麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第687回)

2020-03-22 18:57:26 | Weblog
3月22日

岩波文庫から「火の娘たち」の、野崎歓さんによる新訳が出ました。「シルヴィ」を読みました。とてもよかったです。これまで、何度か読んでいてそんなことは思いつきもしなかったのですが、これはネルヴァルの「グレート・ギャッツビー」ですね。シルヴィには「でも、分別をもたなければね」、オーレリーには「あなたはドラマを求めている、それだけのことよ。結末は手にはいらないわ」といさめられる「僕」は、“人生にフラれた男”(私自身の言葉)であり、ギャッツビーのように殺されるか、作者その人のように首をくくりに行くかしかない。この世にはしょせん合わない人間です。シルヴィやデイジーやオーレリーを手に入れるのは、いまならLINEなどでまめに女の相談相手になり、現実的な満足をあたえてやる俗物――子供のころ男同士で話をしていても、女が近づいてくると、すぐにふりむいてそちらへの対応に夢中になるタイプの男――たちなのです。そうして、世の中にとっての余計者は、彼らを俗物とよぶ阿呆たちのほう。阿呆に才能があれば、作品として、その不幸と絶望を昇華させることもできますが、なんの才能もない阿呆は毎日をただ耐えながら死ぬのを待つことしかできない。――みじめな人生です。

書き忘れました。「シルヴィ」の、訳者による解説は過不足なく、平明で、完璧だと思いました。
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