prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ムッシュとマドモアゼル」

2021年10月08日 | 映画
ベルモンドがおカマのスターとそのスタントマンの二役を演じるという、もともとスタントを自分でやるベルモンドにとってはいつもやっていることを役を二つに割って演じているみたいな構造。

クライマックスのヘリコプターから縄梯子でぶら下がって上に複葉機の翼の上に降り立つスタントははっきり顔を晒していて見せ方とすると素朴な分効果的。

ただ二役が共演する、階段を転げ落ちるスタントの後にスターの方がすました顔でタバコに火をつける場面はスローモーションで転げ落ちてスターのアップに切り替えるところでカットを切り替えているので、なんで監督が何度も撮り直すのか意味がなくなっていてどうも間延びする。

原題はL'animal 動物。いったん仕事にあぶれたベルモンドがゴリラのぬいぐるみをかぶるアルバイトをやったり、クライマックスの大金持ちの屋敷に動物の大群が乗り込んでいったり、特にストーリー上は意味なくベルモンドが本物の虎と格闘する(じゃれ合う程度だが、相手は虎ですよ)するシーンがあったりする。

相手役はラクェル・ウェルチ。正直このあたり('77)から映画の出演は減ってテレビに軸足が移る。わかりやすいグラマーなのがベルモンドにお似合い。スタントウーマンには見えないが。
あまりおカマ演技は大げさにやっていない。合わないと判断したか。二役の合成は素朴。




「行き止まりの世界に生まれて」

2021年10月07日 | 映画
ほとんどカメラとパソコンだけで作ったみたいなドキュメンタリーで、製作費の低減によってこれまで撮れなかった世界がその世界にいる人間によって撮られることになった。
12年にもわたって記録するというのも現場を通り越して現地の人間でないと難しいだろう。

こうなると外から撮りに来るジャーナリストのあり方もさらに問われることになりそう。
編集時のシンクロ用に手を叩かせて音を録る。アナログ以前の手作業という感じ。

被写体になる人間が撮られることにかなりあからさまに抵抗や違和感を訴えるのも、どういう世界なのかを知らせる。

昔のニューヨークみたいに見るからに物騒という感じではないが、目につかないところがいつの間にか荒廃しているあたり、近い将来の日本にも通じそう。






「クーリエ 最高機密の運び屋」

2021年10月06日 | 映画
特別な訓練で特殊な技能を身につけたスパイがキューバ危機という世界が吹き飛びかねなかった危機を防ぐ極秘情報を盗んだのかと思うと、まったくの素人が情報を運んだというのが意外でもあり、いかに素人に化けるのがスパイの羊蹄だとしたら、初めから素人がやればいいということになる?のが皮肉で面白い。

本格的に亡命が現実味を帯びてくるとどこで盗聴されているかわからないからはっきり言葉を交わさなくなるのが、サイレント映画的な純化された映画表現に近づく。

一種の国も立場も越えた友情が(盗聴されているせいもあって)はっきり言葉にできないまま感じさせる。
バレエ「白鳥の湖」を見ながら万感の思いでいっぱいになる二人の表情もいい。

ソ連の監獄で排泄物を入れておく容器の蓋を開けてツーンと鼻をつくというか目に染みるような匂いがするような演技が本当に感じが出ていた。




「殺人鬼から逃げる夜」

2021年10月05日 | 映画
口がきけず耳が聞こえないヒロインとあって、危機を逃れるのに目の見えないヒロインのサスペンスものと比べるとややハードルが低くなるかなと思っていたら、別のアプローチをかけてきた。

これくらい殺人鬼が堂々と初めから顔をさらしてきて、一般人や警察に逃げ隠れしないのも珍しい。
ヒロインが助けを呼ぼうとしてもうまく意思が伝えられないから周囲の人間は口の旨い殺人鬼に丸め込まれてしまうのが見ていてハラハラというかもどかしくてたまらないというのが基調。

警察を頼ったり大勢人がいるところに来ても、助けて欲しいという意思が伝えられないと役に立たないというのが巧い。どれだけ普段も孤独なのかという暗示にもなっている。

最初の方でヒロインが会社の接待でお酌係を務めるところで、取引先の男どもが立場の強さに乗じてセクハラ丸出しの態度をとるのに、相手がわからない手話でくたばれとニコニコしながら言うのがユーモラスであるとともに意思の疎通の絶望的な欠落を早くから見せる。

これにもう一人殺人鬼に捕まって監禁されている女性とその兄が絡む。このマッチョな兄が
殺人鬼がヒロインを自分の妹だと言いくるめようとしたり、この兄と妹という男が女を庇護するものという通念の具現化があちこちで変奏されるのも新手。健常者と障碍者との関係にも当然だぶる。

やたら高低差が激しい夜の住宅街で展開される追っかけは絵面が「チェイサー」を思わせた。

警察や軍人がおよそ当てにならないあたり、韓国映画の体質としてお上を信用していない感じ。

ヒロインのチン・ギジュ はそのまま日本のアイドルにいてもおかしくない容姿。
殺人鬼のウィ・ハジュン が優男風な分、蛇みたいなぬるっとした厭らしさをのぞかせるのが効く。




「プロフェッショナル」

2021年10月04日 | 映画
かなりシリアスに振れたベルモンド主演作品。
裏切られてアフリカの独裁国に無実の罪で服役して強制労働に虐待を受け、囚人仲間と脱獄し(ホントにベルモンドはよく脱獄する)フランスに舞い戻って復讐を果たそうとする。

女と再会すると留守中に男ができたのがわかったりと、ダンディなのは相変わらずだが笑いは封印気味。

復讐を果たす時も一方的に闇討ちするのではなく、堂々と昔の西部劇の決闘のように呼吸を合わせて同時に撃ち合うようにしているのはシリアスな中のダンディなところを見せる。やはりスターなのです。

