音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■自筆譜が不明の「平均律2巻4番」のレイアウト、かなり解明■

2015-04-12 23:57:00 | ■私のアナリーゼ講座■

■自筆譜が不明の「平均律2巻4番」のレイアウト、かなり解明■
 ~Bachがどう作曲していたか、その過程の推測が可能に~
           2015.4.12    中村洋子

 

 

★15日開催の≪私のSACD「無伴奏チェロ組曲」試聴会≫は、

以下の機材を使用することが決まりました。
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●ゴールデンルール試聴会 
・日時:4月15日(水)18:30~(開場は18時)
・会場:dues新宿 (ディスクユニオン イベントスペース)
  JR新宿駅東口より徒歩2分 東京メトロ新宿三丁目A5出口徒歩1分
・参加について:要予約・費用500円(ドリンク代)
使用機材:
   SACDプレーヤー:  ESOTERIC K-03X
   プリメインアンプ:  ESOTERIC I-03
   スピーカー:     TANNOY KENSINTON

【問い合わせ/参加予約】
ディスクユニオンお茶の水クラシック館 (担当:高木)
TEL/03-3295-5073
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★各組曲から2曲ぐらいを選択、最高の機材により、

SACDの素晴らしい音質を、体験できます。

 

 


16日の KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」は、

「4番 cis-Moll」 です。

Bach の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」が不明なことから、

不安でもありましたが、いろいろな角度からアプローチを試みました。

その過程で、曲の構造がより明確に解明でき、さらに、

Bach 自身がどのような手順を経て、楽譜として書き記したか、

ということも、分かってきました


★やはり、Bach は“魔法”を使って、

楽譜を書いていたのではなかったのです。

秘法やら、隠された技法がある訳でもなく、

非常にオーソドックスに下書きしたものを、練りに練り上げて

「完成」させます。

次のステップとして、完成稿を、

この上ない精緻な ≪ layoutレイアウト ≫ で、

「楽譜」に落とす作業を、するのです。

 

 

 


★「楽譜」に落とす際、その≪ layout レイアウト ≫は、

完成稿のレイアウトとは、大きく異なっています。

なぜ、異なるのでしょうか?


★これまでに、何度も指摘していることですが、

Bachは、≪ layout レイアウト ≫によって、

“このように演奏して欲しい”という希望を、

示しているのです。

それは、このうえなく優しい、親切な教えでもあるのです。

その≪ layout レイアウト ≫を理解して演奏しますと、

Bach の意図通りの演奏に、近づくことができるのです。

Bach先生から、直接教えていただくのと同じなのです。


★この「4番 cis-Moll」の Prelude は、62小節、

Fuga は71小節です。

Fuga は16分の12拍子(1小節に12拍)ですので、

かなり長大な曲です。


★ Preludeを見開き2ページで書きますと、

Fugaが見開き2ページでは、入りきらないのは当然です。

他の曲の 「Manuscript Autograph  自筆譜 」を見ますと、

それは、歴然です。


★そういう場合、Bach は二通りの方法をとっています。

一つは、 Preludeを2ページで書き、 Fuga も2ページで書きますが、

書き切れない部分を、 Fuga 1ページ目の下の余白に、

「NB ノタベーネ:注意せよ」の記号を付け、

やや小さい音譜で、残りを書き記します。


★二つ目の方法は、「「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」

のように、 Preludeが書き終わったところ、つまり、

2ページ目の6段目か7段目、 Preludeの終わりに直ぐ続けて、

Fugaを書き始める方法です。

 

 


★私は今回まず、 Fugaを左ページの冒頭から書く試みをしました。

その際、Bachが多用しています「不完全小節」、

これは、小節の途中で段を変えて記譜する書き方ですが、

それを用いつつ、Bachはこう書いたのであろうと分析しながら、

全体のレイアウトを、作ってみました。


★そうしましたところ、驚くべき精緻さで、

主要な音、和声が、各段の同じ位置に現れてきました。

つまり、ある重要なカギとなる音が、その下の段や、

さらに下の段の、同じ位置、つまり、垂直に見下ろした位置、

真下の場所に見事に、出現していたのです。


私自身、作曲家ということから、確信をもって言えることは、

Bachは、上記のようにしてまず完成稿を作り上げた、

ということです。

 

 


