音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■リヒテルの「イギリス組曲」偉大な演奏、クリスマスオラトリオにも通じる■

2015-05-13 11:32:41 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■リヒテルの「イギリス組曲」偉大な演奏、クリスマスオラトリオにも通じる■
        2015.5.13          中村洋子


 

 


★美しい箱根の山で、噴火の前兆のような火山性地震が頻発するなど、

気の晴れない毎日です。

Bachの「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」を、

Karl Richter カール・リヒター指揮で時々、聴いておりますが、

Maurice André モーリス・アンドレのトランペットを聴きますと、

心が晴れます。


★Richard Wagner リヒャルト・ワーグナー(1813~1883)の

「Siegfried-Idyll ジークフリート牧歌」は、

Bach のクリスマスオラトリオが根源、大元であり、

Verdi ヴェルディ(1813 - 1901)の opera オペラ

「La traviata 椿姫」で登場する合唱曲の一部は、意外にも、

「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」と、

ほぼ重なる所が多いなど、いろいろな発見があります。

いずれも、Bachを学びに学び、

学び尽していたということでしょう。

そんなことを、考えながら、聴いています。


★「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」冒頭に、

感動的なティンパニの連打があります。

「Englische Suite Nr.3 イギリス組曲3番」の Gavotte、

18小節目後半~23小節目までの、

左手「g」の 「repeated notes」 に、

「Mordent 」や「Trill」が付いていますが、

これについて、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、

「太鼓を叩くように、鋭くアクセントをつける」と、

校訂版で記しています。

クリスマスオラトリオ冒頭のティンパニと、

同じ位置付けです。

 

 


★このGavotteをはじめとして、「Englische Suite Nr.3」全曲は、

オーケストラを想定して書かれていることは、間違いありません。

前回のブログで書きました Sviatoslav Richter スヴャトスラフ・リヒテル

(1915-1997)の名演奏を聴きますと、

その前の Sarabande がもつ深く沈潜した世界から、

この Gavotte により、一気に天空へと放たれるような、

開放感、喜びに満たされます。


クリスマスオラトリオは冒頭、

イエス生誕を、“いまかいまか”と待ちわびる心の鼓動を、

ティンパニの連打が、厳かに伝えます。

期待に打ち震える心のときめきが、聞こえてくるかのようです。

そして次の瞬間、トランペットが高らかに、

“生誕の扉”を開け放ちます。

天上から眩いばかりの光が降り注ぎ、地上が歓喜で満たされます。

イエスの生誕を、これ以上ない喜びで祝し、

希望と感動の渦に、人々を包み込みます。

天も地も湧き上がります。


★冒頭を聴くたびに、このようなイメージが自然に、

浮かび上がってきます。

短い、この冒頭の音楽がもつ豊饒さは、

なんと表現したらいいでしょうか・・・

 

 


★「Englische Suite Nr.3」の Sarabande を、詳しく見ますと、

反復記号による二部構成ですが、

サラバンドの本体に、細かく装飾を施したサラバンドが、

さらに、追加されています。

「Les agréments de la même Sarabande 同じサラバンドの装飾」

と、書かれています。

ここも反復を伴った二部構成です。


★「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」の

第2楽章は、その装飾されたものを、いきなり提示しているのですが、

「Englische Suite Nr.3 イギリス組曲3番」は、

元の形と装飾版を、同時に並列して、

提示していることになります。


★Richter リヒテルの名演を聴いていますと、

緊張感から解き放たれた Gavotteの心地よさが、

“太鼓”で、より一層納得できるのです。

「Englische Suite Nr.3」は、最初の長大な Preludeこそ、

反復記号はありませんが、続く

Allemande  Courante  Sarabande  GavotteⅠ、Ⅱ   Gigue は、

すべて二部構成で、反復記号が付いています。


★Richterは、それを省略することなく、Bach の意図通りに、

全曲を反復しています。

インタビューで、 Richterは「Schubert の長大なSonataの反復すら

絶対に省略すべきではなく、自分も必ず全部弾いている」

という趣旨のことを、語っています。

 

 


このCDを聴く場合、1回目と反復後の2回目を、

Richterがどのように弾き分けているか、

詳細に、聴き込む必要があります。

その努力により、「Englische Suite Nr.3」の偉大さを、

より深く、理解できるでしょう。

私の「無伴奏チェロ組曲」でも、

Wolfgang Boettcher ベッチャー先生が

反復部分をどう弾いているか、是非お聴きください。

 

 


★そのように見てきますと、

この「Englische Suite Nr.3」 第1曲目の Prelude冒頭は、

弦楽合奏とみなすこともできます。

violin1、violin2、viola、cello の順に

弦楽器が導入され、その上に、管楽器がかぶさるように現れると、

想定することも可能でしょう。
 
32小節目までは tutti総奏で、その後、soloの部分が始まります。

 

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、

「Englische Suiten」について、 次のように評しています。

≪この組曲を、学び、知れば知るほど、

Bach がこの簡潔な作品で示した感情の豊かさと深さに、

感嘆することであろう≫。

Bach を深く分析できる、 

Richter リヒテルのようなピアニストでなければ、

歯が立たない曲といえるかもしれません。

ちなみに、この録音は1991年、Richter リヒテル76歳ごろの、

ライブレコーディングです。

 

 

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