OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 5 Dal Piaz 1916 他

2020年04月28日 | 化石
古い本 5 Dal Piaz 1916 他

 あたりまえだが19世紀の本はあまり所有していない。本棚にある学生時代に参考のためにコピーした論文には次のものがある。
Dubois, E. 1894 Pithecanthropus erectus. Eine menschenaehnliche uebergangsform aus Java.
 有名なジャワ原人の論文である。39ページ2図版で、ドイツ語。Eugene Dubois (1858-1940) (本当はもう少し長い名前)は、オランダの地質学者。人類の起源が東南アジアにあると考えてジャワ島に行って、ジャワ原人の化石を発見したことはよく知られている。図版に掲載されている標本は、図1に頭蓋の脳函上(+参考のためチンパンジーの頭骨)が、図2に左大腿骨・一本の前臼歯が図示されている。

4-1 Dubois 1894 Tafel 2.

 チンパンジーは、現在はPan 属にされる(他にボノボが含まれる)が、当時は人類の祖先であるということが強く意識された Anthropopithecus という属(1839年)とされていた。Anthropo- というのは人の、とか人に似たという意味、pithecusは猿の意味だから、合わせて「人っぽい猿」というような意味となる。しかし、チンパンジーに対してPan という属名が先に(1816年)提唱されていたためそれを使う。
 Duboisは、Anthropopithecus を踏まえてジャワ原人の属名をPithecanthropus と名づけた。先ほどの言い方だと「猿っぽい人」ということ。青紫と紫青みたいな関係である。種小名の「erectus」は「立っている」という意味。そこで、第2図の大腿骨が意味を持ってくる。大腿骨のシャフトが直線的で、チンパンジーのようにカーブしていないから、二足歩行ができていた、ということを示す。ひざ関節の角度もチンパンジー的ではない。でも、この頭と大腿骨は同一個体ではないだろうし、同じ種類に属するという証明がされているわけではない。頭の方でも、大後頭孔が下面にあることがわかるわけでもない。なお、大腿骨の内側の不整形の出っ張りは過剰成長で、加齢によるものか病的なものかのどちらか。
 後に多くの頭骨が近い場所から発見されたが、揃った骨格は出ていない。

4-2 これまでに発見された内で最も保存の良いジャワ原人頭骨

 Duboisの論文はコピーだからこれくらいにして、今回紹介するのは下記の論文。
Dal Piaz, Giorgio 1916 (1977年の復刻版)Gli Odontoceti del Miocene Bellunese.  Parti Quinta – Decima.
 原本は104年前の発行である。縦33.5センチ、幅24.3センチ。A4より少し大きいから、下の写真(表紙)は少しずつ周りが切れている。いつ頃入手したのか明らかではないが、1977年に復刻版が出てすぐではないだろうか。瑞浪の鯨の研究をしていたころか? 裏表紙の内側に「¥24,000」という鉛筆の書き込みがある。私が書いたかどうかはわからない。H先生に頂いたのかもしれない。先生の研究室の本棚を見ていて、同じ本が2冊あるのを見つけて「売ってください」と申し上げたら快く下さったという記憶がある。もしかしたらこれだったのか。ちゃんとその旨記入しておかねばならなかった。
 著者Giorgio Dal Piaz (1872-1962) は、イタリアの地質・古生物学者で、鯨類の化石に関する業績のほかアルプスの地質構造など多くの分野で成果をあげた。90歳まで研究活動を続けていたという。

5-3  Dal Piaz 1916 表紙(復刻版)

 表題は「ベッルーノの中新世の歯鯨類」というもの。ベッルーノはベネチアの北にある都市。表題の後の数語は、連続の論文の第5部から第10部ということ。その10部のリストを英語に訳して記す。
Part 1. Historical Review and Stratigraphic Study.  1-25, Plates 1-2.
Part 2. Genus Squalodon  1-94, Plates 1-10.
Part 3. Genus Squalodelphis (new genus)  
Part 4. Genus Eoplatanista (new genus)  
Part 5. Genus Cyrtodelphis  1-18, Plates 1-2.
Part 6. Genus Acrodelphis ombonii  23-37, Plates 1-2.
Part 7. Genus Protodelphinus capellinii (new genus, new species)  41-50, Plate 1.
Part 8. Genus Ziphiodelphis Abeli  53-74, Plates 1-5.
Part 9. Genus Scaldicetus bolzanensis (new species)  85-92, Plate 1.
Part 10. General Conclusion and Phylogenetic Consideration  95-121, Fig. 1, Plate 1.
Appendix of bibliography  125-127, Plate 1.

