ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

今年の文部科学省奨学金留学生募集

2024-05-31 | 日本文化情報センター
 日本人の皆さんは知らない方が多いですが、日本政府(文部科学省)が毎年世界中から国費で外国人留学生を日本の大学や専門学校などに招聘しています。
 ただし、各国で選抜試験があり、当然ですが狭き門です。
 ちなみに現在、日本の大学や大学院でこの制度で学んでいる外国人は全部で9000人以上で、出身国内訳は飛び抜けて中国が多いです。
(このいわゆる外国人国費留学生制度について、日本国民の税金で給付型の奨学金が毎月11万〜14万円、各外国人留学生に支払われているのですが、こういう国が税金でしていること、日本の皆様は知っておいたほうがいいと私は思いますよ。)

 今日はベラルーシでこの選抜試験の申し込みの締切日でした。
 ベラルーシは人口も少ない小国で日本との縁も少ないし、日本語学習者も多いわけではないので、現在3つのプログラムのみで募集されます。
 わかりやすく説明すると「大学院留学」「大学留学」「専門学校留学」。
(もう一つ日本語専門に一年間だけ研修に行けるプログラムもありますが、条件が大学で日本語を専攻している学生のみで、しかも大学間の取り決めが重要なので、大学のような教育機関ではない日本文化情報センターの生徒は申し込みすらできませんので、このプログラムのことは意識の中にありません。)

 さらに上記の3つのプログラムのうち、それぞれ1名ずつしかベラルーシの場合選ばれません。要するに一つの国から3人のベラルーシ人しか国費留学はできないということです。
 優秀なベラルーシ人が選ばれないことには、日本政府が奨学金を払う意味がないです。
 ベラルーシではプログラムの種類や年によって違いますが、だいたい8人に1人とか10人の1人とかの倍率です。
 100人に1人の倍率という国もありますが、そのような国からは全部で数十人選ばれます。
 ベラルーシは3人だけです。
 
 今年は弊センターからは3名の日本語生徒が挑戦しますが、書類選考を通ると次に筆記試験、それを通過すれば面接があります。

 ・・・とここまではこの留学コンクールの説明でしたが、私が言いたいのは別のことです。
 日本政府が3人でも優秀なベラルーシ人を日本で学べる機会を与えてくれているのはいいのですが、問題なのはベラルーシ側です。
 ベラルーシは6月が卒業シーズンなのですが、そのためかわざと1か月ほど前に新しい法律を作りました。高校の成績証明書(内申書)の複写は法的無効とするものです。
 つまり、ベラルーシの高校生が大学入試のために内申書を提出するのは、原本(本物)の内申書なので問題がない。しかし、留学コンクールなどで求められる内申書の複写は法的に無効としたため、使えない。そうするとそもそも無効な書類を作成する必要性はないと判断する学校側が内申書の複写をくれなくなったのです。

(こうすることによって、国内の大学進学はできても、外国の大学や教育機関の進学や留学ができなくなります。つまり、ベラルーシ政府は自国民の若者が出国することを阻止したいのです。すでに20万人が政治的経済的理由で出国してしまい、出生率も下がり、ベラルーシの人口が減少してしまったからです。そして労働力不足、兵員不足になっています。日本は人口減が社会問題になっていますが、ベラルーシも同様なのです。
 日本では「最近の若者は内向き志向になった。留学とか海外での仕事に消極的だ。気概がない。」と批判している人もいますが、ベラルーシ政府が聞いたら「国内人口が減少しているんだから、若者が内向き志向なのは大歓迎すべきなのに。こっちはいかにして若者が国外へ行かないようにするか悩んで、こんな法律まで作ってるのに。」と思うでしょうね。
 日本人からしたらベラルーシなんて国、共通点などないと思われがちですが、実は同じ社会問題を抱えています。)

 今回の留学コンクール申し込みには、弊教室からは4名の希望者がいたのですが、うち1人は内申書の複写を提出することができず、参加できなくなったのです。
 放課後、本人が泣きながら私に話してくれたのですが、それによると、2年前に卒業した(在籍中の高校生でなくても、「大学留学」「専門学校留学」希望者は高校の最終学年とその1年前の学年の成績証明書を提出しないと、申し込みができない。)高校へ行き、内申書の複写をくださいと頼んだところ、
「え? 何のために? 留学コンクールの申し込みのため? どこに留学? は? 日本? だめです! 日本はダメ! 日本は現在ベラルーシの非友好国リストに載っているんですよ!」
と校長先生や教頭などに囲まれて、拒否され、挙句には
「日本に永住するのか? ますますもってだめ! え? 留学であって永住するわけではない? でもダメ! あーあ、中国かロシアに留学するんだったら、いくらでも成績証明書でも校長からの推薦文も出せるのに。日本はだめ! 今はそういう法律なんです!」
とわざわざベラルーシの外務省が作った「ベラルーシの非友好国リスト」の一覧表まで鼻先に突きつける始末。
 挙句には「そんなに日本に行きたいなんて! あんたは外国の代理人? スパイなの?!」
と何の根拠もないことを言われました。
 こんなことが今のベラルーシの高校の校長室で起こっているんですよ。

