■お正月、放哉と青空、Bachカンタータと四声体コラール、ジョン・ケージ■
2018.1.7 中村洋子
★穏やかな「2018年」の年明けでした。
≪針の穴の青空に糸を通す≫ 尾崎放哉
私の好きな放哉の句です。
季語の無い自由律俳句ですから、季節は分かりません。
★放哉の句によく見かけられる「空」は、哲学的な意味を
含んだ語かもしれません。
しかし、私は、この小さな針穴から、広大無辺な青空に一本の
細い意図を通すという行為、
心が開放され、かつ収斂する様は、
新年にこそ相応しいという、気持ちがします。
★かつて、新春は「フーテンの寅さん」の新作映画が、
毎年、封切られていました。
美しい女性にまたもや失恋し、淋しい旅の空の寅さん。
故郷の葛飾柴又では、妹のサクラの手に、寅さんからの葉書。
寅さんの懐かしい声が、ナレーションで流れてきます。
柴又の江戸川河川敷では、無心に凧揚げに興じる子供たち。
正月休みでスモッグも無い、青く澄んだ冬の、東京の空です。
★今年も広大無辺な音楽の青空に、妥協することなく、
極小の針穴に、糸を通す努力、営為を続けていきたいと、
願っております。
★お正月休みにいただいたお便りです。
私のCD「無伴奏チェロ組曲3、2番」(Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー演奏)に、収録されています、
小品二曲のご感想が書かれていました。
★ 『冬の庭』は、誰も足を踏み入れていない静謐な、
白一面の庭を想起させてくれます。
冷えた地ではあるけれど、その奥底には確かなエネルギーが
息づいているようでもあり…。
『夜色楼台図』は、ベッチャー先生のうなりが
所々入っているのもあり、峻厳さや孤高といったものを
より強く感じます。
鳥となった蕪村が漆黒の雪雲を、
その小さな身体で懸命にまとっている、
そんな画も浮かんできます。
★このように深く聴き込んで頂き、感謝しております。
なお、このCDは、アカデミアミュージックと
銀座・山野楽器銀座本店で、お求め頂けます。
★私の年末年始は、いつもの日常と変わらず、
淡々と仕事を続けていました。
その間、一曲仕上げることができました。
★ここ数日は、Nikolaus Harnoncourt
ニコラウス・アーノンクール(1929-2016)指揮の、
Bach「J.S.Bach: Great Cantatas 」という、
https://wmg.jp/artist/harnoncourt/PKG0000018970.html
カンタータをたくさん集録したCDを、毎日、聴いていました。
大変に納得のいく、優れた演奏と思います。
★このカンタータボックスは、7枚組ですが、
1枚目に、教会カンタータ「Es erhub sich ein Streit BWV19
戦いが起きた(教会暦 聖ミカエル祭 1726年9月29日初演)」
が、集録されてます。
★≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫の初演が1727年。
その一年前の曲です。
このカンタータの最後の曲である「コラール」を、聴いてみてください。
1~5小節目の合唱部分は、こうです。
★これを大譜表に書き直しますと、こうなります。
★続く6~9小節目も、大譜表では、こうです。
★10小節目以降もソプラノだけ書き写しますと、
Bachが、異なった四声体和声をつけた「コラール」は、
Bachの没後、息子の「C.P.E Bach」と、「Johann Philipp Kirnberger
ヨハン・フィリップ・キルンベルガー(1721-1783)によって編纂された
≪371 vierstimmige Choräle für ein Tasteninstrument
(Orgel, Klavier, Cembalo)
371 Four-Part Chorales for one Keyboard Instrument
(Organ, Piano, Harpsichord)
鍵盤楽器(オルガン、クラヴィーア、チェンバロ)のための
371の四声体コラール≫
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000052660/
にも、掲載されています。
★この371曲の「四声体和声」を弾き、学ぶことは、
Bachの和声を身につけるために、とても役立ちます。
お薦めいたします。
★Robert Schumann ロベルト・シューマン(1810-1856)も、
子供たちに、幼い頃から「四声体和声」を身につけて欲しいと、
願っていました。
★「Album für die Jugend Op.68 ユーゲントアルバム」の
第4番が、実は、このコラールです。
★この「Album für die Jugend ユーゲントアルバム」につきましては、
現在、大変幸せなことに
①初稿 Klavierbüchlein für Marie
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030094/
②自筆譜浄書譜
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030258/
③初版譜ファクシミリ
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000031072/
④大作曲家Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
の校訂版
https://www.academia-music.com/html/page1.html?q=%EF%BC%A6%EF%BD%81%EF%BD%95%EF%BD%92%EF%BD%85%E3%80%80%EF%BC%B3%EF%BD%83%EF%BD%88%EF%BD%95%EF%BD%8D%EF%BD%81%EF%BD%8E%EF%BD%8E&sort=number3,number4,number5&searchbox=1&o=0
の4種類が、易々と入手可能です。
★これ以上は、もう必要ないのではないか、と思うくらい、
この「ユーゲントアルバム」については、
私たちは恵まれた状況にあります。
★フォーレの校訂版は、読み込み方を理解しますと、
曲の構造と演奏法が、しっかりと身につきます。
それにつきましては、また、稿を改めてお話いたします。
★1月20日(土)に、「平均律第1巻第1番」アナリーゼ講座を
https://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html
開催いたします。
今回は、休憩を含めて4時間の講座ですので、
じっくりお話が出来ると思います。
★Bachにとって、「Prelude」 とはなんであったのか?
それを、「無伴奏チェロ組曲」の「Prelude」 と、
「平均律第1巻 C-Dur Prelude」との対比から、
解き起こします。
★その影響は、アメリカの作曲家 John Cage
ジョン・ケージ(1912-1992)にまで、深く浸透していることも、
ご説明する予定です。
★ケージは、Arnold Schönberg アルノルト・シェーンベルク
(1874-1951)の下で、20代に、
Bachの 「counterpoint 対位法」を、学んでいるからこそ
大きな革新を打ち出せた、ともいえます。
シェーンベルクの「12音技法」とは、
バッハの対位法を、拡大発展させた作曲技法です。
★そのケージの作品を、形だけ真似しましても、
フワフワとマシュマロのような「現代」音楽しかできないでしょう。
実体がないのです。
★それを理解しますと、Bachを弾くこと、学ぶことが
更に楽しくなります。
★Cello チェロのマエストロ、Wolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー先生から、新年のお便りを頂きました。
「Enjoy life and music !」と、先生はおっしゃっています。
「life」を、どう訳しましょう。
「人生と音楽を楽しんでください」でしょうか。
この言葉を、皆さまへの新年のご挨拶といたします。
「Enjoy life and music !」
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