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最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その164 ドーバー海峡のトンネル 追記 中

2024年03月22日 | 鉄道

 Philosophical Transaction 創刊号, 1655 を見ている。
 最初の儀礼的な文章が終わるとジャーナルの主体部分ということになり。ノンブル(ページの数字)はここから始まる。The Contents, The Introductionが置かれてから、それぞれの「論文」というか記述が始まる。Contentsには10の項目が列挙されている。分野は多様で、順に、天文学3件 医学 生物学 鉱物学 窯業 捕鯨 航海学 数学 という。全部をまとめるとすれば科学論文である。形式としては、編集者の元に寄せられた書簡を紹介する、という形。著者名がよく分からない。幾つかを抄訳する。
1. 光学ガラスの改良の成果(パリからの通信)
 G. Campani (Giuseppe Campani 1635-1715)によると、大きなレンズを型を用いないで天体望遠鏡を製作した。色収差を減らすことができたという。1659年の土星の観察。内容はよく分からない。この書簡は天文学的な内容で、有名な天文学者の名が出てくる。例えばC. Huygens(1629−1695:ホイヘンス:オランダの数学・履理学・天文学者。土星の輪の研究で有名)、Copernicusなど。この部分の一部を拡大したのが下の図。

614 1666年の印刷物 3ページ

  最初の単語は「respects」で、ctが連字になっているほか。前のsはfの横棒がないもののような文字。この類は、ドイツの文献では後の時代でもよく出てくる。コンピュータの文字にも「ſ」がある。2行目の「goodneſs」「Graſſes」もsに読み替えればわかる。4行目に「He addeth」とあるが、addeth はadd 過去形addedの古い形。1600年代でも、この中ですぐに分からない単語はこれ一つ。意外に少ない。

2. 木星の帯の斑点(Hookの独創的な観察)
 Hook(としか書いてないが、おそらくRobert Hooke 1635-1703)は王立協会のフェローで生物学者。フックの法則・顕微鏡の作成などで有名。Hookは1664年の夜に木星の帯の一つに小さな点を見出し、それが西に向かって木星の直径の半分ほど移動するのを見た。ちなみに、木星の自転周期は約10時間で、地球の24時間と比べて随分早い。観察者が見ることのできるのは夜で、10時間ぐらいだから、見えているところの半分を移動するのが見えるのはおかしくない。
 この後ろに、かなり長い彗星の観察記録がある。
3-7. 省略

8. バーミューダの新しいアメリカによる捕鯨
 長めの文章であるが、面白そうなので読んでみた。このジャーナルの文章はすべて著者が誰であるかが明記されない。書簡の発信者として記されていることもあるが、文章中に「私」と出てきた時には、編集者と理解するしかない。この鯨の記録についても、おもな情報源は「捕鯨に従事していた屈強な男」(ここでは「捕鯨漁師」としておこう)の発言である。それを記録したのが誰であるのか判然としない。
 捕鯨漁師は、見出しから判断してアメリカ人かアメリカ人の主宰する漁業に雇われて、バーミューダに17回赴いた。その年号は明記されていないが、17回という限りは単独の年ではなさそう。12回は「fastned their Wepons」したというが、どういう意味だろう? 「fastened」の古い形だろうと思うが、「武器を据えた」つまり5回は偵察だけだった、という意味だろうか? いずれにしても、その事業で、成獣のメス鯨を2頭と、3頭のこどもを捕えたという。成獣の長さは88フィート(約27メートル)と60フィート(約18メートル)、こどもは
25フィート(約7.5メートル)から33フィート(約10メートル)という。捕鯨の目的は鯨油の採取で、「樽職人が不足していたから」11トンを持ち帰った。という。これで採算が取れたのか心配になる。
 鯨の種類については、1メートルの「エラ」(たぶん鯨ヒゲ)を持つとか、いろいろな記述からザトウクジラではないかと思われる。
 鯨をFishとしているとか、尾をTayl と綴っているとかは。古い英語だからありそうなこと。ヨーロッパの遠洋捕鯨は、1611年頃にイギリスが北極海で行ったのが古い記録。1670年の北アメリカ東岸の捕鯨、とか1712年アメリカのマッコウクジラ捕鯨の記録、とかが、古い時代の記録で有名なものだから、この1665年の記録は最も古いものの一つなのだろう。

9.  経度計測ための海上の振り子時計の成功に関する話
 海上の経度に関する振り子時計の機能;およびそれに対する特許付与について。Major Holmesからの連絡。経度計測の海上の振り子時計というのは、正確な時計を求める大きな理由がある。陸の見えない遠洋を航海するためには、正確な地図・海図とともにその図上での船の位置を知る必要がある。赤道からの距離である緯度については、北極星の高さを測ることでかなり正確に求められる。ところが、緯度を知るためには、地球の自転で変化する星の方位から決めるから、時刻を正確に知る必要がある。
 Holmes少佐という人が精度の高い振り子時計の作成に成功したという。この時計を使った実験航海の結果が記してある。実際には振り子時計によって揺れる海上で必要な精度の時刻を知ることはできなかったようだった。後に針の進みを一定にする装置が実用化され、約100後の1769年にイギリス海軍の船に装備された。その後も更に精度の高い機構の開発や、懐中時計などの小型化が進められた。精度の高い時計は「クロノメーター」という規格を検定によって得ることで、その名を名乗ることができた。日本でもその検定をおこなう資格のある機関(日本クロノメーター検定協会)があったが、1984年にクォーツの普及で解散した。

10 Tholouseで亡くなった議会参事官を務めていたFermat氏についての出版物
 Pierre de Fermat(1607−1665)のことだろう。例のフェルマーの「定理」(3以上の自然数nについて、二つの自然数のn乗の和が自然数のn乗になることはない)で有名な数学者。1995年に解決した。その解決についてここで記すにはこのスペースは狭すぎるので、ここでは書かない。
 彼の数学に関する業績がいろいろ書いてあるようだが、私には理解できない。Tholouse (Toulouse) は、フランス南部の都市。生誕地の近くで、1831年から議員に選出され、死ぬまで勤めた。

 本文はこれで終わり。空白の1ページを挟んで、1ページの図版がある。

615 Philosophical Transactions 創刊号? 図版

 これはなんだろう? 本文中に図版説明はないし、関連しそうなテーマも見当たらない。実はこの図版は、雑誌の創刊号から2号の間に置いてあるが2号の21ページから始まる水銀の精錬に関する文章に付けられたもの。何かの間違いで創刊号の巻末に入ったのではないだろうか。というのは2号26ページの次にも同じ図版があって、その右上には「N.o2d」という小さい書き込みがある。さらに図版の仕上がりが2号のではかなり悪くて細部が見えなくなっている。
 22ページの最下方にFig. Iの説明が、25ページの最後の方にFig. II. の説明がある。こちらだけ翻訳しておく。A:水流. B:「滝」. C:水槽. LG:管. G 管の口またはふいごの口. GK:炉. E: 管の開口. F:ストッパー. F: 床の水の流出部。左側の炉で鉱石から水銀を流しだして、右の縦の水槽で速やかに冷やすのだろうか。その水銀を含む水を下の装置で漉しとるのかな? なお、この図版の印刷方法は(証拠はないが)木版だろうと思う。
 このように、イギリスの学術誌は随分古くから存在したし、わずかな「読み替え」をすれば、現在も理解しやすいことに驚く。活版印刷という技術が大きく役立っているに違いない。さらに創刊号から(実は2号の内容だが)図版が入っていることにもすばらしい。

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