★私は、そのような作業をした後、この平均律の

「Manuscript Autograph  自筆譜 」に、かなり似ていると

言われる「筆写譜」を、じっくり検討し、

これも写譜してみました。


この「筆写譜」は、かなり信頼できると思いました。

その理由は、これを筆写した人物が、

編集者がよく行うような、勝手な恣意的な変更などを、

加えていないと、判断できるからです。


Anna Magdalena Bach アンナ・マグダレーナ・バッハの写譜に、

よく見られることですが、Bachの各声部の音譜、

例えば「soprano」声部を、ずっと横に一段分写していき、

その後、「alto」声部を同様に、横に写していきますと、

どうしても、ズレが生じてきます。

本来は、「soprano」声部の真下にあるべき「alto」声部が、

左右にかなりズレていることが、よくあるのです。


この「筆写譜」には、こうしたズレがあり、

高慢なお節介な編集者にみられるような、

“Bach の間違いを直してやった”という、

思い上がった態度が無い、という「証明」であるともいえます。

つまり、正直にBachの 「Manuscript Autograph  自筆譜 」を、

黙々と写していた、という可能性が強いのです。

 

 


★お話が飛びますが、Bachの死後5年の1755年頃に書き写され、

1993年になって、フランスの「Conservatoire National de Région

de Toulouse トゥールーズ音楽院」の  Biblioteque Musicale で

発見された、「Inventionen und Sinfonien 」の ≪ Toulouse  写本 ≫

という楽譜があります。


★この ≪ Toulouse  写本 ≫ は、とても興味あるものです。

レイアウトが、大胆に変更されています。

写した人が、「自分はこのように弾きたい」という考えを基に、

レイアウトされています。

それは、大変に音楽的です。

この写し手が、Bach の音楽を、深く深く、理解していたことが、

一目瞭然です。

もし、Bachがこの写本を見ましたら、喜んだに違いないでしょう。

作曲家は、自分の作品が真摯に研究されたうえで、

多用な解釈で演奏されることを、望んでいるからです。

日本の偉い先生方のように、「こう弾かなくてはならない」と、

睨むのではないのです。

 

 


★上記の「筆写譜」に戻りますが、これを写した人物は、

あまり緻密ではなく、しかも、かなり急いで写した様子です。

ある小節の「一声」が、すっぽりと抜けているところもあります。

段落の終わり方も、かなり大雑把です。

こういう事実も、Bachを“忠実に”写したという傍証でしょう。


この「筆写譜」は、 Preludeの2ページ目6段目の

終わりごろから、 Fuga を始めています。

これは、逆に言いますと、この人物の発想では、

到底出てこない手法だと言えます。

やはり、Bach の 「Manuscript Autograph自筆譜」 を、

大まかに踏襲して写した、と言えそうです。

 

私も、この「4番 cis-Moll」について、

Bachは、完成した下書きを、6 or 7段目の

Preludeが終わった場所から、 Fuga を書き始めた、と思います。

それは、 Prelude と Fugaを、一つのまとまった曲として、

演奏するには、その両者の関係、その構造を理解して欲しい、

という意図があるからです。


Prelude と Fuga を別々のpageで書いた場合、

異なった二曲を並べただけの演奏に、陥ります。

それを避けるための、Bach の「親切な layout」なのです。

 

 


★ちなみに、私がBach の「発想」を再構築しようとした際、

最大の道しるべとなったのは、Julius Röntgen

ユリウス・レントゲン (1855~1932)の Fingering

フィンガリングによるアナリーゼです。


★私は「下書き」という言葉を使いましたが、

Bachのような天才は、下書きの作業を、

実際に「紙」に書いていたのか、あるいは、

全部頭の中で、「完成稿」を作り上げ、

それを「楽譜」として書き下ろしていたかは、

分かっておりませんが、大変に、興味があります。

Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827)は、

下書きを「紙」に、書いていました。

 

 

 

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 ●中村洋子 平均律クラヴィーア曲集 第 2 巻・アナリーゼ講座

   第 22 回 第 4 番 cis-Moll  BWV873  Prelude & Fuga

■日 時 : 2015 年 4 月 16 日(木) 午前 10 時 ~ 12 時30 分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tell. 03 - 3409 - 1958

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 ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

     東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

         2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

         07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

         08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

         08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

         09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
  
   10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

         10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

         11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
   チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

         13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

   14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
     ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
    「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

               スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」 
        https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/
                          販売中。

 

      ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 

  

 
※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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