 上のページ及び図版のリストは、Part 1とPart 2が別に所持している復刻版でないコピーを見て記入、Parts 3-4 は原本もコピーも持っていない。5から後は1977年の復刻版のページ。
 19世紀の別刷との一番の違いは、図版が写真であること。印刷方法は網版で、かなり細かいけれどもコントラストが強すぎて暗部が見づらい。多くの写真の中で最も参考になったのは、Part 10のもので、ここに述べた種類ばかりではなくもう少し広い範囲の鯨類の代表的な標本の写真が揃っていて、芦屋層群の鯨の研究をした時にずいぶん参考になった。

5-4 Part 10, Plate 1 代表的な初期の鯨類(当時)

 図の鯨類の種類は、左上Protocetus 左下Zeuglodon 左から2番目Agorophius 3番目Patriocetus 右上Prosqualodon 右下Squalodon である。なお各属の命名は次の通り。Protocetus (Fraas 1904)  Zeuglodon (Owen 1839: Basilosaurus Harlan 1834が先取) Agorophius (Muller 1839) Patriocetus (Abel 1913) Prosqualodon (Lydekker 1894) Squalodon (Grateloup 1840)。


私の使った切符 その101 2008年

2020年04月25日 | 鉄道
私の使った切符 その101
2008年


185 神宮前乗務区発行 名鉄名古屋から中部国際空港まで 2008.2.9

186 中部国際空港駅発行 同駅から金山までの特別車両券 2008.2.9

 2005年1月に営業を開始した名古屋鉄道空港線に乗車した時の切符。ちなみに、私はまだセントレア空港を利用したことがない。空港利用についてはこのシリーズの後の方で振り返る。特別車両券(ミューチケット)と言う名前である。使用されている車両は、「ミュースカイ」と呼ばれ、特別車両と一般車両が連結されている。この切符は特別車両利用のためのもの。2008年末にすこしシステムが変わっているらしいので、詳しいことは調べてない。列車名にギリシャ語(μ)が使われている日本の鉄道では珍しい例である。英語の正式表記も「μSKY Limited Express」。
 上の切符は空港まで行く時の車内購入、下は帰りで駅の窓口で購入。上の車内券には座席指定がないから、現在と違う方式だったのだろう。両方とも磁気用紙を使っている。

187 近鉄四日市駅発行 同駅から220円区間 2008.2.11

 四日市から出る二本の短い支線、内部線・八王子線は、軌間のせまい「ナローゲージ」の鉄道として有名であるが、採算がとれず、2015年から「四日市あすなろう鉄道」の運営となっている。鉄道の所有者は四日市市で、運営者と異なる。私が乗った2008年2月には近畿日本鉄道の所有・運営であった。

188 伊賀神戸駅発行 同駅から400円区間 2008.2.12

 近鉄伊賀線として営業していたが、2007年10月に伊賀鉄道として独立した。近鉄大阪線と伊賀神戸で接続、もう一方の端はJR関西本線と伊賀上野で連絡している。関西本線がずいぶん寂しくなったので、伊賀線も使いにくくなった。切符は磁気券ではない。

