■平均律1巻4番 Fuga での、マジックのような類稀なBachの作曲技法■
~平均律1巻4番アナリーゼ講座~
2018.7.20 中村洋子
★西日本の大水害、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
21日(土)は、アカデミアミュージック主催の
「平均律第1巻4番プレリュード&フーガ」アナリーゼ講座です。
★私は講座のたびに、Bachの自筆譜をあらためて、書き写します。
東京、横浜、名古屋、そして再び東京です。
書き写すたびに、新たな発見と感動が生まれます。
★アカデミアミュージックでの講座は、
Bärenreiterベーレンライター版「平均律1巻楽譜」に添付の
≪Bach「序文」の訳と解釈≫を仕上げてから、始まりましたので、
その≪訳と解釈≫の成果を基礎にして、新たに書き写しますと、
"バッハ先生、そうだったのですね!、いままで気が付きませんでした"
と叫びそうになる、新発見の連続です。
★極度に凝縮され、底知れない深さを湛える
「Praeludium1(1番プレリュード)」
(Bach自筆譜では、3ページから始まります)から、
4、5、6、7ページを経て、9ページの「Praeludium 4」 の
≪gis¹ fis¹ e¹ dis¹ e¹ cis¹≫に、どのように至ったのか。
★この類稀な主題は、どこから来て、どこへ行くのか。
これにつきましては、"驚きの発見" をしました。
それは、平均律だけでなく、
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の根幹をなす、
音楽設計にも通じます。
「Bachの思想」といってもいいでしょう。
★Bachが絶えず自分に問いかけ、それを音楽で表していったのでしょう。
この涙が頬を伝うような「motif モティーフ」に至るための、
Bachの音楽的思索について、講座で詳しく丁寧にご説明いたします。
★龍の髭に、薄紫のそれはそれは小さい花が付いています。
これから半年かけ、まんまるの実に育てていくのですね。
冬枯れの庭に、艶々とした真っ青な実を見つけるのは、心が躍ります。
真夏に咲き誇る、華やかな花々の陰に隠れるように咲く、
龍の髭の花は、可憐です。
(龍の髭)
★Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生の
Duo Recital の録音を、お姉様のUrsula Trede
ウルズラ・トレーデ先生が、Mannheimから、送ってくださいました。
ご夫君のDr.Tredeさんが、ご趣味で描かれた絵、
ご自宅のお庭の絵のコピーも同封されていました。
タイトルは「Frühlingserwachen (春の目覚め)」。
冬が厳しいドイツの春は、さぞ美しいことでしょう。
★Trede先生のピアノのリズムの素晴らしいこと。
「本物!」と、唸りました。
Boettcher ベッチャー先生とTrede先生は、かれこれ10年ほど、
私の作品を、ことあるごとに演奏し続けて下さっています。
「幸せ」な作曲家ですね。
★21日の「平均律第1巻4番アナリーゼ講座」の関連ですが、
私の「Bärenreiterベーレンライター平均律第1巻楽譜」添付の解説で、
17~23ページにかけて、この「4番cis-Moll」 の 「Fuga」 について、
詳しく書いておりますので、是非お読み下さい。
http://www.academia-music.com/products/detail/159893
★この解説の20~21ページに書きました「4番 Fuga」の、
40、41、42小節の和声について、少し、書いてみましょう。
★ Fuga の41小節目は、Bachの自筆譜に書かれたページですと、
見開き10ページの左側5段目右端に、記譜されています。
現代の記譜法で書き写しますと、こうなります。
★40小節目と41小節目1~2拍目にかけては、「gis-Moll 嬰ト短調」でしょう。
★41小節目2拍目冒頭音までは、「gis-Moll」に聴こえるのですが、
★その直後、バスの音が奏される瞬間、「gis-Moll」から転調します。
「a音」は、「gis-Moll」の音階音には存在しません。
「gis-Moll」でしたら、「ais音」です。
このため、この「a音」が出現した瞬間、一条の光が差すかのように、
「E-Dur ホ短調」に、転調するのです。
★さあ、「Bachマジック」です!、
Bachの類稀な作曲技法を、私はそう呼びます。
「E-Dur」の「主和音Ⅰ」であれば、例えば、こういう旋律がつきます。
実に、明解です。
★しかし、Bachは41小節目上声最後の音を、「e²」にしないで、
「h¹」に戻ってしまいます。
★そうです、ここで形成された和音は、「E-Dur」の「Ⅲ」の和音です。
★「E-Dur」は、この4番 Fuga の主調「cis-Moll」の平行調です。
「E-Dur」の主和音は、もちろん「長三和音」です。
さきほどご説明しましたように、もしここで「E-Dur」の主和音に転調しますと、
単純、明解なのですが、そうしますと、それまでの深い嘆きや悲しみが、
糸の切れた風船のように、軽やかにどこかへ飛んでいってしまいます。
Bachは、ここで「E-Dur」の主和音、即ち「長三和音」を配置せず、
「E-Dur」でありながら、「短三和音」である「Ⅲ」の和音を、
主和音の代わりとして配置し、緩衝材としたのです。
★続く42小節目1拍目は、「E-Dur」の「Ⅳ₇」の和音、
明るさが増します。
42小節目2拍目から43小節目1拍目は、「H-Dur」。
更に更に光度が、上がっていきます。
★この個所を、和声要約してみましたので、
どうぞ、ピアノまたは身近な楽器で音を出して下さい。
★講座では、平均律第1巻と平均律第2巻の関係、
「フーガの技法」や、「フランス組曲」のお話もする予定です。
Tchaikovsky チャイコフスキー(1840-1893)も、
登場いたしますので、4時間では足りないくらいです。
★猛暑が続きますが、ご参加される皆さまと
お会いするのを、楽しみにしております。
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