■自筆譜不明の平均律2巻4番、Bachがどう書いていたか、渾身の解明作業■
~Boettcher先生が、Wittenで私の無伴奏チェロ組曲4番を再演~
2015.4.3 中村洋子
★日陰躑躅・薄黄、椿・赤、連翹・黄、雪ノ下・白、
花韮・薄紫、桜・薄桃、ムスカリ・紫、海棠・朱・・・
春は、色彩の乱舞です。
★4月16日(木)KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」は、
「4番 cis-Moll」 です。
2巻の4、5、12番は、Bach の 「Manuscript Autograph 自筆譜 」が、
不明です。
★これまで、 「Invention講座」の全15回、
「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律 第 1巻 」 全24回、
「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律 第 2巻 」 21回の、
アナリーゼ講座は、すべて、
Bach の 「Manuscript Autograph 自筆譜 」 が、
北斗星のように、行く手を照らしてくれていました。
★4番を読み解くには、これまでの“Bach 自筆譜体験”を基に、
全知全能を傾け、レイアウトを考え抜く以外にありません。
Bach自筆譜の「レイアウト」とは、
Bachがその作品をどのように、構成して作曲したか、
それを知るための、最良の手掛かりなのです。
★私にとって、平均律2巻最後の6曲「19~24番」、
空前絶後の偉大な作品に挑戦し、
それらを読み解いていった、という体験が、
いまとなっては、大きな力となり、励ましになっております。
★ちょうど、登り切った頂上から、いま来た道を眺め下ろす、
そんな感じも、いたします。
★そして、ようやく4番を ≪Bach はこう書いていたであろう≫
という解読が、ほぼできたと思います。
★2、3月は、名古屋 KAWAI で、
「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」
のアナリーゼ講座を、開催しました。
その勉強の成果も、大きく作用しています。
★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」の3楽章は、
奇妙にも、2楽章の最終段の右端から、始まっています。
私は、同様に平均律2巻4番「 Fuga 」も、
見開き2ページに書かれた 「Prelude」最終段の、
右端から、始まっていると、確信をもって言えます。
★Bachは、theme、motif、それらの展開を、
レイアウトによって表現する作曲家です。
そこを考えに考え抜き、レイアウトを決めていく作業は、
頭脳を極限まで酷使しますが、まことに、
得難く、スリリングな体験といえます。
★一方、Bach を分析するには、違う視点から勉強することも、
大切であると、思います。
例えば、「 Partita Ⅱ für Violin solo
無伴奏ヴァイオリンパルティータ2番 BWV1004」 は、
大変参考になります。
特に、平均律第2巻4番 Fuga の関連性が、強く出ています。
★これを、Wolfgang Eduard Schneiderhan
ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915 - 2002)の、
校訂版で、勉強いたしますと、
Bach の主題、motif、旋律を、どう解釈し、
演奏するうえで、どのように構成していくかが、
実に、よく分かってきます。
★この校訂版の「Joh.Seb.Bach Sechs Sonaten und Partiten
für Violine solo」 の表紙には、次のように書かれています。
für den
praktischen gebrauch eingerichtet
und mit erläuterungen versehen
von
WOLFGANG SCHNEIDERHAN
(直訳しますと、シュナイダーハンによる、演奏するうえで役立つ
arrangement とその解説ーですが、分かりやすくしますと、
Bach の原曲にボーイングやフィンガリング、フレージングを、
詳細に書き込み、解説も加えた、という意味になります)
★Bach の勉強は、 「Manuscript Autograph 自筆譜 」を
読み込み、そして、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー、
Schneiderhan シュナイダーハンのような、
偉大な音楽家の校訂版からも、教えを乞うのが、
最良の道です。
★少し前になりますが、BerlinのWolfgang Boettcher
ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が届きました。
3月8日、ドイツの Witten で、
私の「Suite für Violoncello solo Nr.4
無伴奏チェロ組曲 第4番」を、再演していただきました。
★1月の初演に続き、すぐさま再演していただき、
とても、嬉しく思っております。
この第4番は、SACDで発売されました「組曲第2集」の
冒頭の曲です。
★Friedrich Hölderlin ヘルダーリンの詩
≪ Andenken 追想 ≫に、作品のイメージを求めたものです。
プログラムでは、各楽章にその一節が、丁寧に書かれています。
組曲全6曲中、唯一、日本のイメージから離れ、
ドイツの詩に依っています。
★Cellokonzert Wolfgang Boettcher
Programm
・J.S.Bach Suite G-Dur BWV1007 (1721)
・Tigran Mansuryan Capriccio
・Yoko Nakamura Suite Nr.4(2009 bis 2011)
Wolfgang Boettcher gewidmet
Texte aus dem Gedicht
"Andenken" von Friedrich Hölderlin
Ⅰ Der Nordost wehet,
der liebste unter den Winden mir,
weil er feurigen Geist
und gute Fahrt verheißet den Schiffern.
北東の風が吹く、
私の最も愛している風、
この風は、燃えるような魂
航海するものたちに
良い船旅を約束する
Ⅱ Gute Fahrt 出航
Ⅲ Ein edel Paar
Hinschauet ein edel Paar
von Eichen und Silberpappeln
オークと銀のポプラの
気高い一対を彼方に臨む
Ⅳ Von goldenen Träumen schwer,
ein wiegende Lüfte ziehen
金色の夢で深く
眠り込ませるような風が吹く
Ⅴ① Zur Märzenzeit,wenn gleich
ist Nacht und Tag
三月の時、
夜と昼が等しい時
Ⅴ② Einsam 孤独
Ⅵ Was bleibet aber,
stiffen die Dichter
留まるものを創り上げるのは、
詩人たちだ
Pause
・J.S.Bach Suite c-Moll BWV1011
★Boettcher ベッチャー先生も、
この曲が、とても好きになられたようです。
先生はその後、ポルトガルのリスボンで、
マスタークラスやコンサートを開かれ、
「相変わらず、忙しい毎日です」と、書かれていました。
★4月15日夕、「dues 新宿」(disk Union イヴェントスペース)
で、開催します「SACD 無伴奏チェロ組曲」の試聴会で、
この第4番も、聴くことができます。
「ESOTERIC エソテリック社」 最高の機器を、使用します。
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