音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■自筆譜不明の平均律2巻4番、Bachがどう書いていたか、渾身の解明作業■

2015-04-03 23:50:24 | ■私のアナリーゼ講座■

■自筆譜不明の平均律2巻4番、Bachがどう書いていたか、渾身の解明作業■
~Boettcher先生が、Wittenで私の無伴奏チェロ組曲4番を再演~
              2015.4.3   中村洋子

 

 

★日陰躑躅・薄黄、椿・赤、連翹・黄、雪ノ下・白、

花韮・薄紫、桜・薄桃、ムスカリ・紫、海棠・朱・・・

春は、色彩の乱舞です。


4月16日(木)KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」は、

「4番 cis-Moll」 です。

2巻の4、5、12番は、Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」が、

不明です。


★これまで、 「Invention講座」の全15回、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅰ 平均律 第 1巻 」 全24回、

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律 第 2巻 」 21回の、

アナリーゼ講座は、すべて、

Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」 が、

北斗星のように、行く手を照らしてくれていました。

 

 


★4番を読み解くには、これまでの“Bach 自筆譜体験”を基に、

全知全能を傾け、レイアウトを考え抜く以外にありません。

Bach自筆譜の「レイアウト」とは、

Bachがその作品をどのように、構成して作曲したか、

それを知るための、最良の手掛かりなのです。


★私にとって、平均律2巻最後の6曲「19~24番」、

空前絶後の偉大な作品に挑戦し、

それらを読み解いていった、という体験が、

いまとなっては、大きな力となり、励ましになっております。


★ちょうど、登り切った頂上から、いま来た道を眺め下ろす、

そんな感じも、いたします。


★そして、ようやく4番を ≪Bach はこう書いていたであろう≫

という解読が、ほぼできたと思います。


★2、3月は、名古屋 KAWAI で、

「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

のアナリーゼ講座を、開催しました。

その勉強の成果も、大きく作用しています。


★「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」の3楽章は、

奇妙にも、2楽章の最終段の右端から、始まっています。

私は、同様に平均律2巻4番「 Fuga 」も、

見開き2ページに書かれた 「Prelude」最終段の、

右端から、始まっていると、確信をもって言えます。

 



★Bachは、theme、motif、それらの展開を、

レイアウトによって表現する作曲家です。

そこを考えに考え抜き、レイアウトを決めていく作業は、

頭脳を極限まで酷使しますが、まことに、

得難く、スリリングな体験といえます。


★一方、Bach を分析するには、違う視点から勉強することも、

大切であると、思います。

例えば、「 Partita Ⅱ für Violin solo

無伴奏ヴァイオリンパルティータ2番 BWV1004」 は、

大変参考になります。

特に、平均律第2巻4番 Fuga の関連性が、強く出ています。

 

 

 

★これを、Wolfgang Eduard Schneiderhan

ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915 - 2002)の、

校訂版で、勉強いたしますと、

Bach の主題、motif、旋律を、どう解釈し、

演奏するうえで、どのように構成していくかが、

実に、よく分かってきます。


★この校訂版の「Joh.Seb.Bach  Sechs Sonaten und Partiten

 für Violine solo」 の表紙には、次のように書かれています。

für den

praktischen gebrauch eingerichtet

und mit erläuterungen versehen
 
von

WOLFGANG SCHNEIDERHAN

(直訳しますと、シュナイダーハンによる、演奏するうえで役立つ

arrangement とその解説ーですが、分かりやすくしますと、

Bach の原曲にボーイングやフィンガリング、フレージングを、

詳細に書き込み、解説も加えた、という意味になります)


★Bach の勉強は、 「Manuscript Autograph 自筆譜 」を

読み込み、そして、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー、

Schneiderhan シュナイダーハンのような、

偉大な音楽家の校訂版からも、教えを乞うのが、

最良の道です。

 


★少し前になりますが、BerlinのWolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、お手紙が届きました。

3月8日、ドイツの Witten で、

私の「Suite für Violoncello solo Nr.4

無伴奏チェロ組曲 第4番」を、再演していただきました。


★1月の初演に続き、すぐさま再演していただき、

とても、嬉しく思っております。

この第4番は、SACDで発売されました「組曲第2集」の

冒頭の曲です。


★Friedrich Hölderlin ヘルダーリンの詩 

≪ Andenken 追想 ≫に、作品のイメージを求めたものです。

プログラムでは、各楽章にその一節が、丁寧に書かれています。

組曲全6曲中、唯一、日本のイメージから離れ、

ドイツの詩に依っています。

 

 

★Cellokonzert  Wolfgang Boettcher
Programm

・J.S.Bach                   Suite  G-Dur BWV1007 (1721)
・Tigran Mansuryan       Capriccio

・Yoko Nakamura       Suite Nr.4(2009 bis 2011)                                                    

      Wolfgang Boettcher gewidmet

                            Texte aus dem Gedicht
                            "Andenken" von Friedrich Hölderlin                          

      Ⅰ   Der Nordost  wehet,

                   der liebste unter den Winden mir,
                   weil er feurigen Geist 
                   und gute Fahrt verheißet den Schiffern.
                  北東の風が吹く、
         私の最も愛している風、
         この風は、燃えるような魂     
         航海するものたちに
         良い船旅を約束する

       Ⅱ Gute Fahrt                  出航

       Ⅲ Ein edel Paar
                     Hinschauet ein edel Paar
                     von Eichen und Silberpappeln
                     オークと銀のポプラの
          気高い一対を彼方に臨む

       Ⅳ  Von goldenen Träumen schwer,
                     ein wiegende Lüfte ziehen
                       金色の夢で深く
            眠り込ませるような風が吹く

       Ⅴ① Zur Märzenzeit,wenn gleich
                        ist Nacht und Tag
                        三月の時、
            夜と昼が等しい時

       Ⅴ② Einsam           孤独

       Ⅵ   Was bleibet aber,
                        stiffen die Dichter
                        留まるものを創り上げるのは、
             詩人たちだ

                Pause

  ・J.S.Bach             Suite c-Moll BWV1011

 

 






★Boettcher ベッチャー先生も、

この曲が、とても好きになられたようです。

先生はその後、ポルトガルのリスボンで、

マスタークラスやコンサートを開かれ、

「相変わらず、忙しい毎日です」と、書かれていました。


4月15日夕、「dues 新宿」(disk Union イヴェントスペース)

で、開催します「SACD 無伴奏チェロ組曲」の試聴会で、

この第4番も、聴くことができます。

「ESOTERIC エソテリック社」 最高の機器を、使用します。

 

 

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