音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Röntgen の平均律校訂版からは、 “詩” がにじみ出る■

2014-04-15 22:07:40 | ■私のアナリーゼ講座■

■Röntgen の平均律校訂版からは、 “詩” がにじみ出る■
~平均律二巻14番 Fuga冒頭の不思議な Fingering の意味 ~
                                 2014.4.15    中村洋子


 


★Bach 「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 の、

素晴らしい校訂版作者として、当ブログで、

たびたび登場します

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)について、

どんな人であったか、簡単に、ご紹介いたします。


★『 ブラームス回顧録集 ② ブラームスは語る 』 (音楽の友社)

に、いくつかの人となりが分かるエピソードが、書かれています。

この本は、 「 ERINNERUNGEN AN JOHANNES BRAHMS 」
by Richard Heuberger
「 KLÄNGE UM BRAHMS, Erinnerungen: Ⅲ.Hochklang 」
by Richard Fellinger を、訳したものです。


★Richard Heuberger リヒャルト・ホイベルガーの著作には、

Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) の死の前年1896年、

当時 41歳前後であった Röntgen との交流が、記録されています。

音楽の才能に溢れ、誠実な人柄であったことが、うかがわれます。







1896年2月3日、Brahmsは、音楽家協会で、ピアニストの
Julius Röntgen ユリウス・レントゲン を紹介した。
彼は「X線レントゲン」の一族であり、音楽一家クレンゲルの親戚だという。
≪室内電話など考えられなかった時代に、レントゲン家には電話線が引かれていた。ピアニストの Röntgen は天才少年でした。作曲も即興演奏も素晴らしく、見事なフーガをいとも簡単に作ってしまいました。モーリッツ・ハウプトマンが高く評価している、ライプチヒのコンサートマスター、 Röntgen さんの息子です≫

★2月5日、Röntgen が「変奏曲とフーガ」を作曲したことについて、
Brahmsは≪どこのどいつか知らんが、「ヘンデル変奏曲」の真似をして、変奏曲を作るなんて、理解できんよ。生意気な奴だ≫と、冗談めかして、暖かく、からかっている様子が、書かれています。


★2月16日、Brahmsは Röntgen のフーガについて、言及している。
≪あれこそフーガ、最高だ。それに引きかえ、ダルベールのフーガは何だ。
俗悪の極み、くずじゃないか≫

★3月24日、グリーグのコンサートを、≪Brahmsと一緒に、お気に入りのRöntgenも聴いていた≫

★11月12日、≪夜はメシュール(声楽家)とRöntgen のコンサート。
午前中、Röntgen がBrahmsに会うと、Brahmsはご機嫌ななめだったそうだ。
Röntgen が、メシュールとSchubert の「白鳥の歌」を、まとめて演奏するといったからだ。これは、まとまった歌曲集ではない、というのがBrahmsの持論。だから、全曲を一度に演奏するなんて「バカのすること」と、突っ込まれたのだ。
Röntgen が「シュトックハウゼンもそうしました」と反論すると、巨匠はこう言ったそうだ。「まああいつは、僕の言うことなんか聞かないからね。いつも駄目だと言っているのに。どうしてもやりたいのなら、構わないけどさ!」

わざわざ、若い Röntgen のコンサートについて、意見をいい、

聴きに行くことからも、Brahmsが、彼に対して、

非常に注目して、評価していことが分かります。








★17日のカワイ表参道 ・ アナリーゼ講座では、

「 平均律第二巻 」 14番 fis-Moll を、勉強しますが、

Röntgen 校訂版を詳しく見ますと、Bach 先生の親切な自筆譜を、

さらにより丁寧に、レッスンして頂いたような気が、しました。


★例えば、 Fuga 冒頭の「subject」には、、下記のように、

cis1 と d2、 そして、fis2 に 「 2 」 の Fingering が、

記されています。

これは、弾きやすい指使いとは、決していえません。







★何故、 「 2 」 を付けたのか、

≪ 弾き難さを強調する ≫ ことにより、

この三つの音を、明確に、意識に焼き付けるという効果を、

狙ったと、思います。


この三つの音をつなぎますと、このように、なります。

驚くべきことに、

4小節から始まる Answer  ( 応答 or 答唱 ) の、

反行形 contrary motion が、現れてきたのです。






★これは、単なる偶然ではありません。

この二つの重要な motif が、その後どう展開されていくか・・・、

講座で、詳しくお話いたします。




★私は、Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 校訂の

 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集について、

その素晴らしさと同時に、厳しさが、前面に出てきているように、

思います。


★一方、Röntgen の校訂版は、

実に明確に、曲の構造が分かると同時に、 “ 詩 ” があるのです。

“ poem ” が、にじみ出てきます。







★Röntgen と Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) との、

交友は、よく知られていますが、Casalsは、

「 Röntgen 、エマニュエル・ムーア、ドナルド・トーヴェイは、

まだ世に認められていないが、大変に、優れた作曲家だ。

必ず、彼らの時代が来る 」 と、

「 鳥の歌 」 ジュリアン・ロイド・ウェッバー編 ちくま文庫で、

書いています。


★Sir Donald  Tovey,ドナルド・フランシス・トーヴィー( 1875 - 1940)
  (born July 17, 1875, Eton, Berkshire, Eng.—died July 10, 1940, Edinburgh, Scot.), English pianist and composer, known particularly for his works of musical scholarship.
Tovey studied the piano and counterpoint and graduated from the University of Oxford in 1898. Between 1900 and 1902 he gave recitals of his works in London, Berlin, and Vienna. In 1903 he played his Piano Concerto in London, and between 1906 and 1912 he organized concerts of chamber music at Chelsea. Besides the Piano Concerto his compositions include two string quartets, the opera The Bride of Dionysus (first produced in 1929), and a cello concerto ...
                     Written by The Editors of The Encyclopædia Britannica


Toveyは、 ≪BACH'S THE ART OF FUGUE and A COMPANION TO

THE ART OF FUGUE≫ で有名ですが、

2013年にDOVERから復刊されました。







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● アナリーゼ講座

■日  時 :  2014年  4月 17日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

 ■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

 ■予  約:     Tel.03-3409-1958

■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。

日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

 2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

 07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

 08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
    CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

 08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

 09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

 

10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

 

10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

 

     「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

 

11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 

12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

 

13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

 

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 

       スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

  



 

★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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