prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「すべてが変わった日」

2021年08月15日 | 映画
ビリング(配役序列)でトップなのがダイアン⋅レインなのが意外。ケビン⋅コスナーが先に来るものだと思い込んでいたこともあるし、コスナーはプロデュースにも参加しているし、あと「ウォーターワールド」や「ポストマン」のいささかワンマンだった頃の印象もあるし、なのだが、「ドリーム」あたりから一歩引いて悪目立ちしないようになっているみたい。

Netflixで先日見た「この茫漠たる荒野で」同様に「捜索者」の木霊が響いている。
つまりアメリカにおける白人と先住民との間の子供の交換によって種族が存続することの必要性と心理的抵抗が拮抗している、アメリカの一種の原罪性みたいなもの。
現代劇だというのにほとんど西部劇と地続きな精神風土。




「スウィング・キッズ」

2021年08月14日 | 映画
岡本喜八の戦争ものみたいに前半はミュージカル⋅コメディ調で、終盤に戦争や国同士の対立に個人が押し潰されて命まで奪われる悲劇に転調する。捕虜収容所という舞台設定で、所長が所内のレクリエーションあるいは自己宣伝のためにダンスをやらせるというのもアメリカ(映画)っぽい。
岡本喜八もこれくらい製作費使ってミュージカルやりたかつたのではないかとちょっと思った。

D.O.(ド・ギョンス)、パク・ヘス、オ・ジョンセなどダンスの技量が全員見事。
アメリカから参加のフレッド⋅アステア賞(という賞があるのね)受賞者のジャレッド・グライムスは 調べてみるとテレビの「フリンジ」にゲスト出演しているほかは映像の仕事をほとんどしていない。いきなり映画、それも韓国映画でダンスの技量を見せるのだからどうやってキャスティングしたのかと思う。
撮り方が少しカメラを動かし過ぎなのは気になった。




「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」

2021年08月13日 | 映画
邦題はライトノベルみたいに妙に凝っているけれど、原題はシンプルにHorizon Line。

「元カレと」墜落するのがイヤなのではなくて、単に墜落するのがイヤなのであって元カレとは協力しあう仲。
それも別に危機にあたって仲直りするわけではなくて、その前から焼け木杭に火がついていたのだし、考えてみると初めから本当に喧嘩していたわけではなくて、仕事に対する価値観の違いや住みたい場所が違うのですれ違っていただけで、いちゃいちゃしている方がずっと長い。

このあたりドラマ的におよそ凝ろうとしていないのが潔く、一緒に乗った小型飛行機のパイロットが心臓発作で死んでしまい後はとにかく二人協力してなんとか不時着してでも助かろうとする一点で押しきっている。
アメリカ映画得意の(なぜかスウェーデンと合作だが)シンプルにして線の太い展開。
上映時間も92分と最近では最も短い。

空の上を飛んでいるシーンが大半を占めていて、翼の上を這っていくところなど本当に撮れるわけがないのだが、作り物くささ、合成くささがまったくない。
登場人物はほとんど二人だけの小品といっていい作りなのだが、疑似体験ものとしてほぼ申し分のない出来。

主演の二人、アリソン⋅ウィリアムズとアレクサンダー⋅ドレイマンともにごく分かりやすい美女美男。




「マーティン・エデン」

2021年08月12日 | 映画
2019年と最近の映画なのにざらっとした画調だなと思ったら、撮影はスーパー16、つまり16ミリフィルム。
フィルムで撮るという試みに関しては大いに効果的。

ジャック・ロンドンの自伝的小説の映画化。最近、鹿島茂の渋沢栄一伝を読んでいてロンドンがハースト系の新聞に排日運動を煽る記事を書いていたというくだりがあったので出てくるかと思ったら関係なし。

主にイタリアでの社会主義運動との関わりが描かれ、映画自体もイタリア・フランス・ドイツ合作でイタリア語が多いなのもそのせいかと思わせる。どうハーストと結びつくのか。
主演のルカ・マリネッリがやたらと男前。




「聖なる犯罪者」

2021年08月11日 | 映画
若い犯罪者が聖職者のふりをしてひなびた村に赴任したら、罪についてはなまじの聖職者よりなじんでいるものだから村人に受け入れられてしまい、というはストーリーからすると「俺たちは天使じゃない」みたいなコメディ寄りの作りにもできたろうけれど、ポーランド映画ということもあってか、かなりマジメな調子で若者が救いを求める姿を追っている。

スマホでアンチョコを見ながら告解を聞く場面など笑わせる方にもっていってもおかしくないけれどあまりそういうサービスはしない。

少年院のリンチやラストの殴り合いなど、暴力がキリスト教的な試練=受難のイメージに収まっている。
ポーランドは世界有数のカソリック国だそう(ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世はポーランド出身だった)。




