古い本 5 Dal Piaz 1916 他
あたりまえだが19世紀の本はあまり所有していない。本棚にある学生時代に参考のためにコピーした論文には次のものがある。
Dubois, E. 1894 Pithecanthropus erectus. Eine menschenaehnliche uebergangsform aus Java.
有名なジャワ原人の論文である。39ページ2図版で、ドイツ語。Eugene Dubois (1858-1940) (本当はもう少し長い名前)は、オランダの地質学者。人類の起源が東南アジアにあると考えてジャワ島に行って、ジャワ原人の化石を発見したことはよく知られている。図版に掲載されている標本は、図1に頭蓋の脳函上(+参考のためチンパンジーの頭骨)が、図2に左大腿骨・一本の前臼歯が図示されている。
4-1 Dubois 1894 Tafel 2.
チンパンジーは、現在はPan 属にされる(他にボノボが含まれる)が、当時は人類の祖先であるということが強く意識された Anthropopithecus という属(1839年)とされていた。Anthropo- というのは人の、とか人に似たという意味、pithecusは猿の意味だから、合わせて「人っぽい猿」というような意味となる。しかし、チンパンジーに対してPan という属名が先に(1816年)提唱されていたためそれを使う。
Duboisは、Anthropopithecus を踏まえてジャワ原人の属名をPithecanthropus と名づけた。先ほどの言い方だと「猿っぽい人」ということ。青紫と紫青みたいな関係である。種小名の「erectus」は「立っている」という意味。そこで、第2図の大腿骨が意味を持ってくる。大腿骨のシャフトが直線的で、チンパンジーのようにカーブしていないから、二足歩行ができていた、ということを示す。ひざ関節の角度もチンパンジー的ではない。でも、この頭と大腿骨は同一個体ではないだろうし、同じ種類に属するという証明がされているわけではない。頭の方でも、大後頭孔が下面にあることがわかるわけでもない。なお、大腿骨の内側の不整形の出っ張りは過剰成長で、加齢によるものか病的なものかのどちらか。
後に多くの頭骨が近い場所から発見されたが、揃った骨格は出ていない。
4-2 これまでに発見された内で最も保存の良いジャワ原人頭骨
Duboisの論文はコピーだからこれくらいにして、今回紹介するのは下記の論文。
Dal Piaz, Giorgio 1916 (1977年の復刻版)Gli Odontoceti del Miocene Bellunese. Parti Quinta – Decima.
原本は104年前の発行である。縦33.5センチ、幅24.3センチ。A4より少し大きいから、下の写真(表紙)は少しずつ周りが切れている。いつ頃入手したのか明らかではないが、1977年に復刻版が出てすぐではないだろうか。瑞浪の鯨の研究をしていたころか? 裏表紙の内側に「¥24,000」という鉛筆の書き込みがある。私が書いたかどうかはわからない。H先生に頂いたのかもしれない。先生の研究室の本棚を見ていて、同じ本が2冊あるのを見つけて「売ってください」と申し上げたら快く下さったという記憶がある。もしかしたらこれだったのか。ちゃんとその旨記入しておかねばならなかった。
著者Giorgio Dal Piaz (1872-1962) は、イタリアの地質・古生物学者で、鯨類の化石に関する業績のほかアルプスの地質構造など多くの分野で成果をあげた。90歳まで研究活動を続けていたという。
5-3 Dal Piaz 1916 表紙(復刻版)
表題は「ベッルーノの中新世の歯鯨類」というもの。ベッルーノはベネチアの北にある都市。表題の後の数語は、連続の論文の第5部から第10部ということ。その10部のリストを英語に訳して記す。
Part 1. Historical Review and Stratigraphic Study. 1-25, Plates 1-2.
Part 2. Genus Squalodon 1-94, Plates 1-10.
Part 3. Genus Squalodelphis (new genus)
Part 4. Genus Eoplatanista (new genus)
Part 5. Genus Cyrtodelphis 1-18, Plates 1-2.
Part 6. Genus Acrodelphis ombonii 23-37, Plates 1-2.
Part 7. Genus Protodelphinus capellinii (new genus, new species) 41-50, Plate 1.
Part 8. Genus Ziphiodelphis Abeli 53-74, Plates 1-5.
Part 9. Genus Scaldicetus bolzanensis (new species) 85-92, Plate 1.
Part 10. General Conclusion and Phylogenetic Consideration 95-121, Fig. 1, Plate 1.
Appendix of bibliography 125-127, Plate 1.
上のページ及び図版のリストは、Part 1とPart 2が別に所持している復刻版でないコピーを見て記入、Parts 3-4 は原本もコピーも持っていない。5から後は1977年の復刻版のページ。
19世紀の別刷との一番の違いは、図版が写真であること。印刷方法は網版で、かなり細かいけれどもコントラストが強すぎて暗部が見づらい。多くの写真の中で最も参考になったのは、Part 10のもので、ここに述べた種類ばかりではなくもう少し広い範囲の鯨類の代表的な標本の写真が揃っていて、芦屋層群の鯨の研究をした時にずいぶん参考になった。
5-4 Part 10, Plate 1 代表的な初期の鯨類(当時)
図の鯨類の種類は、左上Protocetus 左下Zeuglodon 左から2番目Agorophius 3番目Patriocetus 右上Prosqualodon 右下Squalodon である。なお各属の命名は次の通り。Protocetus (Fraas 1904) Zeuglodon (Owen 1839: Basilosaurus Harlan 1834が先取) Agorophius (Muller 1839) Patriocetus (Abel 1913) Prosqualodon (Lydekker 1894) Squalodon (Grateloup 1840)。
あたりまえだが19世紀の本はあまり所有していない。本棚にある学生時代に参考のためにコピーした論文には次のものがある。
Dubois, E. 1894 Pithecanthropus erectus. Eine menschenaehnliche uebergangsform aus Java.