189 水島駅発行 同駅から自工前乗車券 2008.4.24

 水島臨海鉄道に乗車した時の切符。この鉄道は、JR倉敷駅に併設された倉敷市駅から、臨界工場地帯の三菱自工前まで運行している。なにしろ切符に記載された駅名ですら「自工前」と簡略化されているぐらいで、たまたま乗る人などいそうにない。…と思っていたが、最近は工場地帯も観光対象となるらしく、観光PRのさいともあるくらい。
 私は倉敷市駅から終点の三菱自工前まで行ったが、帰りの便までの間が空いていたから、一区間歩いて水島駅から帰った。切符はその時に水島駅で買ったもの。
 このように、中小の私鉄乗り潰しは手間がかかったが、印象も薄い。それにデジカメの画像ファイルの扱いが現在のように手馴れていなかったために失われた画像が多く、この記事も面白くない。この後はもう少しマシになるのでご容赦を。

190 大湊駅発行 同駅から1110円区間 2008.7.4

 国鉄ないしJR路線の乗車の最後になったときの切符。 「幹」にあたる東北本線が第三セクター化したので、JRから切り離され、「宙に浮いた」路線である。

191 完乗!大湊線終点の車止め 2008.7.4

 波静かな陸奥湾はよく見えたが、太平洋は全く見えなかった。それにしても「1110円区間」というのもすごい。ざっと調べてみると、「…円区間」と表示された切符のうちこれが最高額である。次点は次に出てくる愛知環状鉄道の高蔵寺から850円区間、3位がJR西日本の福知山から650円区間。ただ、長距離の切符はあらかじめ旅行社などで購入する「青帯券」になるし、手元に残らないことが多くなるのであまり良いデータとは言い難い。

古い本 その4 Whiteaves  1891

2020年04月22日 | 化石
古い本 その4 Whiteaves  1891

 Whiteaves の別刷 2冊目は「The Orthoceratidae of the Trenton Limestome of the Winnipeg Basin」(Winnipeg 盆地のTrenton 石灰岩の直角貝類)という題で。1891年の発行(モントリオール)、本文14ページ、7図版(Plates V-XI)である。129年前の論文。Winnipegは先ほどのManitoba州の州都。

3-1 Whiteaves 1991

 今度の別刷には、前の所有者の痕跡がない。また文章の初頭に標本の所在や産出地などの全体的な情報が記されている。文中にZittelの「Handbuch der Palaeontology」を参考にしたことが記されていて、その本が後世に大きな影響を持っていたことがわかる。たぶん発行されてから5年ぐらいしか経っていないはず。Whiteavesの論文が発行された頃、まだZittelの英語訳(Text-book of Palaeontology)は出版されていない(出版は1900年)。大学生の頃に、教授が地方に出かけて化石鑑定を依頼される時に、この本の英語版を最初の見当をつけるのに使っておられたのを記憶している。だから私も博物館に就職した時、最初に英語版を購入していただいて、鑑定のために度々使った。ギンザメの歯板が芦屋層群で初めて見つかった時など、Zittelを見ていなかったら見当もつかなかったに違いない。
 続いて分類学的な記述が書かれている。以下の種類。
Endoceras annulatum, Hall, Var.
E. subannulatum, Whitefield.
E. crassisiphonatum. (Sp. Nov.)
Orthoceras Simpsoni, Billings.
O. semiplanatum. (Sp. Nov.)
O. Selkirkense. (Sp. Nov.)
O. Winnipegense. (Sp. Nov.)
Actinoceras Richardsoni, Stokes.
A. Bigsbyi, Brown.
A. Allumettense, Billings. (Sp.)
Sactoceras Canadense. (Sp. Nov.)
Gonioceras Lambii. (Sp. Nov.)
Poterioceras nobile. Whiteaves.
P. apertum. Whiteaves.
P. gracile. (Sp. Nov.)