 ちなみに内申書の複写だけではなく、学校の校長あるいは教員の推薦状もコンクールの申し込みに必要なのです。
 もちろん、この生徒に誰も推薦状など書いてくれません。

 しかし、日本文化情報センターの生徒のうち3人は申し込みができました。
 それは校長先生や担任の先生が、親切な人たちで、内申書の複写ではなく「簡易版の成績証明書」を出してくれたからです。このように出身高校の校長が、頑固に法律厳守の方針の人なのか、生徒の将来にチャンスを与えたいと法の抜け道を思いついてくれる人なのかによって、日本留学コンクウールに参加できるかできないか運命が変わってしまうのです。

 また毎年7月中旬に行われていた留学コンクールが今年はなぜか6月になったので、高校の成績証明が「まだ卒業試験が終わっていないから成績証明がしたくてもできない。」と学校側から言われたり、大学生の申込者は「まだ大学の後期試験が終わってないから、成績証明が出したくても出せない。」と大学から言われて、とにかく申し込み書類を完全に揃えることができず、大変でした。
 来年は6月末申し込み締め切り、7月にコンクール(筆記試験と面接)実施のスケジュールに戻してほしいです・・・。
 
 とは言うものの、日本の文部科学省や現地の日本大使館の都合に合わせないといけないので、こちらからの意見(ベラルーシ事情)は誰も耳を貸してくれないのでしょうね。
 ただ日本大使館側からも、高校生に対して、「内申書が出たらその後で追加で提出してください。とりあえず筆記試験を受けられるようにしてあげます。」と締め切りに猶予を持たせてくれたようです。良かったです。

 余談になりますが、留学コンクールの筆記試験の日程を6月6日と日本大使館HPで発表していたのですが、この日はいわゆるベラルーシのセンター試験最終日なんです。
 センター試験の日程など、とっくの昔にベラルーシ教育省が発表しているのに、やっぱりベラルーシの日程や規則に疎いのか、日本留学コンクールの筆記試験をこの日にすると決めてしまう日本大使館・・・。
 案の定、「私、その日センター試験受けに行かなきゃ行けないんですけど、そうしたら留学コンクールに出られない! どうしたらいいんですか?!」という問い合わせ(苦情)の電話が複数、日本大使館にかかってきたそうです。
 あきらめず苦情を言ったおかげで、留学筆記試験の日が6月7日に変更になりました!

 それはいいんですが、筆記試験の日程が変更されたことを日本大使館は公式HPのトップページに大きく表示するべきだと思うのですが、そういうことをしないのです。
 私は生徒に聞かされるまでずっと6月6日だと思って、それに合わせて授業のスケジュールを組んで、仕事のシフトも決めていたのに、またやり直しですよ。
 さらに今度は「6月7日は私、大学の後期試験の日なんですけど!」という大学生も出てきたでしょうね。すると大学を卒業できません。
 また6月6日も7日も平日なので、申し込み希望者の中には社会人になっている人もいるので、それに合わせて、欠勤届を出さないといけないのに、いつの間にか筆記試験の日程を変更して、それをトップページで知らせないのは、困りますね。

 とこのように大変な状況です。
 日本文化情報センターでは、留学コンクール参加者に対して今月15日から特訓授業を行なっています。
 最終結果は6月末までに本人に通知されます。弊日本語教室の生徒の結果発表はその頃に弊ブログでもお伝えする予定です。

・・・・・

 6月8日の追記です。
 今回の留学コンクール筆記試験を受けた弊教室の生徒によると・・・
 ベラルーシから上記の「専門学校留学プログラム」に申し込んだ人はゼロでした!
 やはり、高校の内申書の複写を出身高校からもらえず、申し込みに必要な書類を集められなかったベラルーシ人が今年は多かったものと思われます。
 さらに「大学留学プログラム」に申し込んだのは7人(うち3人が弊教室の生徒)で、「大学院留学プログラム」には9人でした。激減しています。
 大学院留学には高校の内申書を提出しなくてもいいのですが、大学側からの成績証明と推薦状が必要なのです。
 やはり外国の大学に留学(人材の国外流出)を阻止するよう国からお達しが出ているようで、大学によっては推薦状を出してくれないケースも増えているようです。
 コロナ前の2019年にはこの3つのプログラムに合計50人ほど申し込んでいたことを考えると、日本への国費留学はベラルーシでは狭き門ではなくなっているのかもしれません。
 うちの生徒からするとラッキーなのかもしれませんが、見方を変えれば、その分優秀な人材が日本に来なくなるということです。
  


 
 

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