「カポネ」

2021年08月10日 | 映画
晩年の梅毒が脳にまわって幻覚や妄想に悩まされるようになった頃のカポネを描くという着想は面白いけれど、そこどまりの印象が強い。

幻覚シーンで映像的にはあれこれ工夫を凝らしているのだけれど、基本的にカポネの頭の中だけで展開しているイメージだからどうしても単調になる。
ところどころに配置されたドンパチも敵をやっつけてスカッとするというわけにはいかない。

邸宅に住んではいても絶えずFBIに見張られていて財産もはりぼてみたいなものという現実的なあたりをもっと突っ込んで描くともう少しドラマとしての結構が整ったと思う。

トム・ハーディのメイクは大いに凝っているけれど、凝りすぎて表情が乏しくなった。




「白蛇:縁起」

2021年08月09日 | 映画
ヒロインのハクの長身で細身、目が釣りあがって黒目が大きいというキャラクターデザインは、今風のモデル体型でもあるが、本性のヘビにも見合ったものとも見える。
姉妹ペアということもあって、「アナと雪の女王」っぽくもある。

今どきのお肌つるつるで固いもの食べていないような芸能人っぽいキャラクターデザイン。中国もああいうのが主流なのかなと思わせる。

名前がパクで白い巨大なヘビが龍になれば「千と千尋の神隠し」のハクみたいでもある、というより東映動画の元祖「白蛇伝」からの縁もあるのだろう。

中国は魑魅魍魎の本場だから、次々と出てくる妖怪が日本のそれとは違う新鮮なデザインをみせる。変な言い方だけれど三つ頭の鳥の馬車など、後で考えるとキングギドラっぽくもある。

スペクタクルの見せ方もハリウッド式の大づかみかつ物量作戦的で、中国アニメもあちこちから吸収しているなと思わせる。
日本語吹き替え版しか上映されていない、というよりもともと字幕版が小規模公開されてから今回三森すずこ、佐久間大介(Snow Man)らが吹き替えたことで付加価値をつけて拡大公開したということらしい。




「17歳の瞳に映る世界」

2021年08月08日 | 映画
原題はnever rarely sometimes always。
文章ではなくて、アンケートの選択肢の「全然ない」「まれに」「ときどき」「いつも」のこと。

カウンセラーがヒロインが妊娠に至ったであろう場面をいくつも読み上げてヒロインが答えていくうちに、自ずとその時は気づかなかった強制性が見えてくる。
カメラはヒロインに密着し、男はまったく画面に出てこない。そこから逆にヒロインがいかに疎外され、いないことにされているのかがわかる。

ヒロインが一緒に行動するもう一人の女の子につきまとう男の存在がウザくもあり、かといってこれまたいないことにはできない。
男とキスしている間に絡ませる指がいつ離れるのかなんとも危うくてスリリング。




「マイ・ビューティフル・ランドレット」

2021年08月07日 | 映画
イギリスでのパキスタン移民二世とイギリスのパンク青年との同性愛を描く。
ずいぶん先駆的といえば先駆的。
ダニエル⋅デイ⋅ルイスの最初期の主演作であり、パンクな感じとクラシックで端正な容貌ですでにただものではないオーラびんびん。

ランドレットとはランドリーのことで、これが汚いんだ。




「SEOBOK ソボク」

2021年08月05日 | 映画
奇しくも先日の「Arc」で不死の問題を扱ったのと軌を一にして、永遠の命を持つクローンのパク・ボゴムが奪取されたのを取り返しに行った元情報員コン・ユのロードムービー仕立てのバディもので疑似兄弟ものという骨格がしっかりしている。
その上で命の意義というをかなりマジメに問う一編。

回想シーンの処理がやや手際悪く、過去のいきさつを説明するのは画面にするより韓国らしくキリスト教の納骨堂の写真の前でセリフで処理した方が情感が出た。

超能力の描写が大友克洋の「童夢」か「AKIRA」かという迫力。
パク・ボゴムの童顔とコン・ユの適度にやさぐれた顔のコントラストがいい。

韓国映画の得意技というのか、見下した相手をとことんバカにする態度がむかつくし、そいつをやっつけるのが気持ちがいい。




「この茫漠たる荒野で」

2021年08月05日 | 映画
トム·ハンクスが先住民カイオワ族に育てられた少女を送る「捜索者」の木霊が響くようなNetflix作品。
監督は「ジェイソン・ボーン」シリーズのポール·グリーングラス。

さすがに西部劇とあってカメラワークは落ち着いているが、敵を岩山で迎え撃つところの緊張感演出は簡潔で確か。
少女役のヘレナ・ゼンゲルが二つの文明の間で育ったニュアンスを出して、セリフがカイオワ語だけなのだから作った芝居なのは確かなのに芝居の作りが見えない好演。

