ベラルーシの部屋ブログ

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詩「広島」を日本語に翻訳しました

2020-09-10 | ベラルーシ文化

 今日、9月10日にベラルーシ文化芸術大学で第2回ベラルーシ文化国際学術会議が開催される予定でした。

 ベラルーシ文化芸術大学の助教授、ユリヤ・ヤロツカヤ先生と共同論文を執筆し、この会議上で発表することになり、登壇を依頼されていたのですが、開催は中止になりました。

 理由はコロナウイルス感染拡大防止のためです。ただ論文は今月中にまとめられ出版される予定です。論文集の出版を会議開催に代えるという連絡が大学側から来ました。

 私はベラルーシの詩人シャルヘイ・ジャルハイの詩「広島」をベラルーシ語から日本語に今回翻訳していました。それを論文の中で取り上げ、二カ国語で会議の席上朗読する予定だったのです。

 今日、発表できなかったのは残念ですが、論文集の中に翻訳が掲載されるのはありがたいことです。ただ発表する予定が延びてしまいました。そこで、このブログ上で「広島」は発表したいと思います。

・・・・・・・

広島

 

石の廃墟の上で

永遠に

君の姿は戻らない

死と苦しみの

広島。

灰は

混乱を生き埋めにし、

そして、安寧は見つからず

私たちの心の底で澱となる。

広島。

私たちは愛し、忘れない

私たちは探し続け、望みを捨てない

私たちは信じ、支えよう。

私たちは支えよう

広島を。

一分、

黙祷の一分で哀悼を捧げよう

起こったことを思い出しながら・・・

ほんのわずかな時間であっても、

広島に。

兵器による永遠の静寂、

世界の黙祷

記憶を讃えよう

君の犠牲を

広島の。

いつか時が来る。

春、花が世界中に咲く時が

そして、再生し復活する。

君の静かな栄光が

広島の。

 

・・・・・・・

 シャルヘイ・ジャルハイ(Сяргей Дзяргай. 1907-1980)によるベラルーシ語原詩はこちらです。

 

Хірасіма

На каменні руін тваіх

Адвіты 

На вечныя векі

Смерць і пакуты,

Хірасіма.

Попел жывы 

Поўніць бязмежжа

І, не знаходзячы спакою,

Асядае ў нашіх сэрцах,

Хірасіма.

Мы любім і помнім,

Мы шукаем і спадзяемся,

Мы верым і змагаемся.

Змагаемся,

Хірасіма.

Адна хвіліна,

Хвіліна жалобнага маўчання 

У памяць таго, што было, – 

Гэта вельмі мала,

Хірасіма.

Вечным маўчаннем гармат,

Цішынёй вечнага міру

Ушануем памяць

Ахвар тваіх,

Хірасіма.

Прыйдзе час:

Ўся зямля будзе ў веснім цвеце

І адродзіцца, уваскрэсене

Ціхая слава твая,

Хірасіма.

 

 引用先 Дзяргай С. Чатыры стыхіі, Мастацкая літаратура, Мінск, 1988, ст. 39-40 

この作品は1957年に書かれました。(どうしてこの年に「広島」という詩をベラルーシで書いたのか不明ですが、この年はアメリカでプラムボブ作戦という核実験が繰り返し行われていた年なので、報道を見て広島の原爆のことを想起したのかもしれないですね。)

 1行目の「石の廃墟」というのは原爆ドームのことだと思います。

 私の同僚の図書館司書の話によれば、作者のシャルヘイ・ジャルハイ(1907−1980)はベラルーシで特別有名でも人気のある詩人というわけではないそうです。ミンスク生まれミンスク育ちで文芸雑誌の編集長をしながら、ロシア語やポーランド語の詩をベラルーシ語に訳したという功績のある人です。

 おそらく来日したこともなく、広島に何かゆかりのある人だとも思えません。

 そうであるにも関わらず「広島」という題名の詩を書いたのはなぜなのでしょう。

 それはやはり、反戦、反核、そして平和を願う強い気持ちから、この作品を書いたのではないでしょうか。

 ベラルーシの詩人がずっと以前に、「広島」という詩をベラルーシ語で書いてくれていたこと、日本人の私は全く知りませんでした。

 しかし、この詩がアジア諸国を紹介する本に再録されたのを偶然、職場(図書館)で見つけて、日本語に翻訳しようと思いました。

 翻訳したので今日、ベラルーシ文化国際学術会議上で発表したかったのですが、残念ですね。

 出版を待ちたいと思います。このブログ上で一足早く発表することにしましたが、読んでくださった日本の皆様、ありがとうございます。

 ベラルーシの詩人が広島の原爆について思いを馳せ、被爆者に心を寄せて書いた詩だと思います。

 ベラルーシから日本へのその思いを日本人の私は大切に受け止めたいと思っています。

 


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