有名なジャワ原人の論文である。39ページ2図版で、ドイツ語。Eugene Dubois (1858-1940) (本当はもう少し長い名前)は、オランダの地質学者。人類の起源が東南アジアにあると考えてジャワ島に行って、ジャワ原人の化石を発見したことはよく知られている。図版に掲載されている標本は、図1に頭蓋の脳函上(+参考のためチンパンジーの頭骨)が、図2に左大腿骨・一本の前臼歯が図示されている。
4-1 Dubois 1894 Tafel 2.
チンパンジーは、現在はPan 属にされる(他にボノボが含まれる)が、当時は人類の祖先であるということが強く意識された Anthropopithecus という属(1839年)とされていた。Anthropo- というのは人の、とか人に似たという意味、pithecusは猿の意味だから、合わせて「人っぽい猿」というような意味となる。しかし、チンパンジーに対してPan という属名が先に(1816年)提唱されていたためそれを使う。
Duboisは、Anthropopithecus を踏まえてジャワ原人の属名をPithecanthropus と名づけた。先ほどの言い方だと「猿っぽい人」ということ。青紫と紫青みたいな関係である。種小名の「erectus」は「立っている」という意味。そこで、第2図の大腿骨が意味を持ってくる。大腿骨のシャフトが直線的で、チンパンジーのようにカーブしていないから、二足歩行ができていた、ということを示す。ひざ関節の角度もチンパンジー的ではない。でも、この頭と大腿骨は同一個体ではないだろうし、同じ種類に属するという証明がされているわけではない。頭の方でも、大後頭孔が下面にあることがわかるわけでもない。なお、大腿骨の内側の不整形の出っ張りは過剰成長で、加齢によるものか病的なものかのどちらか。
後に多くの頭骨が近い場所から発見されたが、揃った骨格は出ていない。
4-2 これまでに発見された内で最も保存の良いジャワ原人頭骨
Duboisの論文はコピーだからこれくらいにして、今回紹介するのは下記の論文。
Dal Piaz, Giorgio 1916 (1977年の復刻版)Gli Odontoceti del Miocene Bellunese. Parti Quinta – Decima.
原本は104年前の発行である。縦33.5センチ、幅24.3センチ。A4より少し大きいから、下の写真(表紙)は少しずつ周りが切れている。いつ頃入手したのか明らかではないが、1977年に復刻版が出てすぐではないだろうか。瑞浪の鯨の研究をしていたころか? 裏表紙の内側に「¥24,000」という鉛筆の書き込みがある。私が書いたかどうかはわからない。H先生に頂いたのかもしれない。先生の研究室の本棚を見ていて、同じ本が2冊あるのを見つけて「売ってください」と申し上げたら快く下さったという記憶がある。もしかしたらこれだったのか。ちゃんとその旨記入しておかねばならなかった。
著者Giorgio Dal Piaz (1872-1962) は、イタリアの地質・古生物学者で、鯨類の化石に関する業績のほかアルプスの地質構造など多くの分野で成果をあげた。90歳まで研究活動を続けていたという。
5-3 Dal Piaz 1916 表紙(復刻版)
表題は「ベッルーノの中新世の歯鯨類」というもの。ベッルーノはベネチアの北にある都市。表題の後の数語は、連続の論文の第5部から第10部ということ。その10部のリストを英語に訳して記す。
Part 1. Historical Review and Stratigraphic Study. 1-25, Plates 1-2.
Part 2. Genus Squalodon 1-94, Plates 1-10.
Part 3. Genus Squalodelphis (new genus)
Part 4. Genus Eoplatanista (new genus)
Part 5. Genus Cyrtodelphis 1-18, Plates 1-2.
Part 6. Genus Acrodelphis ombonii 23-37, Plates 1-2.
Part 7. Genus Protodelphinus capellinii (new genus, new species) 41-50, Plate 1.
Part 8. Genus Ziphiodelphis Abeli 53-74, Plates 1-5.
Part 9. Genus Scaldicetus bolzanensis (new species) 85-92, Plate 1.
Part 10. General Conclusion and Phylogenetic Consideration 95-121, Fig. 1, Plate 1.
Appendix of bibliography 125-127, Plate 1.
上のページ及び図版のリストは、Part 1とPart 2が別に所持している復刻版でないコピーを見て記入、Parts 3-4 は原本もコピーも持っていない。5から後は1977年の復刻版のページ。
19世紀の別刷との一番の違いは、図版が写真であること。印刷方法は網版で、かなり細かいけれどもコントラストが強すぎて暗部が見づらい。多くの写真の中で最も参考になったのは、Part 10のもので、ここに述べた種類ばかりではなくもう少し広い範囲の鯨類の代表的な標本の写真が揃っていて、芦屋層群の鯨の研究をした時にずいぶん参考になった。
5-4 Part 10, Plate 1 代表的な初期の鯨類(当時)
図の鯨類の種類は、左上Protocetus 左下Zeuglodon 左から2番目Agorophius 3番目Patriocetus 右上Prosqualodon 右下Squalodon である。なお各属の命名は次の通り。Protocetus (Fraas 1904) Zeuglodon (Owen 1839: Basilosaurus Harlan 1834が先取) Agorophius (Muller 1839) Patriocetus (Abel 1913) Prosqualodon (Lydekker 1894) Squalodon (Grateloup 1840)。