 なお、後ろから3番目と2番目の種類はこの論文では命名者が書いてないが、当ブログ前回に記した1889年の論文でWhiteavesが命名(上の表では記入してある)。自分のだから書かなかったのだろうか。

 このあたりまで調べていたら、別刷を何度も開いたために劣化した本文の紙が崩れそうになってきた。取り返しがつかなくなる前に、各ページをスキャンしておくことにした。使われている用紙がA4よりも幅方向が1.5センチ長いが、幸い余白の範囲だからスキャナーで取り込めそう。

3-2 綴じ糸を切る

3-3 折り線を切り離す

 まず、綴じ糸を切って各ページを外す。中に折り目のあるところをナイフで切断して、一枚ごとにバラバラにすることに成功。ページ毎にスキャンしてファイルを作った。黄色くなった用紙の色はスキャン時に機械が取り除いてくれるから便利な時代である。

3-4  Whiteaves 1991 Plate X

3-5  Whiteaves 1991 Plate XI

 7図版のうちの2枚を示す。Plate X Fig. 1はSactoceras Canadense、Fig. 2 はActinoceras Bigsbyi、Fig. 3はActinoceras Allumettenseを描く。Plate XI Fig. 1はGonioceras Lambii、Figs. 2-3 はPoterioceras apertum、Fig. 4はPoterioceras gracileを描く。図版の製作方法は前のと同じだろう。原画は前のより少し上手に見える・
 古生代のオウムガイ類について勉強していないので別刷も役に立てられそうにない。

私の使った切符 その100 2007年2

2020年04月19日 | 鉄道
私の使った切符 その100
2007年2


179 紀州鉄道精算済票 2007.6.28

 切符ではないが、「精算票」という券がある。紀州鉄道は、御坊駅でJR紀勢本線と接続しているが、同じ駅のホームが分かれる形で、紀州鉄道改札はJR駅改札の中にある。だから、紀州鉄道で入ってきてJR改札を出る時にこの券を見せて通るしくみである。

180 和歌山電鐵精算済票 2007.6.29

 上の券と同様に、JR和歌山駅内にある和歌山鉄道貴志川線からJR駅を通って出場する時に提出する券。この線はもともと南海電鉄貴志川線であったが、2005年に和歌山電鐵が設立され、翌2006年から和歌山電鐵貴志川線となった。

181 天王寺車掌区発行 和歌山から天王寺自由席特急券 2007.6.28

 和歌山電鐵に乗車した帰りにJR阪和線の紀勢線から来る特急列車「オーシャンアロー」に乗車した。非常に薄い紙で、もちろん磁気用紙ではない。車掌さんが持っている小さい機械で出力したもの。

182 上野駅発行 同駅から勝田までの自由席特急券 2007.10.2

 関東地方の私鉄に乗るために訪れた。この日は、茨城交通湊線に乗車、海岸にある白亜紀層を見たが、波が荒くて化石の採集を断念した。この線は現在ひたちなか海浜鉄道湊という名称になっている。
 この日は三岐鉄道に乗車するために、名古屋から向かった。まず近鉄富田から三岐線に乗り、終点の西藤原で折り返して伊勢治田で下車、1kmほど北に歩いて、北勢線の終点、阿下喜駅から桑名に帰ってきた。

183 阿下喜駅で見た謎のレール 2007.12.11(再録)

 上の写真は、阿下喜駅の横にあった鉄道記念施設のレール。いろいろな軌間の車両を動かすために面白いレールが敷かれている。外側の超狭軌(右のほうでターンして戻って来る)と、内側の標準軌?がレールを共有している。


184 桑名駅発行 同駅から近鉄名古屋の特別急行券 2007.12.11
 この後名古屋に行って、出身高校の同窓会で博物館の建設についての話をさせていただいた。名古屋には自然史博物館がないからそういう機運が欲しいと話した。次の日は東京に行って、池袋ショーを楽しんだ。

桜も散った(臨時投稿)

2020年04月17日 | 今日このごろ
 志井川の桜の季節も終わった。数日前には花吹雪や花筏が見られた。例年と比べて散歩の人出もないから、ほとんど連日一持間ほど歩いた。

志井川の桜 2020.4.9

花吹雪 2020.4.7

川面の花びら 2020.4.10

 外出自粛の折だが、散歩をやめると運動不足が懸念される。いつもの喫茶店も閉めたから川沿いなどを歩くしかないかな、今の所身近に感染者の話はない。