinosauria , Theropoda) from the Middle Jurassic of Oxfordshire, UK. Palaeontology, 51(2): 419-424.(英国Oxfordshireのジュラ紀中期層からのMegalosaurus bucklandii(恐竜類、獣脚類)の分類学的位置)
Megalosaurus のデータ
 以上の調べから次のデータが今のところもっともらしい。
Megalosaurus Buckland, 1824. 模式種: M. bucklandii Mantell, 1827. Lectotype: OUMNH J.13505 (Oxford University Museum of Natural History)
産出地 Stonesfield, Oxfordshire, イギリス

 一つ目の属でこんなにかかっては、いつ終わるか見当もつかないが、時代とともに論文の形態が洗練され、ルールも整備されて分かりやすくなることを期待する。