拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

三大テナーその5(歌わないこと山のごとし=東京の客)

2021-02-28 09:38:21 | 音楽
パヴァロッティがデビューして間がない頃、故郷の劇場でロドルフォを歌ったときの録音がある。「冷たい手」のハイCをばちっと決めた瞬間、会場がざわつき、アリアが終わってやんやの拍手。おらが村のルチャーノが見事に歌ったばい!って感じである。ざわついたどころじゃなかったのが中国公演。パヴァロッティがハイCを決めたその瞬間にやんやの騒ぎ。アリアがまだ終わってないのに、である。ちょっと話が逸れるが、ウィーンの国立歌劇場でフィデリオを見たとき、フローレスタンのアリアが終わって後奏が鳴っているさなか、一人の客が拍手。すると、指揮者(ラインスドルフ)がそちらに顔を向けて首を横に振ってダメダメ(私、上の方の席だったのでその様子がよく見えた)。で、完全に曲が終わってからさっきの方向を見て今度は首を縦にふってイイヨ。ってなことがありました。オペラ公演にもお国柄が出る。いや、日本国内だって地域差がある。ドミンゴのソロ・コンサートでは(あっ、この話はドミンゴのときにすべきだったか。でも、書き出しちゃったからいいや)、アンコールで「乾杯の歌」を歌って、そのとき必ず聴衆に向かって一緒に歌おうと誘う。手を耳にかかげて、聞こえないよといって催促する。しかし、東京の客は頑として歌わない。歌わないこと山のごとしである(信玄か)。しかし、九州公演の映像を見たら、なんと客が大きな声で一緒に歌ってる。一瞬、九州のファンと中国のファンが重なったワタクシであった。そんな具合にパヴァロッティの録音・映像はやまほどあるが、フレーニと組んだボエームの映像はなかなか出なかった(この二人は、SEX以外は全部一緒にしたという幼なじみ同士で、オペラでも黄金コンビである)。ようやく出たと思ったら、なんと、パヴァロッティのハイCが「シ」になっている。音を下げてこのアリアを歌う例はやまほどある(カレーラスもそう)。しかし、パヴァロッティが音を下げたら「キング・オブ・ハイC」の名が泣くというもの。「ハイC」じゃなくなっちゃうんだから。まあ、仕方がない。それが時の流れというものである。因みに、三大テナーが日本で公演をしたとき、アンコールで「あーあー、ときのながれのよーにー」を歌ったが、きちっと歌っていたのはドミンゴ。パヴァロッティはテキトーだった。そう、パヴァロッティと日本語は相性が悪い。メトの引越公演でパヴァロッティがネモリーノ(愛の妙薬)を歌った時のこと、私は会場にいたのだが、どうも舞台上のパヴァロッティが挙動不審。おまけにフシを間違える。ちょっとどうしちゃったの?と思ったらすぐ謎が解けた。「オブリガート」というところを「ありがーと」に置き換えて歌ったのだ。アイディアは秀逸だったが、パヴァロッティにとっては日本語は荷が重かったのだろう。気もそぞろで、だから挙動不審で間違えたんだろう。最後にパヴァロッティを生で聴いたのは、それから数年後、ヴェルディのレクイエムのテナー・ソロだった。もう、始まる前からわくわくして、どんなに素晴らしい「♪キーリーエーー、エ、エーーーーーエ、レーエエエイソーン」が聴けるかと思っていたら、なんだか立っているのもしんどい様子で、歌もまったく期待はずれだった。トリノの冬季五輪で歌ったのが口パクだったことがばれたりしたのもその頃だった。