何しろトム・ハンクスだから「捜索者」の全編を貫くジョン・ウェインの憎悪の代わりにジェイムス・スチュワートの善意がとって代わる。




「科学者とジェンダー」

2021年08月04日 | 映画
論理的で知的な仕事の筆頭という印象の科学者の世界にも厳然として性差別はあるのを知らせるNetflix製ドキュメンタリー。

ただ、予備知識として実例をいくつかは知っていた。
キュリー夫人が夫ピエールを交通事故で失い他の妻子のある男と関係している最中に二度目のノーベル賞を受賞したのだが、不倫を理由に受賞するかどうかもめたこと。
本来だったらジェームス・ワトソンとフランシス・クリックと一緒にDNAの二重らせん構造の解明者としてノーベル賞をとっていなければおかしかったロザリンド・フランクリンがワトソンの中傷で外されたこと。(このエピソードはニコール・キッドマン主演の芝居Photograph 51になっている)。
余談だがそのジェームス・ワトソンは女性差別・人種差別発言を繰り返してバイオ研究所所長の座を追われ、現在は中国・深圳の研究所の名誉顧問になっている。
ドイツ首相アンヘラ・メルケルは物理学者だったが、性差別からそちらの道を諦め、政治家を目指したこと、などなど。

ただこのドキュメンタリー自体はエピソード主義であるよりはかなり科学的・分析的な構成をとっていて、差別を大学当局に認めさせるにもデータをとって突きつけることで状況改善を勝ち取るのを山場にしている。

科学者ですら認識の歪みがある、というより、実は科学者が特に歪みが少ないわけではなく、科学の本質として歪みがあったら他者の検証を受けるから正されるというだけのように思われる。
しかし、現実社会での研究には研究費やポストの獲得といった生臭い要素が絡まらざるを得ず、実態としては他社会同様に歪みが放置されてきたといえるだろう。

たとえば日本のSTAP細胞騒動などドラマでもドキュメンタリーでもいいが作品にたらずいぶん興味深いものになると思う。取り扱い注意には違いないだろうが。


8月3日のおもしろ画像

2021年08月03日 | Weblog

「プロミシング・ヤング・ウーマン」

2021年08月02日 | 映画
出だしから、ヒロインを酔ってると思って絡んでくる男たちに酔ってないところを示して自分の意思をはっきり示すところで、やや不自然なくらい男たちがうろたえる。

通常だったら女を舐めっぱなしで力づくでどうにかしようとしてもおかしくないはずだが、女に意思があるのとを伝えるだけでうろたえる。
あからさまな暴力は重要な小道具である動画を含めて画面からはとりあえず排除されている。
それだけに直接的な暴力描写が現れると、その暴力性(に映画を見ている側も麻痺していたことに)愕然とする。

登場しないといえば、ヒロインにとって無二の親友というかそれ以上の存在のニーナという女性も昔の写真でしか姿を現さない。
演技自体がシーンによって異なる仮面のようでもあり、演技性を観客にもだが、男たちをあからさまに見せつける。

男たちが酔って意識を失っていると思い込むのは、初めから女の意思を無視しているからであり、それ以上に存在そのものを失念している。

構図とすると、ジョディ⋅フォスターが最初のオスカーを受賞した「告発の行方」のような集団心理の悪ノリによる性犯罪の面はあるのだが、法によって裁くとか個人的に暴力に暴力をもってリベンジするといった解決をどちらもとらない。
そういうのを見せものにして性と暴力を商品化し消費するという無意識的な押し付けをこの映画の作者は拒否している。女の存在と意思の無視とあらかじめ当然のように基準化されたシステムに組み込まれるのをどう逃れるかという戦略と知性が大きな成果を上げた。

ヒロインの父親役がクランシー・ブラウン。「ハイランダー 超空の覇者」のタフな悪役や「ショーシャンクの空に」の看守長など憎まれ役が多かったけれど、ここでは髪の毛が真っ白になって娘を心配する父親の枯れた感じを出している。




2021年7月に読んだ本

2021年08月01日 | 
読んだ本の数:21
読んだページ数:4380
ナイス数:1

読了日:07月01日 著者:諸星大二郎




読了日:07月01日 著者:諸星大二郎




読了日:07月04日 著者:



 

読了日:07月04日 著者:竹宮惠子





読了日:07月04日 著者:萩尾望都





読了日:07月06日 著者:ちばてつや





読了日:07月10日 著者:荒川弘






読了日:07月14日 著者:阿曽山大噴火,門倉卍貴浩





読了日:07月15日 著者:サイモン・シン





読了日:07月15日 著者:サイモン シン





読了日:07月15日 著者:沖田×華






読了日:07月15日 著者:沖田×華






読了日:07月16日 著者:柳下 毅一郎





読了日:07月17日 著者:鴻上尚史





読了日:07月19日 著者:秋月 りす





読了日:07月21日 著者:増田俊也,原田久仁信




読了日:07月21日 著者:増田俊也,原田久仁信





読了日:07月25日 著者:宮部 みゆき





読了日:07月28日 著者:もちぎ





読了日:07月28日 著者:枝野 幸男





読了日:07月31日 著者:町山 智浩