本国では大ヒットしても日本では当時劇場未公開になったのもシリアスさが敬遠されたか。

ベルモンドを全面的にフューチャーした上にエンニオ·モリコーネの音楽がかかるタイトルが格好いい。





「MINAMATA ミナマタ」

2021年10月03日 | 映画
ユージン·スミスの写真展は東京都写真美術館で何度か催されているが、自分が見たのはあえてなのか水俣の写真以外を集めたものだった。

ちらっと冒頭で見えた二人の幼児が草木のトンネルを抜けていく「楽園への歩み ニューヨーク郊外」、第二次大戦でも沖縄だけでなくサイパンで追いたてられる日本人、米軍内部のスナップ、日本国内でも工場や労働者、地方を巡回する医師や助産師の組写真など。
強いてまとめると生活者の視点というのが基本にあるように思った。美的要素を追求するカメラマンというより、フォト・ジャーナリストという印象。

スミスの写真はモノクロばかりで、今の目で見るとかなり素朴な道具で現像定着をしているのが興味深く、水俣病で手が不自由な少年でもある程度扱えるくらい。
富士フイルムのカラーフィルムのCMに出るのにあたって、広告する品を実は使ってないのがバレると気にするのが妙に説得力ある。
しかし、モノクロ写真というのはここではちょっとしか出て来ないが、凄い触発力があるのを改めて思った。

ロケは日本ではなくセルビア、モンテネグロで行われたというのは聞いていたが、恐れていた程違和感はなかった。
エンドタイトルで流れる人たちの名前の多くに-vić がついている。現地の人たちだろう。

スミスがどうやって酒浸りからカメラマンあるいはフォトジャーナリストとしての命を甦らせるのかという過程は必ずしもわかりやすく辿れるようにはなっていない。というか、目覚めたり眠ったりといった感じ。
日本でも酒とタバコは手放していない(サントリーウイスキーを呑んでる)。
むしろすでにかなり身体が弱っている中の最後の一花といった印象。
デップはスミスをかなりヤケ気味にもなった危なっかしい人物として自分を被せているのではないかと想像した。

スミスがドラム缶風呂に入るシーンにかかるストリングスの曲が「ラスト·エンペラー」に似ているなーと思ったが、同じ坂本龍一だものね。

國村隼のチッソ社長が型通りの企業悪ではなく、どこか後ろめたさを感じているようながら立場上ああいう態度しかとれないといった日本にありがちなトップのニュアンスをよく出した。

ビル·ナイ(も、プロデュースに参加している)の期待を上回る仕事をスミスがしてきた時の編集者冥利につきるといった喜びの表現が見事。
真田広之の抗議者像が力強い。

見ていて、買収工作や放火などこれはリアリティーないのではないかと疑った描写は、案の定というか創作なのが後でわかった。
事実に基づくとはいってもハリウッド映画の大方が創作なのは知っているが、モチーフに対してこの創作が本当に必要なのか、相応しいものかといったら疑問。

こういう創作が混じっていても、水俣が知られるのは意義のあることではないかという意見と、外国(主に白人)の視点をそんなにありがたがることがあるのか、水俣を世界に知らしめるのに尽力した人は国内にも大勢いるという意見と両方あって、正直どちらにも理はあると思えて、どちらかに与するのは難しい。




「アノマリサ」

2021年10月02日 | 映画
チャーリー·カウフマン監督脚本で初の人形(オブジェクト)アニメ。
アニメといってもほとんど生の人間と変わらないような演技で、内容も通常だったら実写でやるようなのをあえて人形でやっているようで、あちこちにデフォルメが入ってくる。

出てくるキャラクターが少しの例外を除いて全部同じ顔をしているのなど、人形でやった方がコピーという以上の実在感が出る。
そういうフレゴリの錯覚(早変わりとモノマネを得意としたイタリアの喜劇俳優、レオポルド・フレゴリ(1867-1936)の名にちなむ)という症状が本当にあるらしい。

人形が演じるセックスシーンなどかえって人間がやるより生々しくて気恥ずかしいくらい。
日本製のダッチワイフが人形と人間の結節点に置かれた格好。

「マルコビッチの穴」以来、奇想と奇手の一方で、意外と内容と心情はマジメだったりする。




2021年9月に読んだ本

2021年10月01日 | 
読んだ本の数:25
読んだページ数:6043
ナイス数:0

読了日:09月01日 著者:中川 洋吉





読了日:09月02日 著者:吉田豪





読了日:09月04日 著者:押見 修造





読了日:09月06日 著者:沖田×華





読了日:09月06日 著者:沖田×華





読了日:09月07日 著者:汪楠




 
読了日:09月08日 著者:近代食文化研究会





読了日:09月09日 著者:みなもと太郎





読了日:09月10日 著者:黒沢清,篠崎誠,樋口泰人





読了日:09月10日 著者:宇能鴻一郎





読了日:09月12日 著者:黒沢清





読了日:09月12日 著者:谷崎潤一郎





読了日:09月14日 著者:山岸 凉子





読了日:09月15日 著者:さいとうたかを

これが9月24日に亡くなったさいとう先生の生前最後の出版になった。
 
読了日:09月15日 著者:岩本憲児





読了日:09月16日 著者:バラク・オバマ





読了日:09月16日 著者:バラク・オバマ





読了日:09月17日 著者:深爪





読了日:09月17日 著者:サイモン・シン





読了日:09月17日 著者:サイモン シン





読了日:09月18日 著者:吉川 一義





読了日:09月19日 著者:スティーヴ・ハルフィッシュ





読了日:09月19日 著者:猿渡 由紀





読了日:09月25日 著者:網野善彦





読了日:09月26日 著者:平賀 緑